女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第13回受賞作品
受賞の言葉

王冠ロゴ 読者賞受賞

滝田愛美

「ただしくないひと、桜井さん」

滝田愛美(たきた・えみ)

1981年東京都生まれ。京都府在住。東京外国語大学外国語学部(朝鮮語)、東京大学文学部(宗教学)卒業。子持ち、人妻、非正規社員。趣味はカラオケ。

受賞の言葉

 小学生のころは親に原稿用紙をねだる子どもでした。とにかく紙に鉛筆を押し付けて字を書くことが大好きで。国語の教科書に載っているおはなしをノートに書写するだけでも満たされました。
 昔から手紙もよく書きます。巻物のように長い恋文はもちろん、家族や友達へも言葉をつづります。幼い我が子に向けたメッセージは、お腹にいた頃から書いてきました。伝えたいことを、いつの日か受け止めてくれたら…そんな思いは今回の作品のベースとなりました。
 書くことを生業にしたいとは高校生のころからぼんやり意識していました。それが具体的な職業としての「作家」という夢につながったのは、20歳で姫野カオルコ先生の『喪失記』を読んだときです。セックスとジェンダー、両方の「性」を色香の漂う筆致で描き、ときに強いオピニオンを表明する作品に圧倒されました。姫野先生が今年第150回直木賞を受けられたとき、R-18文学賞の選考過程にいたわたくしは本当にうれしく、すがすがしい涙が出てきました。
 今回は他の新人賞も含め4度目の挑戦でした。一次選考を通ったのは初めてです。門前払いが3度続いたとき、「才能がない証拠。もうやめる」と宣言したのに、やはり書いてしまいました。というよりも、気づいたら書いていました。
 一次の発表から読者賞の受賞連絡まで、この数カ月間は不安と希望の入り交じる日々でした。我流でアウトプットしてきたことを省み、女性作家の小説に読みふけるインプットの時間としました。その都度、「なんてすばらしい表現なんだろう。わたしには書けない…」と自信を失うことも多かったです。しかし、だからこそ、「わたしもこんな風に書ける人になりたい」と憧れをさらに強くしました。
 お忙しい中わたくしの作品をお読みくださった方々、本当にありがとうございます。読んでくださる方にほんのちょっとでも「あぁ、読んでよかった」と感じていただける言葉をつむぐべく、精進してまいります。