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作品名 作者名 コメント
ありがとう西武大津店 宮島ムー 天才少女・成瀬あかりと、彼女をそばで見続けると決めている島崎みゆき。月末で閉店してしまうデパートに毎日出向き、ローカル情報番組の中継に映りこむという成瀬のプロジェクトのユニークさにまず笑いました。それがさほどバズらないところもよかったです。成瀬と島崎の飄々とした友情が好ましく、二人の物語をもっと読んでみたいなあと思いました。
コージーコーナー 緒田栞 昔から人に付け込まれやすい体質の主人公。そんな主人公のもとに今度は息子の元カノが入り込んでくる……。ストーリーの設定が面白く、ジワジワと自分の領域が侵食されていく違和感から恐怖を煽る展開の仕方が巧みでグイグイと読ませられました。人物描写も上手く、「こういう人いる」というリアルさが展開の面白さを際立てていました。
なめらかにつげる 雨京香住 恋人と別れ、母を亡くした喪失感を四年たった今でもひきずる百花は、一念発起して新居に引っ越す。アパートの隣人である五十川さんの勤めるリサイクルショップを拠点として、新しいコミュニティでの生活が始まる……。吃音を抱えながら、地道に、でもなるべく前向きに生きようとする一人の女性の日常を、丁寧に描く。五十川さんたちとの程よい距離感が好もしい。
爪の先と爪切り にしまあおり 美しい兄への劣等感、好きな人の好みに近づこうと「擬態」していく親友への違和感、自身の外見と中身への思春期ならではの様々な思い、悩みを抱える主人公の女子高生とそれぞれの登場人物とのやり取りが印象に残りました。特に「待って。じゃあ爪切り貸して」という親友の仮の彼氏の幸田君の言葉。気味が悪いのですが、持て余してしまった恋心のようにも感じられ、なんとなく気恥ずかしさを感じました。思い出したくないけれど、忘れられない思春期のあの時が切り取られた作品だと思います。
水たまりのできる場所 緒田栞 夫を自殺によって失ってしまった主人公と彼女が働く居酒屋で働く人たちの物語。大なり小なりそれぞれの人にある辛いことが豊かなキャラクター達により語られます。人の辛さを理解するのは難しいと話しながら、居酒屋で彼女たちが料理を囲みながらお互いの辛い出来事と気持ちを共有して自分の傷を癒していく様子が素敵です。要所で出てくるいろいろな居酒屋ごはんの描写も魅力的でした。
悪い癖 戸塚セーラ コンノと相良、二人の男について語る「私」の言葉がとても心地良く、するすると物語に入っていけます。どちらの男も「私」にとって抗えない魅力と個性があり、またそれを語る「私」自身も賢く芯のある素敵な女性だということが文章の隅々から伝わってきて、筆力を感じました。現在と過去の出来事が並行して進み、思ってもみなかったラストに連れていかれる、起伏と驚きのある展開も良かったです。
私の優勝 水野みちる 心の病で休職中のOL、時田枝織。慰めは、等身大の抱き枕(カバー)のアニメキャラ・響也だ。響也がいれば、最高。無敵。優勝の気分。ところが、ある日枝織は子猫を見つけ、それを小学生・牧村七海に見つかり、七海の代わりに子猫を預かるハメになってしまう。この奇妙な関係は案の定騒動を招くのだが、枝織が奮闘し、響也まで絡んで、淋しい同士の二人が小さな愛を見つけるファンタジックな展開に才能を感じました。
あのこの・あのこと 水野みちる アイドルの生理周期を予測しSNS投稿する。そんな不愉快なアイドルオタクである主人公を説得力たっぷりに描き、共感までさせられてしまい脱帽。対するアイドルのほうも血の通った魅力的な人物で、個性のある人と人とのぶつかり合いから生まれる化学反応を見事に物語にしています。テーマもとても今日的で、文章にも躍動感があり、非常に完成度が高い作品でした。
母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養です。 松下志緒 母乳の出にくい新米お母さん。序盤は「趣味」と称して思いつくままにコールセンターへ電話をかけるなんて傍迷惑な女だと思っていましたが、愚痴をぶつける隙もないほど優しい夫と、粉ミルクの缶に記載された一文に劣等感を強めていく姿にぐいぐい引き込まれ、いつの間にか、独りでもがく主人公と同じように苦しい気持ちを味わっていました。夫との関係の変化やお母さん自身の成長など、先の展開も読みたくなった作品でした。
棺桶にドーナツ 松原凛 ほとんど何も語らない兄のことを、妹(語り手)と同化したように、愛おしい気持ちで読みました。実際にこの世界で起きているであろう不条理の一つが、リアリティをもって立ち上がっているところに筆力を感じます。ただ、自死した義姉からのメッセージを読んで、妹はどう変化したのだろう、と思いました。語り手である彼女の変化が、本作の最も重要なポイントだったのではないかと思いました。
アイスと白蛇 松原凛 父の不倫相手と何故か親交を結んでしまう少女のお話に、どこか既視感を覚えながら読んでいた部分もあるのですが、後半に様相がガラッと変わり驚きました。読み終えてから再読してみるときちんと伏線も張られていて、どこかのどかな読み味も含めて、著者の企みだったのではないかと思いました。ぜひ他の作品も読んでみたいです。
どうぶつの病院 山下真青 のびやかな文章で描かれる「どうぶつ病院」は温かで、思わず寛ぎたくなります。だけどその裏には人には言いにくい父との関係があり、その「伝えづらさ」をうまく言葉にしているのが心に残りました。短い文量で展開もしっかりある。ただ抽象的な描写がそのまま謎として残ってしまっているのは気になりました。どうぶつ病院が暗示するもの、奇妙な学生生活の真相などを物語中で回収すると、より気持ちのいい読後感になると思います。
枯れない花を抱いて歩く 芹沢夏 専業主婦の「わたし」が、以前の職場の同僚男性と再会。フローリストの妻と別れた彼の家の空の花瓶を埋めるように、毎回花を手土産に、穏やかな時間を過ごす。この時間が大切になればなるほど、自分の人生の閉塞感を実感し……。まず、文章力が非常に高いと感じました。描写が鮮やかでありありと目に浮かびます。物語は平板でしたが、容易には踏み外せない、失えない生活の中での、ささやかな前進に好感を持ちました。
穴とつぼみ 岡英里奈 「穴」をもつ男と「つぼみ」をもつ女は、30歳までに恋愛で命を落とす――。主人公たちが生きる現実を「設定」や「ファンタジー」と感じさせずに読ませ切る、確かな世界観を感じました。彼らが与えられた境遇のなかでもがき、自分は何者なのかという謎を追う過程で、生命や記憶といった壮大なテーマをさらりと扱ってしまう手腕に唸ります。そしてたどり着く「かわいい」という感情のかなしさといとおしさが胸に響きました。
スターチス 岡英里奈 この世界において家族や愛とは何か、興味深かったです。設定が曖昧なところがあるので、書き込みが自然な形で増やせるとリアリティがでると思います。設定のインパクトが強いため、登場人物の印象が弱く感じました。あかねの亮への気持ちと、かれんちゃんへの気持ちはどう違うのか、大人旅行の前後で彼らはどう変わったのか、変わらなかったのか、感情の描写や変化に寄り添った文章が入ってくるともっと良くなるのではと思います。
波間に浮かぶ月 もとずみ純 村人から「流れ者の子」と後ろ指を指され、人生を諦めてきた主人公・ゆき。彼女が恋に落ち、 村の外へ踏み出したいと願う姿が濃やかに描かれ、ぐいぐい物語に引き込まれました。慎ましい山村の暮らしや、村の男の夜這いを受け入れるゆきの身の上等、設定がしっかりしていて、現代ではない時代を見事に描ききっていると思います。文章のリズムも心地よかったです。ただあともう少し、ゆき自身に主体性がある展開もみてみたかったと思いました。
擬人と愛情 青柳沙耶 ペットの擬人化技術が発達した近未来という設定が独特で、目を引きました。そうした一見突飛な背景によって炙り出されていく男女のすれ違いは良い意味でありふれていて実は普遍的なストーリーとして成立しています。読んだことのないものを読んだ、でも確かに知っている感情がそこにある――と思える作品でした。
私の口にマカロンは合わない 花月文香 家族からの圧力にじわじわとさいなまれ、削られていく心。身近な話ですが、登場人物それぞれがリアルで、力を感じました。未来を感じさせる終わり方にも好感がもてました。