女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第18回 受賞作品

王冠ロゴ 読者賞受賞

小沼朗葉

「おまじない」

小沼朗葉

――このたびは第18回R-18文学賞「読者賞」受賞おめでとうございます。受賞の一報を聞かれてどう思われましたか。

 なぜか最終選考に残ったという連絡をいただいたときも、読者賞をいただけるという連絡をいただいたときも、家に入ろうとする直前で、慌てて近所の駐車場に駆け込んでお話の続きを聞いたんですよ(笑)。それはさておき、まだ現実感がなくてふわふわしています。本当に嬉しいなぁと。でも実は受賞したということも周りの誰にも言っていなくて、家族にも知らせていないんですよ。小説を書いているということも気付いていないんじゃないかなと思います。喜んでくれるはずですが、なんだか照れくさくて。

――是非、教えてあげてください(笑)。きっと喜ばれると思いますよ。でも、小説を書いているということもずっと隠されていた……ということでしょうか。

 特にそういうつもりもないのですが、そもそも小説を書き始めたのが30歳を過ぎてからなので、結構最近なんです。子供の頃は本を読むことよりもドラマを観ることが好きでした。ドラマを観るために全てを捧げるような子供で……。効率よく多くのドラマを観るために、ノートに時間割まで作っていました。本をしっかり読むようになったのは大学生になってからです。大学の同級生とわいわいやるよりも家に帰ってしっとり本を読むというスタイルがしっくりきたというか。その頃はドラマよりも本が好きでしたね。
 小説を書こうと思ったきっかけはとても感覚的なんです。30歳になると仕事とかプライベートのこととかが一通りちゃんと出来るようになりますよね。でも「自分は一生このままなのかなぁ」という感情がふとよぎる。習い事とか、自分探しみたいなことをいろいろやって、でもやっぱり「つまんないなぁ」と思っていました。
 それであるとき会社から帰宅途中に、とても夜風が気持ちよい日で、キリンジの「エイリアンズ」を聴きながら歩いていて……ふわっ、と「今なら小説が書ける気がする」って思ったんですよね(笑)。小学校の頃からずっと毎日真面目に日記を書いていたりはしていたんですが、小説をちゃんと書くぞと思ったのはそのときでした。

――投稿を始めたきっかけは?

 そうやって書き始めた小説をとりあえず書き上げようと思って、書き上げられたので、この賞に応募しました。初年度は全然ダメで、一次も通過しませんでした。
 でも、たぶん角田光代先生がどこかで書かれていたと思うのですが、「意外と完成させて投稿する人は少ないんですよ、どうせ自分なんて……と思うかもしれないけれど、意外と応募する人って少ないから、出してみるといいですよ」というアドバイスを読んで、じゃあ完成させて出し続けてみよう、飽きるまで続けてみようと挑戦することにしました。で、そこから4年連続していろんな賞にも応募して、初めて一次を通過したのがこの賞でした。驚きましたし、すごく嬉しくて、「自分の可能性はゼロじゃない」のかなと希望を持てた。だからまさかこの賞をいただけるとは。先ほど現実感がないって言いましたけれど、喜びが凄すぎて上手く自分の中で処理しきれていないような気がします。
 今回賞をいただいたこの「おまじない」という作品は、「食べ物」を題材にして書こうとした話でした。でもそのうちに、「人からどう思われるか」というのを気にして、思うように何かを選べない気持ちを書こうという思いが生まれました。何かを選ぶときも、好きだからこれを選ぶ、じゃなくて「人からこう思われたいから、これを選ぶ」。そういう不自由さに対する苦い思いはずっと自分の中にあったように思います。それを表現してみたかった。

――これからどんな小説を書いていきたいですか。

 自分のいままでを振り返ってみて、取り立てて大きな不幸だとか出来事に巻き込まれたことがないんですけれど、でも、確実に「あ、これはとても苦しいな」とか「辛いな」ということを私なりに感じたことはあります。会社とかで「どうしてこの人はこんな酷いことを言うんだろう」って観察してしまったり、「なんでこんなことが起きたんだろう」って考えたり。そういった、本当に身近なところから始まる物語、日常の延長にあるものを大切にした小説を書いていけたらいいなと思っています。読み終わって、ほっと救われるような話が書けたら、最高ですね。