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少年タイムカプセル

錦織一清/著

1,980円(税込)

発売日:2023/03/01

  • 書籍
  • 電子書籍あり

「YOUは、天才だよ!」。その刹那、少年の人生が大きく動き始めた――。

12歳でジャニーズ事務所に入所、1985年「仮面舞踏会」でデビューした少年隊の“ニッキ”こと錦織一清。盟友・植草克秀と東山紀之、時代を超える名曲、ダンス論、そして恩師・ジャニー喜多川……。「ジャニーズの最高傑作」が、栄光から挫折まで“仮面”を脱ぎ捨てて語る初の自叙伝。タイムカプセルに封印した記憶を今解き放つ!

目次
はじめに――小さな町の小さな家
第1章 YOU、天才だよ!
懐かしさも、寂しさも/世田谷から下町へ/原点は「なかよしリズム」/マンガ家になりたかった/ベイ・シティ・ローラーズが嫌いだった/オーディションへ
第2章 アイドルで成りあがる
1977年のジャニーズ事務所/初舞台/『成りあがり』に背中を押される
第3章 東山紀之と植草克秀
それぞれの第一印象/ジャニーズ少年隊/大河ドラマ「峠の群像」に出演/二軍に厳しい一軍監督/ショッカーに憧れて/ダンスとバスケの親和性/「ニシキ」と呼ぶのはジャニーさんだけ
第4章 グシャグシャの日々
3人でのスタート/幻の『ビー・バップ・ハイスクール』/18歳の反骨心とファースト・コンサート/ジャニーさんの献身/「YOU、デビューすると大変なんだよ」/人を楽しませたいだけの人/メリーさんにデビューを直訴/WEAと契約/永ちゃんとは会いたくない/錦織一清の意外な“性格”
第5章 1985年12月12日
ワーナー・パイオニアと契約/汗と涙の『仮面舞踏会』/止まって歌いたかった/振付は振付でしかない/幻の未発表曲と「日本発、世界行」/「今日からスタートだと思ってやんなさい」/鳴らないデビュー曲/デビュー後の繁忙
第6章 それぞれのタイムカプセル
「自分のことは自分でやれ」/ワカチコ! ワカチコ!/ジャニー喜多川のタイムカプセル/錦織一清のタイムカプセル
第7章 『PLAYZONE』――夏の青山の23年
青山に劇場ができる!/いつも俺たちは夢をもらっていた/ジャニーズの一番のアンチはジャニーさん/ジャニーさんのF1マシン/フェードアウトでは締まらない/光GENJIに『バラードのように眠れ』は歌えない/少年隊に『ハッとして!Good』は歌えない
第8章 1987年の少年隊
ジャニーズ初の元日コンサート/黄金の1987年/奇跡のシングル三連打/シティポップな『stripe blue』はカラオケで歌いたい/SMAPの『SHAKE』最高説/『君だけに』が売れたら土下座する/ジャニーさんのルイ・ヴィトン/「流行」「ヒット」「レコード大賞」の功罪/光GENJIの「光と影」/当たり前の最高峰『ABC』/「俺が本当に好きなことをやるとヒットしないのよ」
第9章 少年隊は俺たちだけじゃない
1988年の収穫/そして平成へ――棺桶まで持っていける曲/合宿所生活/「少年隊」でよかった!/少年隊という“可能性”
第10章 この先があるように踊れ――錦織一清のダンス論
服を着こなすように踊る/永遠の微調整/点と線/「その先」にある可能性/歩くように踊りたい/「君のダンスには怒りがある」
第11章 師弟関係――ジャニー喜多川と錦織一清
陸軍ジャニー学校出身のジョン・ランボー/複雑な師弟関係/理想は沖田総司と牛若丸/ジャニーズ事務所=円谷プロ説/もうチェーン店の店長はできない/植草のこと
おわりに――ひとりで屋台を引いてみたかった

書誌情報

読み仮名 ショウネンタイムカプセル
装幀 角田勇太/撮影(カバー)、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 320ページ
ISBN 978-4-10-354931-4
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,980円
電子書籍 価格 1,980円
電子書籍 配信開始日 2023/03/01

書評

ジャニーズにかけられた呪いを解く

霜田明寛

“芸能界で成功する”ことと“芸事を追究する”ことは似て非なるものである。少年隊は後者に比重をおいたグループであり、ジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川の本質も実はそこにあるのでは――そう考えてきたが、錦織一清初の自叙伝『少年タイムカプセル』を通して、彼らの真に求めてきたものの輪郭が露わになった感覚を得た。
 手塩にかけて育ててきた少年隊をいざデビューさせようという頃、ジャニーは寂しそうだったという。「レコードを売らなきゃいけない」「プロモーションになっちゃうから、ショーの性質が違ってきちゃう」という発言からは、氏が何を大事に捉えていたかが透ける。本人たちもデビューよりも青山劇場でオリジナルのミュージカル「PLAYZONE」を毎年上演できることのほうが嬉しかったという。純粋に芸事を追究してきた少年たちが、芸能界という商業世界に踏み入るとき、そこには大きな段差が存在したのだ。
 本書の内容は、読者に少年隊を“アイドル”と呼ぶことを躊躇させるものだ。錦織自身、最初はアイドルとはお膳立てされるものだという意識があったという。だが「出されたものをそのまま歌っちゃいけない」とジャニーに言われて、曲や歌詞にも意見を出し(「仮面舞踏会」の印象的な前奏のフレーズは錦織の発案)、「ニューミュージックのシンガーソングライターのよう」に変化していった。自分の頭で考える彼らは決して操り人形ではない。当人たちにも「アイドルという自覚」はあまりなかったようだ。
 さらに、ジャニーが女子の歓声を重要視せず「『キャーキャー!』は一過性なんだ。しっかり拍手をもらえるアーティストになりなさい」と指導していたという証言は、ジャニーズ全体への捉え方をも一変させるものだろう。芸能界で最も成功したアイドル事務所と捉えられがちなジャニーズ。もちろん、その側面も持つのだが、その中枢をじっくりと見つめれば、純粋に芸事を追究する集団なのだ。
 特に少年隊はその色を濃く持っていた。錦織自身が自分たちの前後にデビューしたグループと比較し、シブがき隊を「ダンスレッスンをしているのも見たことがない」、光GENJIを「流行りすぎた」「ヒット曲メーカーとしての役割を担わされてしまった」と分析するのは興味深い。結果、少年隊は一過性の流行に終わらず、事務所史上最も長く存続するグループになっていくわけだが、本書では彼らが芸能界でも成功していく期間も描く。1980年代のバブル期を背景に、1日5回のコンサート、写真集1冊のために5か国に飛び、3人で乗った車を錦織が運転して局に向かう描写は青春小説のようでもある。
 この時期は、ジャニーズ事務所の再興期にもあたる。「メリーさんには人としての躾をジャニーさんにはショー事を教わった」という錦織の記憶で語られる、今は亡き姉弟との関わりは、戦後の日本芸能史においても重要なものだろう。
 錦織は「ジャニーさんは俺たちに“可能性”を見出してくれた」とした上で、義経にならず「いつまでも牛若丸であってほしい」という思いを持った人だとも形容する。完成形よりも可能性に魅力を感じるという意味だろうが、スキルアップを続けながらも決して完成形にならず、可能性を感じさせ続ける芸当はなかなかできるものではない。葛藤を抱きつつも成長した錦織の努力の一端も見える内容だ。
 さらに、当時の合宿所の部屋割りといったファンにも嬉しいディテールや、ジャニーと錦織が墜落した日本航空123便に乗る予定だったといった逸話も明かされる。「振付は踊りとは言わない」と繰り返すダンス論は、動きが揃っていれば評価される昨今の潮流へのアンチテーゼのようだ。
 そういった話を通して少年隊への理解が深まることで、ジャニーが作り上げた他のグループの見え方まで変わっていく。特に「ジャニーズ事務所の一番のアンチは、実はジャニーさん自身」だといい、少年隊をたのきんトリオと真逆にするなど、グループは毎回カウンターを当てるようにしていたという話は、この事務所が長く第一線を走り続けられる理由のひとつだろう。「流行を追いかけない。だって僕たちが流行だから」と語るジャニーの言葉通り、ジャニーズは自ら作った流行を、その手で刷新し続けてきた。時代を創っては壊す。それがこの事務所の半世紀だったようにも思う。そして、その“源流”にも思いを馳せた。
 実は初代ジャニーズは「キャーキャー言われるけど音楽を聞かれていない」と悩み、米国でレコーディングまでしながら、日本での芸能活動のために海外進出を断念している。本書でも、少年隊が米国で英語楽曲を収録し、世界デビューを予定していたことが明かされる。最近では、King & Princeの分裂の理由が、海外進出への気持ちのズレとされたことも記憶に新しい。芸事と芸能界の間で夢が引き裂かれる。芸事を追究したかったはずの人たちが芸能界にからめとられてしまう。海外の“ショー事”の血をひきながら“芸能界”が強い日本で誕生したジャニーズ事務所にかけられた長年の呪い。本書によってその「呪いを解きたい」という錦織の想いが伝わってくる。

(しもだ・あきひろ ライター)
波 2023年3月号より
単行本刊行時掲載

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著者コメント

自叙伝だなんて随分おこがましいことではありますが、今だからこそ伝えたいことがあると、思い切って記憶の扉を開けてみました。“仮面”を脱ぎ捨てて、できるだけ素の自分をさらけ出したつもりです。良くも悪くも誤解が解けるような、あらためて人間・錦織一清と出会い直してもらえるような、そんな本になってくれればいいと願っています。

著者プロフィール

錦織一清

ニシキオリ・カズキヨ

1965(昭和40)年、東京都生まれ。12歳でジャニーズ事務所に入所、1985年12月12日に少年隊として『仮面舞踏会』でレコード・デビュー。以降、『君だけに』『ABC』『まいったネ 今夜』など時代を超える名曲を次々と生み出す。1986年には青山劇場でミュージカル公演「PLAYZONE」をスタート。以降、2008年まで毎年公演を行った。個人でも多くの舞台に出演、2009年頃からは演出家としても広く知られるようになる。2020年12月31日にジャニーズ事務所を退所。2023年2月現在は、主に俳優・演出家として活躍中。シンガーとしても、2021年にはシングル『Cafe Uncle Cinnamon』をリリース。著書に『錦織一清 演出論』(日経BP)がある。

オフィシャルファンクラブ「Uncle Cinnamon Club」 (外部リンク)

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