女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第9回受賞作品
受賞の言葉

王冠ロゴ 優秀賞受賞

木爾チレン

「溶けたらしぼんだ。」

木爾チレン(きな・ちれん)

1987年6月3日生まれ。22歳。京都市出身、現在も在住。職業はたびびと。趣味は妹(沢尻エリカちゃんに似ているの)とお風呂に入ること、芸術鑑賞。今、一番やりたいことは、独り暮らし!

受賞の言葉

 三回生になり、嘘っぽい黒髪の女の子が増えはじめるなか、 「わたしは黒髪になんてしなくてもいいの。だって、卒業までにデビューしているはずだもの!」と、自分でもたまげるくらい超ポジティブシンキングで、ふわふわ生きていました。
 おまけに「いざとなったら玉の輿に乗ればいいじゃない」なんて、あてもなく考えていました。
 しかし、卒業式の翌日、ようやくゆめみるゆめ子状態から醒めたわたしは現実に打ちのめされ、
「どうしよう……小説じゃなくてエントリーシート出さなきゃいけなかったんだ……」と、自分はなんていう能天気ガールだったのかしらと号泣していました。

 そんなとき、奇跡みたいに電話が鳴ったのです。
 それは、受賞を知らせる内容でした。
 わたしはその瞬間、ゆめみるゆめ子でいてよかったって、思いました。

 そんな能天気ガールですが、小説のことだけは片思いをしているときのようにいつでも考えていました。
 制服を着て、薄暗い早朝の停留所でいっつも時間通りにこないバスを待っているときも、夏、鴨川の縁で線香花火をするだけの恋をしていたときも、
 わたしの心中にはいつもコトバの宇宙がありました。
 わたしは真夜中、その宇宙の中から新しい星を組み立てるみたいに小説を創ります。
 でも今回、沢山の人がわたしが創ったものに触れて下さり、ただ組み立てるだけじゃだめなんだ、どこから触れてもきれいなように磨いて、もっと素敵な観察方法を提示しなきゃいけなかったんだ、と気付かされました。
 わたしはこれから、雨水の一粒一粒に顔があるような、丁寧で、誰も見たことのないような奇矯な小説を書いていきたいです。
 そうしてどこかで淋しがっている女の子の支えになるような、ともだちみたいな作家になりたい。
 そうなれるように、一生懸命がんばります。
 今回はこのように素晴らしい賞を与えて下さり、ほんとうにありがとうございました。