立ち読み:新潮 2020年8月号

ジャックポット/筒井康隆

一 第一波

 故郷のアルベロベッロに帰ってきた体液将校のジュゼッペはザーメンまみれの売春婦を椅子ごと海に投げこんで咆哮した。それは意味のない叫びを意味ありげに、うわ眼遣いに歌い続けることであろうか。振り振り玉をキックしてそれを自らの痛みに変えるのだ。竹の輪切りか麒麟の首か、酢豚を裂いて股を食え。
 さあてさてさて
 さてさてさてのサテライト
 ここは寝惚けの夢街道
 寝小便して叱られて
 夜の女神に笑われる
 さあてさてさて
 さてさてさてのサテライト
 今はうつつの蕩尽峡
 枕を抱いて月を見て
 夜の女神に射精する
 さあてさてさて
 さてさてさてのサテライト
 昔コロナという煙草があって、箱には金環食がデザインされていた。昭和二十一年から二十二年。わずか一年ちょっとで発売廃止に到ったが、わしゃあれを喫うていたのでコロナウイルスには免疫だ。鼻緒の切れる下駄ウェイ、犬あっち行け、ファーウェイはおれたち皆ウェイウェイね。チャンウェイチャンウェイツーツーカイ、あの村この街花盛り。冬の風邪を夏に残して哀れオリンピックの残り香よ。武漢シェークでこんにちは。武漢から来ましてん。蝦ですねん。エビデンスかい。これが新型肺炎の根拠となります。えっ、クラスター爆弾。別名集束爆弾。ちっとも終息せんがな。クラスターを構成する中国の蝦養殖業クラスタシアニンで赤くなり、酩酊した蛸のタコメーター。頭の回転で体温を測定しましょう。でないと大相撲には参加できません。炎鵬が御嶽海に負けてもエディオンアリーナ大阪に拍手なし声なし。動機は何ですか。動機は餅です。それこそがモチベーション、なんちゃってね。咳して咳してくしゃみして。こらあ手前マスクなしで満員電車の中で咳やらくしゃみやら。ギズモ・ギズモ・ギズモトロンは新製品。新しく開発されたアタッチメントです。感染うつしてやるぞ感染うつしてやるぞ。もう限界です。汚染水が貯蔵パンクした貯蔵タンクから溢れ出して白魚の海へ。鱈のレバーでタラレバ炒め。外国人だからこそできることとは何でしょうか。YOUは何しに日本へ。風評被害は散って行く散って行くああ風の音風の声。日本の魚の不買運動またやってやるの隅田。他の国はどうでもよい日本だけは許さんの五墨田。ジュゼッペは国内の移動も禁じられて、ローマは永遠の休日。アカデミックなパンデミックですね。だって世界的にポレミックだもん。
 習近平とのなあなあによって最初に味噌をつけたテドロス事務局長の不景気な顔がいかん。ヒヤー啓膣だ啓膣だ。観音開きだ御開帳だ。もうインバウンドはやめて。やめて。ドライヴスルーで感染確認。いや。いや。ああお姫様。グランド・プリンセスもダイヤモンド・プリンセスも淫内感染だわよ。いいえ詮無い感染。桜の季節です。暖かくなってきましたが、だからと言って感染が収まる気配はありません。ジュゼッペはアルベロベッロからフェラ鴨の靴を履きボッテガ・ヴェネタのシャツを着てベル鴨へ移動。いかんいかん。お前はロックダウンされているのだぞ。オーバーシュートしてはならん。駄目です駄目です。今のところ医学的薬学的に正しい治療薬はありません。亜美顔、彼虎、レムデシビル、オルベスコ又は市区レ粗二度、燐酸クロロ金。何だ何だ何だどれだどれだどれだ。それはまあ、治癒した例はあるのですが。グッチ・グッチ・アイスクリーム。加藤厚生労働大臣の口許に笑いが残ればなんとなく賎しいのだ。中止の判断はないという判断。延期かも。延期かも。延期の判断はアリエール。ブラームスじゃなかったハイドンじゃなかったモーツアルトじゃなかったあっバッハ会長。IOCはWHOに命を預けたふり。WHOはそもそもが中国の感染症発症に知らんふり。フリフリ棒振りグランプリ。都市の封鎖をされては原宿の家に行けないのだが原宿の竹下通りたるやギャルで満杯で渋谷たるやどの店も満員でこりゃまあ唾液吐き散らしの密着接触のコロナコロナコロナのすり切れず。などと言うておるうちにトリチウムは満杯となっていつ噴き溢れてもおかしうない状態に。えっ。来年ですか。あのう、もし、来年はないかも。ないかも。そうです。来年そのものがないのです。まるで死者のように、来年がどこかへ行ってしまうのです。ことことこと。焚き物のような物音と共にその機関車は尻をこちらに向けて振りながら、ああ忙しい忙しいとばかりにどことも知れぬどこにもない場所へ去って行くのです。フリフリ棒振り滅茶振り身振り、フリフリお喋り道場破り。悲しいことですが認めなければしかたありませんな。はてさて三つの密とは何。密林、密航、密談、密輸、密教、密告、密造のうちのどれとどれとどれ。なに。どれでもない。こりゃまた失礼を。
 やっぱりなあ。テドロス事務局長への辞任要求が、出ると思うておったわい。WHO? と聞かれりゃトミー・ドーシイだろうが。まつわりついてくる眠気。十六人、十七人、四十一人、四十七人、四十人、六十三人。福島では汚染土が行き場を失い中間貯蔵施設がもうすぐパンク状態。アメリカでは失業者数が十倍の千四百万人となり治安が悪化。失業保険申請者が三百三十万人。イギリスでは首相が感染。お次は大統領も書記長も感染か、日本政府はお肉券、お魚券、野菜券、お米券、牛乳券、トイレットペーパー券、お水券、マスク券、パンティ券、不要不急外出券、お花見券、ペット散歩券、公園券、泥酔券、基本的人券、老害券、徘徊券。しかし災厄は重なってやってくる。イナゴじゃあイナゴじゃあ。蝗、大地に身重く横たわる。パール・バックじゃあ、ディックじゃあ。二百兆匹のイナゴとな。中国方面から来る災厄はコロナと黄砂に加えてイナゴとなるのか。あれはそもそもイナゴではない。あれはバッタだバッタだ。イナゴは中国からではない。コロナも武漢からではない。コロナはアメリカから来た。アメリカから米軍兵士と共にやってきたのだ。ほうら。余計なこと言うから損害賠償を山ほどせにゃならんのよ。弾道ミサイルが発射されてEEZ外に落下。二回めより三回め、三回めより四回めと徐徐に排他的経済水域へ近づいてきておるのですが、どうしますか。ライチライチ、ライチのすり切れず。ライチで子供が死んだのは、果実の毒素か農薬か。ひやー今度は保健副大臣もかい。

(続きは本誌でお楽しみください。)