女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第12回受賞作品
受賞の言葉

王冠ロゴ 読者賞受賞

森 美樹

「朝凪」

森 美樹(もり・みき)

1970年埼玉県生まれ。東京都在住。派遣社員、主婦。20代~30代はじめにかけて少女小説を執筆。その後、占い師のアシスタント、パワーストーングッズ作製、占い原稿のリライト、金融関係、医療関係などを経て執筆を再開。

受賞の言葉

 私が住むマンションの前には男子寮がある。
 まだ空が夜の匂いを残す中、ベランダに出ると、すでに男性陣は活動を始めている。
 今回、読者賞をいただいた「まばたきがスイッチ」は、小さなリアルの集合体だ。
 以前私は、少女小説を書いていた。私の内側にあるファンタジーを凝縮して、甘く味つけをする、とても幸せな作業だった。でも、どこか現実にバリアをはって、閉ざされた世界を書いていたような気がする。
 もっと地に足がついたものを、もっと本物らしい、つくりものらしくないものを、と思い始めた頃、私はぷつんと書けなくなった。悶々とした日々を過ごし、言葉を紡がなくなってかれこれ5年以上もたっていた。
 40歳を過ぎて、あらゆることに衰えを感じた時、書きたい思いが湧き上ってきた。人生最後のあがきみたいなものだろう。何を書いたらいいのかと周囲を見渡せば、そこここにリアルのかけらがあった。いびつなものばかりだったが、どれもが愛しく生々しかった。
『R-18文学賞』の編集部の方々や選考委員の方々には大変申し訳ないが、私がこの賞に応募したのは、一番〆切が近くて、規定枚数が少なくて、さらに当時プリンターが故障していたため、メール添付というのが都合がよかったからだ。とにかく早く、今の自分がどのレベルにいるのかが知りたかった。ひとえにそれだけだった。
 受賞の報せを聞いて思わず「まだ書いていいんですか?」と尋ねた。電話の向こうの笑い声が、心地よく響いて、このめぐりあわせに感謝した。
 内側のファンタジーは今も燻っている。
 しかしこれからは、内側のファンタジーと外側のリアルを融合させて、私なりに昇華させていきたい。