女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第13回受賞作品
受賞の言葉

王冠ロゴ 大賞受賞

仲村かずき

「とべない蝶々」

仲村かずき(なかむら・かずき)

1984年生まれ、千葉県在住。お酒と煙草が手離せないしがない事務員。

受賞の言葉

 たとえばキャリアに備えて資格を取ったり。たとえば素敵な旦那様を捕まえるために自分を磨いたり。そんな風にせっせせっせと忙しいはずの二十代を、のんびりと過ごしすぎたことに気が付いたのは三十歳を目前にした時でした。
 友人たちが確かな足取りで人生を歩いている後ろで、私はその背中を見ながら呆然としていました。何かをしなければとにわかに焦りだし、はてしかし一体何をすればいいのだろうと迷いました。
 世の中には文章がうまい人も素敵なお話もたくさんあって、作家になりたいという淡い夢は大学卒業時にはあっさりと砕けていました。こんなにうまい人たちのなかで生きていくのは無理だと早々に諦めたのです。それでも書くことはやめられずにいました。読むのは私一人きり。文章が溜まると消し、また書き始める。そんな漫然とした日々を何年も過ごしていました。
 焦りのなか私の手元にあったのは、この文字の連なりだけです。
 部屋に積まれている本のさまざまな名文を思い出しては、私なんかがおこがましいと起こるためらい。けれどこのままでは本当にどうしようもなく、何もせず指を咥えたまま二十代が終わってしまう。どこかに置き去りにしていた思い切りのよさを引っ張り出して、悩むのは投稿してからいくらでもできるだろうと半ば開き直りのなかで書き上げました。送信ボタンを押したあと、後悔と満足感がないまぜになったあの気持ちはちょっと経験できない不思議な感覚でした。
 今回、最終候補に推してくださった新潮社のみなさま、大賞に選んでくださった選考委員の先生方には感謝してもしきれません。本当にありがとうございます。
 ただ視線で追っていた背の群れに、色々な人に手を引かれ背中を押されやっとこさほんの一歩、近づけたような気がします。この先の道の果てしなさに途方に暮れそうですが、一字一字積み上げ物語を紡ぐことは何が起きてもやめられそうにありません。