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日本ファンタジーノベル大賞2017受賞作。
「あいつ」が現れてから私たちの平凡な日常は一変した、はずだった――。

  • 受賞第1回 日本ファンタジーノベル大賞2017

隣のずこずこ

柿村将彦/著

1,620円(税込)

本の仕様

発売日:2018/03/22

読み仮名 トナリノズコズコ
装幀 真造圭伍/装画、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 250ページ
ISBN 978-4-10-351661-3
C-CODE 0093
ジャンル SF・ホラー・ファンタジー
定価 1,620円

中学3年生のはじめが住む矢喜原町に突如、伝説の「あいつ」と謎の美女・あかりさんがやって来た。なんでも1カ月後に「あいつ」は町を破壊し尽くし、町民はみな丸呑みにされるという。え、マジすか? はじめたちは計画阻止のため、ゆるゆると奔走するのだが……。全選考委員興奮&絶賛の新時代のファンタジー小説!

著者プロフィール

柿村将彦 カキムラ・マサヒコ

1994年、兵庫県尼崎市生まれ。大谷大学文学部卒。2017年10月、「隣のずこずこ」で日本ファンタジーノベル大賞 2017を受賞。

書評

閉じられた「現実」を拡張する少女

神谷達生

 4年ぶりに再開した日本ファンタジーノベル大賞受賞作の舞台は、人口300人程度の小さな集落「矢喜原」。この地方では、「権三郎狸の話」という奇妙な昔話が代々語り継がれており、それを知らぬ住民はいない。村人を一人残らず丸呑みしたうえ、火を吐いて村を全滅させた巨大な狸の伝説だ。
 全校生徒で10人しかいない中学校に通う少女「はじめ」の一人称で語られる小説の冒頭、ゴールデンウィーク後半の5月5日。彼女はクラスメイトからの電話で、権三郎狸が現れたことを知らされる。狸が逗留しているらしい村の古い旅館に半信半疑で向かうはじめ。果たして、信楽焼の狸の置物そっくりな1メートル半ほどの2本足歩行する化け物は実在した。「狸憑き」の女性あかりさんとともに、5月1日に村にやってきていたのだ。災いはすでにはじまっていた。
 狸憑き以外にはその声が聞こえない権三郎狸の代わりに、あかりさんから1ヶ月後の矢喜原の破壊が宣告された後、正式なルールが伝えられる。主なものは、次の通りである。
・狸の徹底した破壊の後には人も建物もなにも残らない。
・狸は到着した時点で村にいた人全員を確実に呑み込む。
・狸に呑まれた村や人のことは誰にも思い出せなくなる。
 残された時間は3週間ばかり。知らぬ間に権三郎狸のシステムに組み込まれていたはじめを含む住民たちはしかし、突然降りかかった冗談のような厄災にたいして、疑問を差し挟むでも、抗うでもなく、諦め、悟ったかのような態度を示す。黙々と農作業を続けるおじさん、最後の晩餐さながらにバーベキューをはじめるクラスメイトの一家、海外への逃亡を企てる家族……すべて、近々権三郎狸によって引き起こされる悲劇を前提にしたうえでの行動である。姉に乱暴した同級生の伊藤を、はじめが半殺しにするという過激な事件も発生するが、それもまたこうした流れの延長線上でしかない。
「もう起こってしまったことなのです。しかたがないと、どうぞ諦めてください」
 そんなあかりさんの声を明確に拒絶したのは、町外出身の2人である。矢喜原に赴任していた若い米内先生は、この事態に耐えきれず「壊れて」しまった。そして、もう1人。2年前に引っ越してきたはじめの同級生恵美は、権三郎狸への反撃を計画し、はじめを誘う。曖昧な態度でそれを断ったはじめだが、彼女の生への強い執着に接したことで、気持ちに変化が訪れ、物語は大きく動き出していく。
 タイムリミットまで2週間に迫った頃、空き家の放火が頻発する。これにたいする住民たちの反応が面白い。町で暮らすほとんどの男性で構成される消防団を挙げて、権三郎狸を見張るというのだ。理解の範疇を超えた状況に戦わずして降参していたはずの大人たちは、目に見える具体的な問題のためなら行動を惜しまないようである。それならきっと、自分たちで解決できるかもしれないと思えたのだろう。
 さらに、権三郎狸にまつわるもう1つのルールが明かされる。
・狸は狸憑きにはなにも忘れさせてくれない。
 あかりさんは、権三郎狸によってこれまで壊滅させられたすべての村や人を記憶させられている。不条理なルールを背負わされた彼女もまた、ただの「役割」でしかなかったのだ。そんなあかりさんから、自身にまつわる「ある過去」を知らされたはじめは、いよいよ立ち上がる。〈わからんものはわからんで仕方ない。それを無理矢理解釈してしまおうとするのは無茶だ。といって丸投げにするのも愚かだ。だったらそのどちらでもなく、わかる範囲だけで何とかすればいい〉。少女は、この「運命」に自分なりに立ち向かうことを決意するのだ。
 ところで、「権三郎狸のいない」世界で暮らす私たちはいったい、何を「わかっている」というのだろう。村の消防団の面々同様に、目の前のことには向き合うが、既に起こってしまったことや、コントロール不能なことにたいして、考え、行動することを放棄してしまってはいないだろうか。あるいは、わけのわからないことを理解できる範囲に収めて、勝手に納得してしまっていることはないだろうか。そこから目を逸らし、無かったことのように振舞っていることは? はじめはそうした生き方を拒否し、自らの頭で考える道を選択した。この小説は、閉じられた「現実」を自分なりに拡張した少女の成長譚である。そして同時に間違いなく、いまを生きる私たちともつながっている物語なのである。

(かみや・たつお ライター/プロデューサー)
波 2018年4月号より
単行本刊行時掲載

新たな門出にふさわしい、独創的なファンタジー

大森望

 酒見賢一、佐藤亜紀、佐藤哲也、池上永一、山之口洋沢村凜宇月原晴明畠中恵西崎憲森見登美彦越谷オサム西條奈加仁木英之遠田潤子小田雅久仁勝山海百合古谷田奈月……。数々の才能を世に送ってきた日本ファンタジーノベル大賞が、4年間の空白を経て、鮮やかに甦った。出版不況のこのご時世、小説新人賞が中断したり休止したり衣替えしたりはぜんぜん珍しくないが、一度休止してから復活するのはたいへん珍しい。もともとは後援だった版元が主催にまわるのも異例だが、新潮社にとって、それだけ大事な賞だったということか。と、新しい受賞作に触れる前に、過去25回の歴史を簡単にふりかえっておこう。
 この賞の始まりは、国産ファンタジー小説の黎明期にあたる1989年。同じ年に創設された第1回ファンタジア大賞で準入選したのが、のちにライトノベル・ファンタジーの大看板となる神坂一『スレイヤーズ!』。児童文学の世界では、まさにこの年、上橋菜穂子が作家デビューを飾っている。そんなビッグイヤーに誕生した日本ファンタジーノベル大賞は、しかし、第1回の大賞受賞作に、狭義のファンタジー要素(魔法とかドラゴンとか)を含まない架空歴史小説、酒見賢一『後宮小説』を選んだことから、独自路線を歩みはじめる。第2回鈴木光司が『楽園』で優秀賞。第3回は、佐藤亜紀の歴史幻想小説『バルタザールの遍歴』がダントツの評価で大賞を受賞。このあたりから、ジャンルの枠に収まらない、国産スリップストリーム文学の牙城というイメージが強くなる。佐藤哲也『イラハイ』(5回)、池上永一『バガージマヌパナス』(6回)、井村恭一『ベイスボイル・ブック』(9回)、粕谷知世『クロニカ』(13回)、西崎憲『世界の果ての庭』(14回)、平山瑞穂『ラス・マンチャス通信』(16回)、小田雅久仁『増大派に告ぐ』(21回)――という具合。
 同時に、創設当初は、SF作家志望者の登竜門という役割も果たし、第4回優秀賞『昔、火星のあった場所』の北野勇作、第6回最終候補『ムジカ・マキーナ』の高野史緒、第7回優秀賞『糞袋』の藤田雅矢らが続々デビューしている。
 一方、ファンタジー出版界では、99年に大変動が起こる。ご存じ『ハリー・ポッターと賢者の石』の大ヒット。児童書の翻訳ファンタジーは空前の出版ラッシュとなり、やがて日本でも、(児童書でもライトノベルでもない)一般向けのファンタジーがジャンルとして確立。そんな時期にこの賞から出現したのが畠中恵の時代ファンタジー『しゃばけ』(13回優秀賞)。現在までにシリーズ累計800万部という驚異的な大ヒットとなり、第1回吉川英治文庫賞にも輝いた。
 また、異色の妄想恋愛小説『太陽の塔』で第15回大賞を射止めた森見登美彦が『夜は短し歩けよ乙女』でミリオンセラーを記録して作品が続々アニメ化されたり、第3回最終候補作『六番目の小夜子』でデビューした恩田陸が『蜜蜂と遠雷』で直木賞と本屋大賞のダブル受賞を果たしたり、日本ファンタジーノベル大賞出身者の活躍は最近もつづいている。
 しかし、2013年、読売新聞社とともにこの賞を支えてきた清水建設(最初の10年間は三井不動産販売)が主催を降りたため、同賞は惜しまれながら休止することに。それから4年――。新潮社主催・読売新聞社後援の新体制のもと、前述の恩田陸、森見登美彦と萩尾望都を選考委員に迎えて昨年復活の狼煙を上げ、この春、めでたく最初の受賞作となる柿村将彦『隣のずこずこ』が出た。
 この題名は、もちろん「となりのトトロ」を踏まえたものだろう(応募時タイトル「権三郎狸の話」)。語り手の女子中学生が暮らす(たぶん現代日本の)片田舎に人間サイズの狸(外見は信楽焼きそっくり)がやってきて……という導入は、なるほどジブリっぽい。しかし、版元ウェブサイトを見ると、本書のキャッチコピーいわく、「衝撃のゆるふわダークファンタジー」。何それ? 形容矛盾じゃないの? と思うわけだが、読んでみるとまさにこれ。“衝撃”と“ゆるふわ”と“ダーク”が違和感なく同居する不思議。たしかにファンタジーだが、一種の終末ものであり、愉快な家族小説であり、切ない思春期小説でもある。現在形を多用した力強く饒舌な語りと、胸に迫る喪失感……。舞城王太郎のデビュー作を初めて読んだときの感覚をちょっと思い出した。ファンタジーノベル大賞の新たな門出にふさわしい、独創的な傑作だ。

(おおもり・のぞみ 書評家)
波 2018年4月号より
単行本刊行時掲載

目次

1章 五月五日
2章 伝説の狸、来襲
3章 角材マン
4章 ぼやけていく頭
5章 燃え続ける空き家
6章 私死ぬから
7章 五月三十日

選考委員コメント

ゾッとしたし、衝撃を受けた。時代とシンクロした、〈2017年の〉ファンタジーノベル大賞にふさわしい作品。

恩田陸さん


読んでいくだけで、自然とさまざまな思いが胸に浮かんでくる。それはこの作品がすぐれたファンタジーであるからだと思う。

森見登美彦さん


本当に面白かった。エピソードはすべて絵として立ち上がってきましたし、文章も気持ちよく、次回作も読んでみたいです。

萩尾望都さん

書店員さんコメント

圧倒的な諦観と破滅世界への進行、お話そのものは恐くないけど、この物語を受け入れる自分が恐くもあります。なんて新しい読書感覚でしょうか!

喜久屋書店阿倍野店 市岡陽子さん


あまりにも理不尽に終末を迎えようとしている村。しかも突然ずこずことやってきた「あいつ」によって。笑えないのに笑えるブラックかつ冷静な文章がクセになる。ものすごく面白い!!

大垣書店イオンモールKYOTO店 辻香月さん


面白さのスピードが最後まで全く落ちなかった!! 展開を予想してもことごとく裏切られ、ラストはびっくりするくらい胸にストンッと落ちて、何なんだこの完璧な物語は。と、思わずゲラをにぎりしめました。

ジュンク堂書店松山店 木﨑麻梨子さん


ファンタジーだし、ミステリーだし、ホラーだし、なにより青春小説だった。「一体、この先どうなるんだ?」とラストまで、ハラハラドキドキが止まらないとんでもない小説でした。

ブックスタジオ大阪店 渋谷宙希さん


「あいつ」があらわれてから街が恐怖につつまれる!? と思いきや、ほとんどの人がその運命をうけいれていて、人間の心理の怖さだと思いました。同世代の人がこんな物語を書けることにただただおそろしさとうらやましさを感じた。本当にすごい。

須原屋武蔵浦和店 宮内穂の佳さん


暗闇の中、うしろを振り返りつつ進んで歩くときの感覚ににている。こわいけれど進まないのもこわい。少しずつ分かることと、結局わからないこと。全てが気になりその謎がこの魅力になっている。

蔦屋書店ひたちなか店 中村麻美さん


呑み込まれるまでの一か月、このままゆるゆる流れると思いきや……! のどかな冒頭からは想像できない展開に、読んでいる方が右往左往してしまいました。読後、まさかこのタイトルにゾッとするとは。

丸善松本店 田中しのぶさん


「不条理な怪異」とはこういうことだったと頭をはたかれた気もちになった。どこかコミカルなのに容赦のない展開は、登場人物達の個性とあいまって私達に納得させてしまう力を持っている。

宮脇書店本店 藤村結香さん


狸がズコズコ歩く姿は想像すると何だか可愛げがあるのに得体が知れないところが異常に恐い。おかしみを含んだ狂気に満ちていました。

文教堂二子玉川店 高橋茜さん

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