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梅田望夫、平野啓一郎『ウェブ人間論』
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   おわりに


 ウェブ進化はまだ始まったばかりである。
 本当の大変化はこれから始まる。
 次の十年、二十年、いま以上に激しいスピードでウェブ進化は続いていき、私たち一人ひとりに変容を迫っていく。
「インターネットが人間を変えるのであればどのように変えるのだろう、ということにずっと興味があって小説やエッセイを書いてきた」
 と話す平野啓一郎さんとのウェブ進化をめぐる対談は、東京で二度に分けて行われたが、それぞれ延々ぶっ続けで八時間以上にも及んだ。午後四時に話し始めて深夜零時をまわるまで、どちらかがしゃべっていない時間はほとんどなかった。
 平野さんという才能とへとへとになるまで語り合い、濃密な時を過ごすうちに、私の心はいつしか自由になり、ふだんは注意深く避ける表現や話題や仮説にも、思い切って踏み込んでいくことになった。

 平野さんと私は「大きな時代の変わり目にどう生きるか」に強い関心があり、現代を「大きな時代の変わり目」たらしめる最大の要因の一つがウェブ進化だという認識で一致していた。
 しかし話をしていくうちに、二人の間にあるさまざまな違いも面白いように浮き彫りになっていった。私はいまビジネスとテクノロジーの世界に住み、平野さんは文学の世界に生きている。しかし、そういうわかりやすい違いよりももっと深いところでの人生観のようなものが、ウェブ進化を語ることで現れてきたのがとても興味深かった。
 たとえば、平野さんは「社会がよりよき方向に向かうために、個は何ができるか、何をすべきか」と思考する人である。まじめな人なんだなあと、話せば話すほど思った。
 その点に関して言えば、私はむしろ「社会変化とは否応もなく巨大であるゆえ、変化は不可避との前提で、個はいかにサバイバルすべきか」を最優先に考える。社会をどうこうとか考える前に、個がしたたかに生きのびられなければ何も始まらないではないか、そう考えがちだ。

   (中略)

 本書には、こうしたお互いの違いを発見しながら、少しずつ相手を理解していく過程が現れている。その結果本書は、ごつごつしたさまざまな刺激を含むものとなった。
 しかしそれは、本書で取り上げたいろいろなテーマについて、「俺はこう思う」「私は……」と誰もが思わず語りたくなる土台としてのオープン性を、期せずしてもたらしたのではないかと思う。

   (後略)

二〇〇六年十一月
梅田望夫

発売日:2006/12/15

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