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新しい進化理論「環境変動説」は言う。最強より「そこそこ」が進化する!

強い者は生き残れない―環境から考える新しい進化論―

吉村仁/著

1,404円(税込)

本の仕様

発売日:2009/11/25

読み仮名 ツヨイモノハイキノコレナイカンキョウカラカンガエルアタラシイシンカロン
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 252ページ
ISBN 978-4-10-603652-1
C-CODE 0345
ジャンル 生物・バイオテクノロジー
定価 1,404円

約40億年という生物史を振り返ると、生き残っているのは「強い者」ではなかった。ダーウィン進化論にはなかった、「環境は変動するもの」という斬新な切り口から、「協力行動」という生き残り戦略に注目する。終章では自由市場主義の瑕疵まで論及。ダーウィンから総合学説に発展した進化論に、いま「環境変動説」が加わる。

著者プロフィール

吉村仁 ヨシムラ・ジン

1954年、神奈川生まれ。ブリティッシュ・コロンビア大学研究員、インペリアル・カレッジ個体群生物学センター研究員などを経て、現在は静岡大学創造科学技術大学院教授およびニューヨーク州立大学併任教授、千葉大学客員教授。専門は数理生態学で、主に進化理論を研究している。1987年に発表した環境不確定性の論文が、進化理論研究の第一人者、英国のメイナード・スミスらが書いた「Nature」レビューに引用され欧米で一躍注目を集めた。一般書に、『素数ゼミの謎』(文藝春秋)、『17年と13年だけ大発生? 素数ゼミの秘密に迫る!』(ソフトバンク クリエイティブ)、『生き残る生物 絶滅する生物』(日本実業出版社、共著)など。

書評

「最適」よりも「そこそこ」

西成活裕

 人類が地球に誕生したのが約四百万年前。一方、昆虫の起源は四億年前といわれている。人類の知恵は、昆虫の獲得してきた知恵に比べたら浅はかなもので、我々は生物からもっといろいろなことを学ばなければならない。そういったことを真剣に考えさせられる最高の一冊がついに出た。
 我々は進化の最終到達点にいる高等動物である、と考えるのは大変な驕りである。人間ももちろん例外ではなく、進化と絶滅の大きな流れの中にいる存在なのだ、と四十億年の生物史を深く知る著者は語る。どういう生物がこれまで長い間生き残ってきたかを調べれば、自ずと真の持続可能社会の姿が見えてくるのだ。
 進化論で知られるこの分野において、環境変動という視点がこれまでの研究には欠けていたと著者は主張する。自分の形質や遺伝子を持つ子孫を残すことのできる「強い者」が繁栄する、というのがダーウィンの説だったが、それは環境が変化しないことが前提であった。しかし生物にとっては、不確実な環境への対応こそが生きていく上で最も重要なことなのだ。
 例えばライチョウの羽の色は夏には黒褐色だが、雪の降る冬は白になり、これにより外敵から見つけられにくくなる。しかし暖冬で雪が少ないときもある。気候を予測することはできないので、集団の中には冬でも黒褐色のものがある割合でちゃんといるのだ。これではもちろん最適ではないが、絶滅を避けるという意味では素晴らしい知恵だ。ある環境に対して最適に進化していくのではなく、どんな環境にもそこそこ耐えられるように進化していくことが長期存続のためには重要なのだ。さらに環境の安定期にも、将来の環境変化に備えて突然変異によって多様性を常に増やしている。こうして生物は様々な保険をかけて環境変動に対処しており、子孫を最大限残す強者になるのではなく、絶滅しない戦略をとっている。
 さらに環境に対応して生存率を上げるためには、生物は集団を形成してお互い様々な利他行動をとる知恵を持つ。エスキモーの社会でも厳しい寒さを皆で乗り切るため、赤ちゃんを交換して育てることで、集団の絆を強くしているそうだ。
 生物は繁栄よりも存続することを優先する。これを企業に置き換えてみよう。いま無理に儲けても、数年後に倒産しては意味がない。したがって「儲ける」から「倒産しない」に発想を変えると、多くのことが見えてくる。社会も同じで、成長より存続であり、そのためには協調と利他が何より重要であり、利己では生き残れないのだ。
 本書は、世界が現在直面している経済の閉塞感に確かな見通しを与えている。読んでいると、迷える人類よ自然に学べ、という著者の叫びが聞こえてくるようだ。変動する環境こそが選択する、という「環境変動説」の誕生の瞬間に立ち会うことができた興奮はいまだ醒めない。

(にしなり・かつひろ 渋滞学者・東京大学教授)
波 2009年12月号より

目次

まえがき
第一部 従来の進化理論
第一章 ダーウィンの自然選択理論
「環境」という言葉は使われなかった/生まれることより、生き残ること/相対適応度と平均適応度/「霧のロンドン」と黒い蛾/進化の速度は思ったより速い
第二章 利他行動とゲーム理論
人はなぜ溺れる子を助けるのか/溺れる子を助けない理由/ウソつき村は滅びる/にわか成金と歴史ある富豪とのちがい/協調すれば救われる
第三章 血縁選択と包括適応度
子供を作るより姉妹を助けた方が得/エスキモーの子育て/血縁選択か集団レベル選択か/操作される行動
第四章 履歴効果
三つ子の魂百まで/インカの王に数千の妻/昆虫が小さい理由/ユキヒメドリの実験
第五章 遺伝子の進化と表現型の進化
木村資生の大発見/進化はどう進むか/魚は意思では陸に上がらない
第二部 環境は変動し続ける
第六章 予測と対応
双子の電子カメはなぜちがう行動をとるのか?/季節は変わる/生き物も保険をかける/「マーフィーの法則」は当たっている/コンコルドの誤謬/宝くじ売り場の錯覚
第七章 リスクに対する戦略
モンシロチョウの悩み/1回繁殖と多回繁殖/リスキーかセイファーか/世代をまたがる環境変動/種子がとる戦略
第八章 「出会い」の保障
精子と卵子のリスクヘッジ/オスとメスの「出会い」/チョウはなぜ山に登るのか/出会いのために進化した素数ゼミ/浮気もリスク分散のため
第九章 「強い者」は生き残れない
最適が最善ではない/鳥はなぜヒナを少なめに育てるのか/3つの進化理論の違い
第三部 新しい進化理論――環境変動説
第十章 環境からいかに独立するか
進化は単なる「変化」/多産によって多死をカバー/逃げる/「休眠」というタイムマシン/体温を一定に保つ/群落という戦略/集団で越冬/育児というリスク回避
第十一章 環境改変
「巣」という環境改変/「家」とは何か/農業は大きな一歩/医療という環境改変/学習の進化/教育と科学と環境
第十二章 共生の進化史
協力し合って生き残る/真核生物の進化と多細胞化/「カンブリア爆発」と絶滅・進化/植物と組織分化/植物群落の意味/熱帯雨林も巨大共生系/共生が不可欠な地球
第十三章 協力の進化
生物が群れる理由/アラーム・コール/交尾集団「レック」/「一人勝ち」を避ける一夫一婦制/協同繁殖から家族へ/道徳と法律/民主主義は協同メカニズム
第十四章 「共生する者」が進化する
文明にはなぜ栄枯盛衰が起きるのか/資本主義も例外ではない/ゲーム理論の瑕疵/生物資源経済学が示唆すること
あとがき
参考文献

まとめテーマでくくる 本選びのヒント

担当編集者のひとこと

「勝つ」のではなく、「生き残ること」が大事なのだ。

 サッカー・ワールドカップの組み合わせ抽選会が、12月初旬、開催国の南アフリカで行われた。日本はグループEで、対戦相手はオランダ、デンマーク、カメルーンに決まった。何かのスポーツをやったことのある人だったら、こうした1次リーグ、2次リーグの対戦相手を決める抽選会や、トーナメント戦の組み合わせ抽選会が、「試合そのものと同じくらい」重要なことを知っているはずだ。ちなみに、最もタフなグループといわれるグループGの4カ国は、ブラジル、北朝鮮、コートジボワール、ポルトガルである。こうなると、世界で最強といわれているブラジルやポルトガルが、1次リーグを通過できないということも考えられる。強豪同士が戦えば、どちらかが敗れる。敗れたチームが、躍進著しい他の2チームに食われるという筋書きは充分あり得るからだ。おそらく、グループGの組み合わせ結果を聞いて、北朝鮮とコートジボワールだけでなく、ブラジルとポルトガルの強豪2チームも、どこか嫌な気がしたにちがいない。
 トーナメント戦でよくあるパターンが、組み合わせの運不運によって、強いチームが固まったブロックでの星のつぶし合いや、あるいはベスト4まで進むうちに疲弊してしまうケースである。つまり、必ずしも「強い者」が勝ち残るのではなく、「負けないチーム」が最後まで残る、という言い方の方が正確なのだ。
 本書は、「生物進化」の話ではあるが、ふと私たちの身の回りを見回してみると、こうした「強い者は生き残れない」ケースがままあることに気づく。そういえば、古くは「ウサギとカメ」の話もそうだった。
 人間社会でも、「強者」はひと握りしかいない。多数派は「そこそこ」のレベルだが、本書を読み、「そこそこ」だからこそ生き残れる可能性が高いことを知ると、多数派の一人としてはホッとする。考えてみると、人の生き方もこれに当てはまるのではないか。鋼のような強さではなく、竹のようなしなやかさで、環境に順応した生き方をした方が、きっと長持ちするのである。

2009/11/25

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