新潮社

母の待つ里イラスト
母の待つ里
浅田次郎
キャッチコピー
母の待つ里
浅田次郎
キャッチコピー

2022年1月26日発売

お知らせ

あらすじ

 男は東北のとある駅に降り立った。大手食品会社の社長として東京で多忙な日々を過ごす彼は、上京して以来、じつに40数年ぶりに故郷を目指すのだ。
 実家ではすっかり腰の曲がった86歳の母・ちよが、彼の親不孝を責めもせず、温かく迎えてくれた。父亡きあと一人で家を守ってきた母は、囲炉裏端に心づくしの手料理を並べ、薪で風呂を沸かし、寝物語に神隠しにあった村の娘の話を聞かせてくれた。「母は、自分の息子も神隠しにあって帰ってこないのだと考えて自らを納得させていたのだろうか」。布団の中で男はこれまでの人生を振り返る……。
 しかし、彼はこの慈愛に満ちた〈母〉が本当は誰なのかを知らない。ただ、ここが「ふるさと」であることだけは知っている――。

 物語は〈母〉のもとに足を運ぶ還暦世代の男女3人の視点で進んでいく。彼らをそこへ導いたものは? そして帰る場所を持たない彼らが見つける「ふるさと」とは?
 それぞれの家庭、仕事、来し方、迷いや疑いをリアルに、時にユーモラスに綴りながら、次なる人生の道しるべを見出していく姿を描く。

試し読み

登場人物

松永まつながとおる

「俺な、ずっと母さんの手料理をめざしてきたんだよ」

日本人なら知らぬ人のない加工食品最大手企業の社長。野心も欲もない独り者だったが、上層部が不祥事で引責辞任したため押し出されるように役員コースに乗った。一度訪れた「ふるさと」に魅了され、古い友人の秋山に心配されている。

室田むろた精一せいいち

「私を、この墓に入れていただけませんか」

有名製薬会社の営業部長を務めるが、取締役営業本部長に昇進する夢破れ、閑職の流通センター長として定年を迎えた。退職と同時に32年連れ添った妻に離婚を突きつけられ、一人暮しに戻ったところへ「ふるさと」への招待を受け取る。

古賀こが夏生なつお

「ふるさとを探すのは、淋しい人だから」

循環器内科の専門病院で臨床にあたるベテラン女医。医師の父を亡くしてから、女手一つで育ててくれた看護師の母を看取り、直後に「ふるさと」を訪問。60歳を目前にして、今後はアルバイト医師として緩やかに働こうと考えている。

ちよ

「何があっても、かがはおの味方だがらの」

「ふるさと」の曲がり家にひとり住む86歳の老女。訪ねてきた者たちを素朴な岩手弁と手料理とあふれる母性で温かく迎え入れる。彼女の人生に何があったのか、誰も知らない。

推薦文

俳優 中井貴一さん

デジタル優先の現代、愚直に人生を積み上げてきた者たちが求める心の原風景とはなにか? 身につまされる物語。

建築家 隈研吾さん

フィクションでもかまわない、だまされていてもいいから、「ふるさと」が欲しい。そう望まずにいられないほどの現代日本の「ふるさと喪失」の深さに、涙せずにいられない。

メッセージ

書籍詳細

母の待つ里

浅田次郎/著

上京して四十年、一度も帰ろうとしなかった郷里で私を温かく迎えてくれたのは、名前も知らない〈母〉でした――。家庭も故郷も持たない人々の元に舞い込んだ〈理想のふるさと〉への招待。半信半疑で向かった先には奇跡の出会いが待っていた。雪のように降り積もる感動、全く新しい家族小説にして永遠の名作誕生!

1,760円(税込)

プロフィール

浅田次郎

浅田次郎

アサダ・ジロウ

1951年東京生まれ。1995年『地下鉄(メトロ)に乗って』で第16回吉川英治文学新人賞を受賞。以降、『鉄道員(ぽっぽや)』で1997年に第117回直木賞、2000年『壬生義士伝』で第13回柴田錬三郎賞、2006年『お腹(はら)召しませ』で第1回中央公論文芸賞・第10回司馬遼太郎賞、2008年『中原の虹』で第42回吉川英治文学賞、2010年『終わらざる夏』で第64回毎日出版文化賞、2016年『帰郷』で第43回大佛次郎賞を受賞するなど数々の文学賞に輝く。また旺盛な執筆活動とその功績により、2015年に紫綬褒章を受章、2019年に第67回菊池寛賞を受賞している。他の著書に『プリズンホテル』『天切り松 闇がたり』『蒼穹の昴』のシリーズや『憑神』『赤猫異聞』『一路』『神坐す山の物語』『ブラック オア ホワイト』『わが心のジェニファー』『おもかげ』『長く高い壁 The Great Wall』『大名倒産』『流人道中記』など多数。2011年から6年にわたり、第16代日本ペンクラブ会長も務めている。