小林秀雄氏は、1902年(明治35)4月、東京・神田に生れ、1929年(昭和4)9月、「様々なる意匠」によって文壇に登場、以来ほぼ半世紀、1983年(昭和58)3月1日の永眠に至るまで、わが国近代文芸批評の創始者・確立者としてのみならず、20世紀の日本を代表する最高峰の知性として、またひろく人生の教師として、多くの読者に仰がれ続けました。
 没後まもなく20年になろうとする今日なお、氏の遺業は依然として熱心に読み継がれています。これは、氏が、文学・芸術分野はいうに及ばず、歴史、哲学、社会、科学の諸分野にまで深く分け入り、人間が人間として人間らしく、日本人が日本人として日本人らしく、この激しく荒々しい世紀を溌剌と生きていこうとすれば、人それぞれに何を心がけ、いかなる道を行くべきか、常にそこを見すえて重ねた思索の軌跡が、とりもなおさず生きるということの規範となって読者を鼓舞するからでしょう。
 翌々2002年(平成14)は、その小林秀雄氏の生誕百年にあたります。これを記念し、弊社は編集構想も新たに「小林秀雄全集」を刊行します。今回の新全集は、過去4度の全集には収められていない作品をも多数蒐めて氏の文業を網羅し、これらを発表年月順に配列して全14巻(別巻2)に構成します。おそらく読者は、どの巻どの頁をひらいても、たちまち日本の、さらには世界の20世紀を鋭く射ぬいていた氏の眼光が、まっすぐそのまま21世紀へと届いている様を看て取られるでしょう。否むしろ氏の言葉は、いっそう激しく荒々しい世紀を生きようとする私たちのために記されたとすら思えてくるでしょう。
 生誕百年に先立つ2001年(平成13)4月、第12巻「考へるヒント」を第1回として配本を開始します。読者の絶大なるご支援を期してお待ちいたします。
2000年12月 新潮社