新潮社

村上龍『MISSING 失われているもの』

《本書へのコメント》

坂本龍一

この小説で村上龍はとうとう、意識の最奥部まで降りていき、言語化するという困難な作業をした。いや、せざるをえなかった。それは僕たちに、記憶と意識の分水嶺が定かではないこと、記憶は再生されるのではなく、常にその時作り出されること、そしてそれは僕たちが現実と呼ぶものに混入していることを、あらためて教えてくれるのだ。


試し読み

第1章「浮雲」

1

Image

「おれは、お前が、キーボードに打ち込むことは、何となくわかる。なぜかと言えば、おれが生まれてからずっと、お前のデスクの上にいたからだ。