女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第18回 受賞作品

王冠ロゴ 友近賞受賞

千加野あい

「今はまだ言えない」

千加野あい

――このたびは友近賞受賞おめでとうございます。受賞を知っていかがでしたか。

 信じられませんでした。当日は職場にいて編集さんからの電話を受けたのですが、怖気づいたというか、なんだか怖くなってしまいました。
 私の職場は、部屋を出て廊下をまっすぐ行くと突き当たりが全面ガラス窓になっていて東京タワーが見えるんです。電話が来たらこの東京タワーを見ながら結果を聞くのかなぁなんて想像していたんですが、実際には下を走る車ばかり見ていて、編集さんの言葉もなかなかうまくのみこめなくて。正直あまり記憶がありません……。

――これまでも小説を書いたり賞に応募したり、ということはされてきたんですか。

 小説は、小学校のときにはもう書いていました。でも、コンスタントにずっと書いていたわけではなくて、何かに触発されたように書いたり、そのあとしばらく書かなかったりと気まぐれに。仕事が忙しい時期は書けなかったですし、賞に応募したのは5度目ですが、今回の執筆は4年ぶりでした。

――4年の沈黙を破って、受賞作「今はまだ言えない」を書きはじめたきっかけはなんだったのでしょう。

 はっきりコレ、というきっかけはないのですが、アイディアの断片は随分前からありました。困難を抱えた女性たちの支援活動をしている知人がいて、話を聞いているうちに興味を抱き、性暴力やセックスワーカーを扱った本をいくつか読んだんです。
 最初は確か、元風俗嬢の教師の話を書こう、と考えました。思いついてから書き出して、完成させるまでが私は長いので。仕事がない土日にちょっとずつ、半年かけて書きました。

――では書きはじめたときはこの賞へ応募するために、ということではなかった?

 そうですね。書いている途中で応募を考え始めました。「R-18文学賞」のことはもともと知っていて、女性が選ぶという賞のコンセプトが素敵ですし、短編でネット応募という気軽さや、選考委員の豪華さも魅力的でした。何より、この賞出身の作家さんが好きで、そういう憧れの場所で自分の作品がどの程度評価されるのか力試ししてみたい、という気持ちでした。
 受賞とか作家デビューとかは、もちろん目指していましたけど、あまり具体的には想像していなかったです。

――友近さんは「こういう生き方、あるなあ」と胸に迫ってきたと評価されました。読者からの声でも涙した、という感想がとても多く、折り鶴やおっぱいアイスなど読み手の共感を誘うエピソードが印象的でした。

 どうもありがとうございます。
 みなさんに自分の作品の感想、講評を書いていただけたということが、ただただ嬉しかったです。私はWebなどに作品を投稿する、ということもしてこなかったので、これまで読者の反応を知るという経験がほとんどありませんでした。選評を読んで、もっと読み手を意識して書かなければと思い知ることもできました。
 正直、書くのが楽しいかと訊かれると頷けないし、何のために書くのか、という質問にもすらすら答えることができません。それでも、飽きっぽい私が続けてこられたことって小説とスキマスイッチだけなので(笑)。これからはプロ意識をもって、精一杯書き続けていきたいと思います。

――ではさいごに、今後書いてみたいテーマなどがあれば教えてください。

 今回は、経済的理由でセックスワークをせざるをえなかった人びとを書きました。でも中にはその仕事に誇りを持っている方もいますし、「なんとなく」で始める方も多くいらっしゃいます。でもそれは、セックスワークに限らずどんな仕事も一緒だと思うんです。そういう誰かの「なんとなく」としかいいようのない曖昧な気持ちに、向き合って書いてみたいです。五十枚の中には収まらなかった書きたいことが、まだまだたくさんあるので。
 あとミステリの賞に応募するつもりで、長編の構想もしていたので、そちらもいずれ仕上げたいです。