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白洲正子全集 別巻

白洲正子/著

6,270円(税込)

発売日:2002/09/10

  • 書籍

日本文化の美しさを教えてくれた“語り部”の全貌を明らかにする、初の全集。

稀代の名文家は、また座談の名手でもあった。円地文子と源氏物語から現代作家や歌舞伎の役者について語った「古典夜話」、加藤唐九郎に「永仁の壺」事件の真相について迫る「やきもの談義」。他にも河合隼雄、多田富雄、養老孟司、ライアル・ワトソン、赤瀬川原平、仲畑貴志らを相手に丁丁発止、話題は無限に広がる対談集を収録。

目次
古典夜話――けり子とかも子の対談集
まえがき
「お水取り」と観音信仰
「葵上」の周辺
物の怪について
源氏物語拾遺・一
源氏物語拾遺・二
世阿弥のこと
幽玄と変身
昔、男ありけり
戯曲というもの
作家について
あとがき
やきもの談義
前白
仕事のこと/鉄斎さんの思い出/窯の話/灰の話/窯あけ/志野の土/酒器/窯ぐれ/日本人の好み/やきものの神さん/文化の変遷/信長の魅力
永仁の壺のこと/伝統について/陶土について/磁器と陶器/最近の風潮/職人論
文化と風土/中国文化の影響/中国の陶器/芸術と恋愛/言葉と文化/男と女
酒と料理/明治村/水の話/翠松園にて/生いたち
対話――「日本の文化」について
日本の美 豊福知徳
ものと付き合う 辻清明
桜を歌う詩人たち 大岡信
西行の漂泊と無常 目崎徳衛
明恵上人 ヘンリ・ミトワ
橋の文化 網野善彦
幽玄の世界――能 金春信高
「隅田川」をめぐって――歌舞伎と能 渡辺保
まことの茶人 安土孝
今を生きる 仲畑貴志
おとこ友達との会話
目玉論 赤瀬川原平
神憑りの神語り 前登志夫
骨董三昧 仲畑貴志
トマソン風座談 尾辻克彦
自分の時間 青柳恵介
南北朝異聞 前登志夫
日本談義 ライアル・ワトソン
樹海でおしゃべり 高橋延清
魂には形がある 河合隼雄
身体の不思議 養老孟司
お能と臨死体験 多田富雄
解説・解題

書誌情報

読み仮名 シラスマサコゼンシュウベッカン
シリーズ名 全集・著作集
全集双書名 白洲正子全集
雑誌から生まれた本 芸術新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 578ページ
ISBN 978-4-10-646615-1
C-CODE 0395
ジャンル 全集・選書
定価 6,270円

書評

波 2002年11月号より 「白洲正子全集」の魅力  「白洲正子全集」

青柳恵介

個人全集を読む楽しみは、その代表的な述作に混じった小篇を読み、この人はこんなことも考えたり感じていたのかと、些細かもしれないけれども思わぬ発見をするところにある。
たとえば「白洲正子全集」第十四巻には文字通り「ささやかな発見」という短いエッセイがあり、そこにこんな話が書かれている。十歳の頃、学習院の遠足でお浜離宮に出かけ、少女正子は沖行く蒸気船を眺め「お前はえらいよ、西郷さんだよ、蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌ったという。そんなことはすっかり忘れていたが、それから七十年以上が経って白洲正子は友人に、「わたしはその歌に一生救われたのよ。それだけに頼って生きてこられたの」と言われてキョトンとする。友人は、わがままな亭主の勝手なふるまいに接する度に「お前はえらいよ、西郷さんだよ」と歌って気を紛らかしていたらしい。八十六歳の白洲正子は「考えてみればとるにもたらぬ話だが、案外とるにもたらぬささやかなものの中に人生にとって大事なことがかくされている場合は多い」と書いている。
もちろん、こんな話は『白洲正子自伝』には出て来ない。子供の頃の思い出と言えば、無口で不機嫌で自閉症に近かったと『自伝』には記している。しかし、一方では大きな声で「蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌って友達を笑わせる、何か彼女の生涯を貫いて発散した天衣無縫の明るさのようなものが感じられるだろう。彼女自身が気づいていない己の気質を「ささやかな発見」と呼んでいるように思われる。長生きをした人の全集ならでは味わえぬ読書の醍醐味である。
全集は歌で言えば私家集に相当する。一首の名歌が生れるまでに、いかに沢山の類歌がよまれ、モチーフを温める過程を必要としたか、それは私家集を読む者の共通した感慨であろう。全集も同じだ。
「白洲正子全集」には何度も繰り返し語られる話題がいくつもある。小学校に上る前、母親と共に維新前に大久保利通が逼塞していた京都の暗い家で暮したこと、結婚してまだ間もない頃に初めて大和の聖林寺を訪れ、そこで眺めた十一面観音のこと、苦労して手に入れた高価な紅志野の香炉を手放したときのこと、青山二郎と初めて出会ったときのこと、並べられた盃の値をつけてみろと小林秀雄に迫られたときのこと、そして西国巡礼の経験。あげて行けばまだまだあるが、それらの経験を、一つの器物をあちらから眺め、こちらから眺め、そして光の強弱を調整して眺めるが如く、白洲正子は繰り返し語っている。
一人の人間が一つのモチーフを生涯の中でどのように温めるか、言わばそれこそが作家の秘密であろう。その秘密に接近しようとすれば、全集を読むことから始める以外に道はない。

(あおやぎ・けいすけ 白洲正子全集編集委員)

▼「白洲正子全集」全十四巻/別巻一は、発売中

著者プロフィール

白洲正子

シラス・マサコ

(1910-1998)1910年東京生まれ。幼い頃より能を学び、14歳で女性として初めて能舞台に立ち、米国留学へ。1928年帰国、翌年白洲次郎(1902〜1985)と結婚。古典文学、工芸、骨董、自然などについて随筆を執筆。『能面』『かくれ里』『日本のたくみ』『西行』など著書多数。1998年没。

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