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朝鮮半島の歴史―政争と外患の六百年―

新城道彦/著

1,925円(税込)

発売日:2023/06/21

  • 書籍
  • 電子書籍あり

韓流ドラマでは分からない「歴史の深層」を解き明かす!

ソウルの独立門は、日本ではなく清からの独立を意味して建てられた――そんな基本的な事実すら日本や韓国で知られていないのはなぜか。気鋭の研究者が、朝鮮王朝の建国から南北分断に至る長い道のりを、国内の政治闘争と周辺国のパワーバランスに着目して描き、朝鮮特有の政治力学の因果を浮き彫りにする決定的な通史。

  • 受賞
    第45回 サントリー学芸賞 思想・歴史部門
目次
はじめに
第一章 朝鮮王朝の建国
1.王氏から李氏への易姓革命
元に服属した高麗/李成桂を支えた二人の鄭氏/煮え切らない親明路線/遼東遠征をめぐる対立/威化島回軍/李成桂派の権力掌握/明が決めた「朝鮮」の国号/王氏の抹殺と遷都
2.支配基盤の整備
朝鮮の身分制度/世子選定をめぐる不満/第一次王子の乱/第二次王子の乱/李芳遠の即位と「朝鮮国王」/父の最後の抵抗/太宗への権力集中
3.揺らぐ王権
優秀な若手を登用した世宗/議政府署事制に改め王権を縮小/作られた「聖君」のイメージ/癸酉靖難/度重なるクーデター未遂/専制君主の体制づくり/世祖を支えた側近たち/貞熹王后による垂簾聴政
4.熾烈な派閥争い
士林派と勲旧派/嫁と姑の争い/士林派の弾圧/燕山君の乱心/中宗反正/士林派の登用と挫折/大尹派と小尹派/士林派の分裂と党争のはじまり
第二章 華夷秩序の崩壊と朝鮮の危機
1.日本の侵略
士林派の内部分裂―東人と西人―/分裂の連鎖―南人と北人―/豊臣秀吉の要求/漢城陥落/宣祖の逃避行/朝鮮の義兵や水軍による反攻/明軍の参戦/秀吉が示した講和条件/和議破綻の真相/再戦/秀吉の死/戦争の終結
2.迫りくる女真族の脅威
粛清で政権基盤を固めた光海君/仁祖反正/李グァルの乱/後金に睨まれた朝鮮/人質を送り兄弟国の盟約を結ぶ/清国の成立
3.清の侵略と朝鮮の属国化
ホンタイジの侵攻/屈辱的な三跪九叩頭の礼/小中華意識/昭顕世子の怪死/服喪期間が論争の種/四大朋党の抗争/粛宗の移り気が党争を誘発/党争の激化で老論が多数失脚
第三章 終わりなき政争と沈みゆく王朝
1.蕩平策の功罪
公平な人事で党派を抑える/李麟佐の乱/英祖と世子の不和/米櫃のなかで餓死した世子/思悼世子の子が即位/洪国栄の栄達と転落/英祖とは異なる正祖の蕩平策/天主教弾圧と南人勢力の退潮/遷都を計画して国庫を傾ける
2.勢道政治と相次ぐ民乱
天主教の大弾圧/勢道政治のはじまり/洪景来の乱/安東金氏を牽制した孝明世子/豊壌趙氏のもとで強まる天主教弾圧/社会不安の高まりと「異様船」の出没/流刑囚が国王に即位/大規模な民乱/東学の出現
3.大院君と閔氏の争い
高宗の即位/頑強な排外主義者/開国の好機を逃す/革新的な施策で恨みを買う/聡明な王妃閔氏と意志薄弱な高宗/大院君を権力の座から引きずり下ろす
4.朝鮮を開いた日本の挑発と清の勧告
旧例を破る日本への警戒/江華島事件/開化派の躍進/壬午軍乱/急進開化派と穏健開化派/甲申政変/高宗のロシア接近/自主と属国のバランス
第四章 清・日本・ロシアの狭間で
1.親日と親露の角逐
金玉均の日本亡命/屍体を切り刻んで晒す/東学と農民の蜂起/日清開戦と甲午改革/大院君の裏工作/李ジュニ鎔の量刑をめぐる苦心/朝鮮の「独立」/ロシアに傾倒する王妃を排除/断髪令をきっかけとして各地で叛乱勃発
2.大韓帝国の成立
ロシア公使館に逃走/独立門を建立/大韓帝国の誕生/独立協会・万民共同会vs高宗/高宗の側室が抱え込んだ過去/死刑囚の高永根が高宗の功臣となる/日本とロシアの軍事衝突/大韓帝国の保護国化
3.日本による韓国併合
旧独立協会系と東学教徒の合同/宮中の近代化/高宗の譲位/日本兵による地方民の弾圧/李垠の東京留学/韓国併合への動き/併合の予備交渉/大韓帝国側が提示した二つの条件/寺内が詠んだ歌の真意/日本の経済的負担
4.抗日独立運動の諸相
高宗の国葬を機に三・一運動発生/大韓民国臨時政府と李承晩/金九の台頭とテロリズム/朝鮮人共産主義者たちの動き/金日成の抗日闘争
第五章 朝鮮半島の分断
1.戦後の主導権争い
戦後をめぐる話し合い/アメリカの方針転換/北緯三十八度に引いた境界線/朝鮮総督府の対応/建準の左傾化と「朝鮮人民共和国」の樹立/米軍政庁と韓国民主党の提携/李承晩の帰国/総団結を阻害した李承晩の反共演説
2.遠のく独立
朝鮮共産党北部朝鮮分局の創設/金日成をトップに据えた体制/モスクワ外相会議と臨政の反託運動/米軍政庁を敵とするか味方とするか/異論を排除し北朝鮮の「政権」を発足/左派が信託統治に賛成した理由/大邱の大暴動
3.国家樹立の理想と現実
民主基地論と北朝鮮労働党の結成/李承晩の南朝鮮単独政府樹立構想/米ソ共同委員会の再開と決裂/国連で南単独選挙案を可決/北朝鮮に利用された金九/大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国
4.朝鮮戦争の帰結
統一に向けた策動/朝鮮戦争の勃発とアメリカの対応/中国の参戦/終わらなかった戦争
おわりに
あとがき/参考文献

書誌情報

読み仮名 チョウセンハントウノレキシセイソウトガイカンノロッピャクネン
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 296ページ
ISBN 978-4-10-603900-3
C-CODE 0320
ジャンル 歴史読み物、歴史・地理・旅行記、世界史
定価 1,925円
電子書籍 価格 1,925円
電子書籍 配信開始日 2023/06/21

書評

朝鮮独特の「政治の磁場」

小此木政夫

 我々が隣接する朝鮮半島は政治的には「不毛の地」である。域内的にも国際的にも、調和や安定を欠いている。それは何をきっかけに、いつ発火するかわからない。歴史的にも、「近寄りすぎても不可、離れすぎても不可」という独特の「政治の磁場」であった。本書は我々にそのことの再確認を迫っている。
 本書の著者は、六百年に及ぶ朝鮮半島の歴史を「政争」と「外患」の観点から俯瞰したうえで、それを日本による韓国併合や第二次世界大戦後の独立と分断の現代史と結び付けて解釈した。朝鮮王朝の「目をそむけたくなる歴史」を直視したうえで、「朝鮮半島が分断している現状はもちろん異例であるが、それと同時に、七〇年以上にわたって〈独立〉を維持していることもまた異例」だと指摘する。王朝史を俯瞰してこそ見えるものがあるようだ。
 ところで、評者はかつて戦後の朝鮮分断を「独立と統一の非両立性ないし相克」と定義したことがある。それは「独立を達成しようとすれば統一が不可能になり、統一を実現しようとすれば戦争が不可避になるという不都合な状態」に着目するものであった(『朝鮮分断の起源』、慶應義塾大学出版会、2018年)。しかし、著者はむしろ二つに分断された韓国と北朝鮮が、それぞれ長期にわたって独立を維持していることに注目した。朝鮮史においては、それこそ例外的だというのである。「分断による抑止」とか「分断による平和」という言葉が頭に浮かぶ。
 1392年に太祖(李成桂)が始めた朝鮮王朝が最初に滅亡の危機に瀕したのは、豊臣秀吉の軍勢が朝鮮に侵攻したとき、すなわち十六世紀末の文禄・慶長の役による。首都である漢城は開戦から二十日間で陥落した。朝鮮が滅亡しなかったのは、明が参戦して日本の軍勢を押し返したからである。しかし、その明が疲弊し、日本が鎖国に向かうなかで、再び朝鮮半島の勢力均衡が失われた。1637年、朝鮮は清の皇帝に即位したホンタイジに攻め込まれ、四十日余りの籠城の後に降伏して服属を誓った。
 他方、その間にも朝鮮国内では「党争」が激しく、それが国難への合理的な対処を妨げた。それに対抗するために、国王の側も英祖・正祖の代には「蕩平策」(特定の党派への過度の依存を避け、勢力均衡を図る政策)を採用した。しかし、それに行き詰ると純祖の代には寵臣や外戚の専横を許す「勢道政治」が始まった。王朝政治のためにさまざまな政治技術が開発されたが、党争を収束できなかったのである。政治腐敗と自然災害で民衆の生活は困窮し、民乱が頻発した。
 さらに、やがて宗主国である清自身がアヘン戦争、アロー戦争、太平天国の乱など、内憂外患の深刻な状態に陥った。自らが西欧列強に領土を侵食されるなかで、清は富国強兵を進める日本を警戒して朝鮮への干渉を強めた。朝鮮の独立をめぐる日清の対立が深刻化したのである。さらに、日清戦争に勝利した日本が内政改革を通じて朝鮮政治への干渉を拡大すると、朝鮮はロシアに接近した。その先に待ち構えていたのが日露戦争と韓国併合であった。
 ところで、著者は朝鮮王朝がすでに破綻の危機にあったことを前提にすれば、日本は「なぜ」自国の負担になりかねない国を併合したのかという興味深い問いを発し、伊藤博文と山県有朋が異なるアプローチを採ったことを紹介している。ちなみに、著者は『天皇の韓国併合』という研究書をまとめた専門家である。
 伊藤は韓国併合に反対であった。併合のコストが大きすぎたからである。日本が大韓帝国を統治して、その破綻に瀕した国家財政を引き受けるよりも、むしろ韓国を保護国として内政を改革させ、経済を振興して自国を防衛させることが重要であると考えた。将来的には、そのような韓国と同盟して、日本の安全を図るという戦略方針を描いていたのである。そのために、伊藤は韓国の宮中改革に着手し、次代の皇帝と目される皇太子の李垠を東京に留学させた。長期的な計画であった。
 しかし、1909年10月にハルビン駅頭で伊藤が安重根に暗殺されると状況は一変した。伊藤に代わって最高実力者となった山県有朋やその下にあった寺内正毅陸軍大臣などの陸軍閥は、統治コストを顧みることなく、韓国併合に突き進んだのである。それは思慮不足に由来する「小さな失敗」にすぎなかったかもしれないが、満洲事変にまで繋がる後戻りのできない「大きな失敗」の出発点でもあった。大英帝国がヨーロッパ大陸との間の数百年の経験を経て「栄光ある孤立」を維持したことから学ぶべきであった。
 このように、本書は朝鮮王朝史を俯瞰し、朝鮮半島の独特の「政治の磁場」を浮き彫りにすると同時に、日本外交の在り方をも考えさせる内容になっている。

(おこのぎ・まさお 慶應義塾大学名誉教授)
波 2023年7月号より

著者プロフィール

新城道彦

シンジョウ・ミチヒコ

1978年、愛知県生まれ。九州大学大学院比較社会文化学府博士後期課程単位取得退学。博士(比較社会文化)。長崎県立大学非常勤講師、九州大学韓国研究センター助教、新潟大学大学院現代社会文化研究科助教などを経て、2023年6月現在、フェリス女学院大学国際交流学部教授。専攻は東アジア近代史。単著に『天皇の韓国併合―王公族の創設と帝国の葛藤―』、『朝鮮王公族―帝国日本の準皇族―』(山本七平賞推薦賞)、共著に『知りたくなる韓国』など。

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