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母の呪縛、摂食障害、女子アナとしての挫折。赤裸々に綴られた、著者初の生い立ちの記。

解縛―母の苦しみ、女の痛み―

小島慶子/著

506円(税込)

本の仕様

発売日:2016/08/01

読み仮名 ゲバクハハノクルシミオンナノイタミ
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-120506-9
C-CODE 0195
整理番号 こ-63-1
ジャンル ノンフィクション
定価 506円
電子書籍 価格 506円
電子書籍 配信開始日 2017/01/20

理想を押しつけ、娘を思い通りにしようとする母。憧れと恐れを抱かせる9歳年上の姉。女たちの軋轢に向き合わなかった父。絶望感から私は、15歳で摂食障害に陥った。自立を求めて「女子アナ」になるが、男性社会のなかで挫折と理不尽を経験。育児をきっかけに不安障害を発症し、死を願うまでに。そんな私を救ったのは――。鋭い客観性で自らを見つめ、包み隠さずつづった衝撃の手記。

著者プロフィール

小島慶子 コジマ・ケイコ

1972(昭和47)年、オーストラリア生れ。小学生のころシンガポールと香港で暮らす。学習院大学法学部を卒業後、1995(平成7)年にアナウンサーとしてTBSに入社。テレビ、ラジオに出演し、1999年ギャラクシー賞ラジオ部門DJパーソナリティ賞受賞。2010年に退社後は、タレント、エッセイストとして活動している。『気の持ちようの幸福論』『女たちの和平交渉』『失敗礼賛』『解縛』『大黒柱マザー』『不自由な男たち』(田中俊之氏との共著)など著作多数。『わたしの神様』など小説も手掛ける。

目次

まえがき
1章 母との遭遇
「アイ・ウォント・ブラッド!」
角栄につつかれる
駐在員の妻
墓地に行く母
「お姉ちゃんは、私が嫌いなの?」
姉のいらだち
2章 「トモダチ」のお母さん
夜、たったひとりで
洗練された先住民
あの家の記憶
友達のおもちゃを盗む
憧れの女の子
「3歳から反抗期」
親の序列は子どもの序列
ユリちゃんのおっぱい
「ワッチョアネーム」
日本のふるさと
「普通の子」の立場を汚す
3章 15歳からの摂食障害
気がつくと、一人
「ママはパパしか知らないのよ」
女を眺める眼差し
女子校での6年間
似非お嬢様
「夜間高校しか出ていないくせに」
女社会の看板とお手本
過食嘔吐の始まり
4章 憧れと敗北の女子アナウンサー
初めての一人暮らし
生来のお調子者
あざといやつ
「どうでもいいんだよ」
全部、キャラ?
専業主婦か働く母親か
父のこと
「いつまでいる気?」
5章 子を持つこと、そして不安障害
シアワセの象徴
肉でしかない
なぜ報われないの
「子どもは自然だ」
羊膜が破れる音
重すぎる愛の負債
「死んだ方が絶対にいい」
母はいつまでも少女のまま
母性という原罪
あとがき
文庫版あとがき
 解説 信田さよ子

インタビュー/対談/エッセイ

[小島慶子『解縛―母の苦しみ、女の痛み―』(新潮文庫)文庫化記念対談]
次は男たちの「解縛」がはじまる――。
小島慶子(タレント、エッセイスト)×安冨 歩(東京大学教授)

小島慶子安冨歩

男の“母殺し”が始まった!

小島 ずっと安冨さんにお会いしたかったので、お目にかかれてうれしいです。
安冨 私もお会いできて光栄です。
 ところで小島さん、私のメイクはどうですか?
小島 素敵、でもちょっと目元が寂しいかな。
安冨 じゃあ、つけまつげを付けてみます。小島さんは付けてますか?
小島 私は地毛です、目元が毛深いから(笑)。「撮影のときは、アイラインははみ出てもいいから濃くしておけ」っていわれたことはありますよ。
安冨 なるほど、参考になります。(つけまつげ装着完了)
小島 だいぶ華やかな目元になりましたね!
安冨 ありがとうございます。これで撮影OKです(笑)。
『解縛』、本当にすごい作品だと思いました。母娘関係の本はたくさん出版されてきましたが、これほどまでに深く分析された本はないかもしれません。あまりに強烈で、読んでいて気分が落ち込んだほどです(笑)。
小島 すみません(笑)。でも読んでいただきありがとうございます。
 私は安冨さんの『生きる技法』を泣きながら読ませていただきました。「自立とは、人に依存できること」という安冨さんの言葉に救われて。どうして今まで誰も教えてくれなかったんだろう、と思いました。
 そしてもう一つお会いしたいと思った理由は、安冨さんが「母親の罪」を告発した数少ない男性だということです。「とうとう男の“母親殺し”が始まったな」と思ったの。
安冨 かつて岸田秀先生が『母親幻想』で母親の支配を書いたことがあったけど、確かに少ないですね。私は“女性装の東大教授”という特殊な立ち位置だから、発言が注目されたところもあるでしょうし。
小島 日本では「母親の悪口を言う男は最低」っていう刷り込みがあるから、男性は母親に象徴される「男らしさを強いる庇護者」を告発しにくいですよね。でも私は、男性が多様な生き方を獲得するためには、ママの呪いから「解縛」されるべきだと思っているんです。安冨さんは何がきっかけでお母様の問題に気づいたのですか?
安冨 私の場合は配偶者の存在です。配偶者からモラルハラスメントを受けていて、抜け出すために離婚を考えました。けれども母は配偶者とつるんで離婚を絶対に阻止しようとした。自殺を考えるほど悩み苦しんだ末に、母と配偶者の類似性に気づいたんです。
小島 結局離婚はできたのですか?
安冨 はい。でも離婚のゴタゴタで二~三千万円も失ってしまいました。もっと早く、たとえば中学生のときに母の支配に気づいていれば、被害額は五千円ぐらいで済んだかもしれない。高校生だったら五万円、大学生なら五十万、結婚する前なら五百万ぐらいかなあ。
小島 さすが経済学者(笑)。

ありがとう、女子アナ(!?)

小島 配偶者の方との関係が、自分の苦しみの謎を読み解くカギとなったのですね。ヒエログリフを解読するヒントになった「ロゼッタ・ストーン」のような。私の「ロゼッタ・ストーン」ってなんだったんだろう。
安冨 ひとつは育児経験だと思いますが、もうひとつは女子アナ時代でしょうね。
小島 おおっ、やはり……。
安冨 『解縛』を読んで強くそう思いました。テレビ局と東大は、その不気味な権力構造においてとてもよく似ています(笑)。特に女性差別。東大は女性の教授の割合が四%ぐらいで、他国の名門大学と比べるとものすごく低い。テレビの世界も、現場では女性も増えているけど、役員はほぼ男性ですよね。
小島 そうなんですよ。“女子アナ”って、同期の男性社員より仕事のチャンスが多かったので、最初は「女で得した」と思ってました。でもそれって、女が社内でマイノリティーだからなんですよね。
 放送局の体質に加えて、アナウンサーという局のアイコンとして人前に出た時に、求められる女性像も辛かった。身内からも、世間からも、なぜ自分はこんなに「あるべき形」を強要されるのか、と悩みました。
安冨 わかりやすい暴力に晒されたことで、自らを苦しめたものを読み解くコードが得られたんじゃないでしょうか。
小島 「こうあるべき」と私を縛ってきたものが何だったのか、突き詰めて考えることができたかもしれませんね。テレビ局に勤めたのは、そのための修行だったと(笑)。
安冨 会社なんか、単に利用すればいいんです。結局日本の企業というのは、四年制大学を出た男性がポストの奪い合いをしているサル山なんですよ。そしてその組織は「自分は仕事ができない」「もっと出世しなきゃいけない」といった“罪悪感”によってドライブされている。
小島 でもサル山の中にも「このサル山、狂ってない?」と思っている男性は多いはずですよね。マイノリティーである女は、組織の中で「おかしい!」と声を上げることが比較的許容されていますが、男たちはなかなかそれができない。彼らはどうしたら救われるのか……。
安冨 私はみんな馬に乗ればいいと思ってるんですよ。
小島 馬!?
安冨 私の趣味は乗馬で、会社のセミナーなどで馬に乗りに来る人たちをよく見るのですが、そこで面白い事実を発見したのです。馬は子供の言うことはよく聞くけど、社長の言うことは絶対聞かない(笑)。
小島 へえ、馬はわかってるんだ(笑)。
安冨 彼らは「自分が何とかしてやる!」と思うからダメなんです。力でコントロールしようとするやり方は、馬には通用しない。乗馬のコツは、馬を信頼して、馬に身を預けることなのに。
小島 それって、安冨さんの言う「自立」の定義と似ていますね。「依存できる人こそ自立している」という。実は私の夫も落馬したことがあるの。「ずいぶんエラそうに乗ってるなあ」と思っていたら案の定、振り落とされて骨折(笑)。
安冨 そういう私も実はよく落ちるんですけどね(笑)。
小島 思い通りにならない動物と接することって、育児にも似てますね。
安冨 そうそう。言葉を話せない赤ちゃんが何を伝えようとしているんだろう、と読み解こうとすることで、自分の感覚にも向き合えるんですよね。
小島 私はいまオーストラリアに住んでいるのですが、英語に苦労することが多くて。けれども不自由ななかで、一生懸命に自分のなかにある言葉を探して相手に伝えようとする試みは、とても豊かなことだな、と感じます。
安冨 相手と向き合うことと同時に、自分の内面を見つめることでもありますからね。
小島 きっかけは何でもいいので、日本の男性たちにはまず、自分の弱さや、不自由さを発見して欲しいです。お母さんに「あなたは何でもできる」と言われて育てられてきた人が多いから、その呪いを解いてほしい。最初は辛いけど、きっと楽になれるはず。

肩書は悪用しちゃえ

安冨 母の期待は、息子に強烈なプレッシャーを与えますよね。口に出さないまでも、私の母親は「いい学校に行き、出世しろ!」という圧力が凄まじかった。
小島 安冨さんはご自分の京大卒の学歴や、東大教授という肩書について、どう思われますか? 親からの圧力が動機となって得たものに、違和感をおぼえませんか?
安冨 全くないですね。自分の努力によって得たものですから、最大限利用してやろうと考えています。東大教授という立場に収まるのではなく、それを「悪用」しているんです。私は“東大教授”だから、テレビに出られるし、皆が興味を持ってくれるし、こうして小島さんとお話もできる。本当はあんなアホな組織はないと思ってるけど、「悪用」はやめられない(笑)。
小島 確かに私も“女子アナ”という職業を全然誇れなかったけど、便利に使っています。世間には「女子アナがどんなムカつく本を書いたんだ」っていう興味から私の本を手に取ってくれる人もいるはずですし(笑)。
安冨 どんどん「悪用」すべきですよ。“東大教授”も“女子アナ”も、死にもの狂いで手に入れたものですからね。
小島 私も「石にかじりついてでも女子アナになって、いまこの新宿駅にいる皆をいつか振り向かせてやる!」とか考えてた。相当思い込みの強い女子大生でした(笑)。
安冨 「思い込みの力」は侮れません。私も東大教授になれなかったら、絶望のあまり自殺するか、無差別殺人をしてたと思う(笑)。たいていの人は、そこまで苦しみや絶望が深くないから、私たちほど思い詰めない。
小島 でもそんなしんどい生き方はほかの人にオススメしないわ(笑)。
 私は10年以上過食嘔吐をやってから不安障害になり「こんなにしんどいなんて、たぶん自分は四十代で死んでしまうな」と思ってました。安冨さん、四十代を迎えるのが怖くありませんでした?
安冨 私も四十五歳まで生きられないと予感していました。だから四十になる前に離婚して、死の恐怖から逃れたんです。
小島 そうだったんですね……。私は四十代になって、「あ、私このまま死んでしまうんじゃないか」といまだに眠るときに怖くなることがあります。これは私が自分にかけた呪いなのかしら。
安冨 それは、小島さんのなかの何かがまだ「解縛」されていないんですよ。
小島 なんだろうなあ……。そういえば、小説を書いていると、男の人を描写するときに、何かもやもやしたものがあるんです。彼らのことは、まだ心の奥のパンドラの箱に封印されているみたい。もし開けてしまったら、また人生が変わってしまいそう。
安冨 やはり小島さんの次のテーマは「男」ですよ。今度は自分のなかの男たちのことも「解縛」しなきゃ。なんだか怖いけど(笑)。
小島 また新しい世界が見えるかも(笑)!


(こじま・けいこ タレント、エッセイスト)
(やすとみ・あゆみ 東京大学教授)
波 2016年8月号より

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