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白洲正子全集 第九巻

白洲正子/著

6,270円(税込)

発売日:2002/03/08

  • 書籍

日本文化の美しさを教えてくれた“語り部”の全貌を明らかにする、初の全集。

四季折々の野の花を自ら活け、小文を添えた「花」、木工、刺青から精進料理まで、様々な職人の手業を追ったルポルタージュ「日本のたくみ」、自由に歴史に遊ぶ紀行文「私の古寺巡礼」など、軽快な執筆。

目次
初春
梅/餅花・椿/白玉椿/万葉の椿/菜の花/初雪おこし/白木蓮/伊勢なでしこ・山吹草・卯の花/わさび・すみれ・ぜんまい/花水木/白山吹
てっせん/てっせん/藤/牡丹/ライラック/ほうちゃく草・黒百合/谷うつぎ/卯の花垣/しゃが/朴の木/花菖蒲/夏椿/大山れんげ・伊勢なでしこ/野あざみ/ほたるぶくろ/白あじさい
ききょう・なでしこ・三白草/もじずり・ほたるぶくろ・くちなし/がくあじさい/あざみ・すすき/花屏風/きんしばい/びょうやなぎ/睡蓮/ききょう・三白草/ききょう/白月見草・なでしこ/あけび・百合/縄文の蓮/山百合
葛/夕顔/すすき/紫式部・松虫草・なでしこ/えのころ草・貴船菊/秋草・ほおずき・しお菊/栗/椿の実/嵯峨菊・りんどう/貴船菊/もみじ/ほととぎす・えのころ草
冬枯れ/くろもじ/椿
あとがき
日本のたくみ
扇はあそび 中村清兄
花の命を染める 志村ふくみ
穴太衆の石積み 粟田万喜三
土楽さんの焼きもの 福森雅武
木工を支えるもの 黒田乾吉
白木の芸 飛騨の職人衆
黄楊の小櫛 松山鐵男
贋物づくり 横石順吉
花をたてる 川瀬敏郎
光の魔術師 多田美波
刺青は生きている 大和田光明
水晶のふる里 朝山早苗
印伝 甲府の皮職人
月心寺の精進料理 村瀬明道尼
ハシの文化 市原平兵衛
お水取の椿 吉岡常雄
糸に学ぶ 田島隆夫
即興の詩 古澤万千子
後記
私の古寺巡礼
古寺を訪ねる心――はしがきにかえて
若狭紀行
お水取りの不思議
葛城山をめぐって
熊野の王子を歩く
南河内の寺
室生寺にて
近江の庭園 旧秀隣寺と大池寺
幻の山荘 嵯峨の大覚寺
折々の記
高山寺慕情/木母寺今昔/平等院の雲中供養仏/日吉神社の十一面観音像/信州小諸の布引観音/回峰行の魅力/回峰行について/観るということ/正倉院に憶う/賀茂のみそぎ/円空の求道心/善悪不二の世界/仏隆寺の桜/禅寺丸/菜の花の咲くころ
エッセイ 一九八〇―一九八六
名筆百選
戦国時代の意匠
千田さんの唐紙
飛鳥園二代
晩年の祖父
つくる
福原先生と雛恵夫人
古都奈良の春色
太陽讃歌
西行のゆくえ
小林秀雄の『無常という事』
能面
『日本の名随筆 陶』あとがき
梅若六郎師を憶う
薪能今昔
人生の一瞬と見立てて……
生きた仏たち
日本の百宝
花と器
花は野にあるごとく
木本誠二著『謡曲ゆかりの古蹟大成』を読んで
日記から
木とつき合う
薪能におもう
日々録
あたしのお茶
甲斐の国
持仏の十一面観音
古面の魅力十選
糸数ウナリさんの絵
おてんと様に念う
解説・解題

書誌情報

読み仮名 シラスマサコゼンシュウ09
シリーズ名 全集・著作集
全集双書名 白洲正子全集
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 602ページ
ISBN 978-4-10-646609-0
C-CODE 0395
ジャンル 全集・選書
定価 6,270円

書評

波 2002年11月号より 「白洲正子全集」の魅力  「白洲正子全集」

青柳恵介

個人全集を読む楽しみは、その代表的な述作に混じった小篇を読み、この人はこんなことも考えたり感じていたのかと、些細かもしれないけれども思わぬ発見をするところにある。
たとえば「白洲正子全集」第十四巻には文字通り「ささやかな発見」という短いエッセイがあり、そこにこんな話が書かれている。十歳の頃、学習院の遠足でお浜離宮に出かけ、少女正子は沖行く蒸気船を眺め「お前はえらいよ、西郷さんだよ、蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌ったという。そんなことはすっかり忘れていたが、それから七十年以上が経って白洲正子は友人に、「わたしはその歌に一生救われたのよ。それだけに頼って生きてこられたの」と言われてキョトンとする。友人は、わがままな亭主の勝手なふるまいに接する度に「お前はえらいよ、西郷さんだよ」と歌って気を紛らかしていたらしい。八十六歳の白洲正子は「考えてみればとるにもたらぬ話だが、案外とるにもたらぬささやかなものの中に人生にとって大事なことがかくされている場合は多い」と書いている。
もちろん、こんな話は『白洲正子自伝』には出て来ない。子供の頃の思い出と言えば、無口で不機嫌で自閉症に近かったと『自伝』には記している。しかし、一方では大きな声で「蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌って友達を笑わせる、何か彼女の生涯を貫いて発散した天衣無縫の明るさのようなものが感じられるだろう。彼女自身が気づいていない己の気質を「ささやかな発見」と呼んでいるように思われる。長生きをした人の全集ならでは味わえぬ読書の醍醐味である。
全集は歌で言えば私家集に相当する。一首の名歌が生れるまでに、いかに沢山の類歌がよまれ、モチーフを温める過程を必要としたか、それは私家集を読む者の共通した感慨であろう。全集も同じだ。
「白洲正子全集」には何度も繰り返し語られる話題がいくつもある。小学校に上る前、母親と共に維新前に大久保利通が逼塞していた京都の暗い家で暮したこと、結婚してまだ間もない頃に初めて大和の聖林寺を訪れ、そこで眺めた十一面観音のこと、苦労して手に入れた高価な紅志野の香炉を手放したときのこと、青山二郎と初めて出会ったときのこと、並べられた盃の値をつけてみろと小林秀雄に迫られたときのこと、そして西国巡礼の経験。あげて行けばまだまだあるが、それらの経験を、一つの器物をあちらから眺め、こちらから眺め、そして光の強弱を調整して眺めるが如く、白洲正子は繰り返し語っている。
一人の人間が一つのモチーフを生涯の中でどのように温めるか、言わばそれこそが作家の秘密であろう。その秘密に接近しようとすれば、全集を読むことから始める以外に道はない。

(あおやぎ・けいすけ 白洲正子全集編集委員)

▼「白洲正子全集」全十四巻/別巻一は、発売中

著者プロフィール

白洲正子

シラス・マサコ

(1910-1998)1910年東京生まれ。幼い頃より能を学び、14歳で女性として初めて能舞台に立ち、米国留学へ。1928年帰国、翌年白洲次郎(1902〜1985)と結婚。古典文学、工芸、骨董、自然などについて随筆を執筆。『能面』『かくれ里』『日本のたくみ』『西行』など著書多数。1998年没。

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