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中国「国恥地図」の謎を解く

譚ろ美/著

968円(税込)

発売日:2021/10/18

書誌情報

読み仮名 チュウゴクコクチチズノナゾヲトク
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 239ページ
ISBN 978-4-10-610927-0
C-CODE 0225
整理番号 927
ジャンル ノンフィクション
定価 968円
電子書籍 価格 968円
電子書籍 配信開始日 2021/10/18

海洋進出、一帯一路、覇権主義。すべての起源はこの地図だった! 日本に繋がる不審な記述、繰り返される改訂、僅かに現存する「国恥地図」2枚を公開。

かつて中国が列強に奪われた領土、すなわち「中国の恥」を描いた地図があるという。その名も「国恥地図」。その実物を手にした筆者は唖然とした。国境線は近隣十八か国を呑み込み、日本をはじめ三か国を切り取り、南シナ海をほぼ囲い込んでいたのだ。こんな地図がなぜ教科書に? 誰がなぜ作らせた? なぜ図面に「日本語」が?――執念の調査と取材で数々の謎を解き、中国の領土的野望の起源を明らかにする。

目次
はじめに
第一章 香港返還後の「国恥地図」ブーム
中国共産党の舌と喉/「中国は世界を先導してきた」/最も有名な風刺画/日中でまるで異なる「夫婦げんか」/「二十一ヵ条要求」で生まれた国恥/八つの国恥記念日/中国近代のトラウマと「公定ナショナリズム」/実物の国恥地図を見てみたい
第二章 小学生の地理教科書に「国恥地図」
一九三三年発行『本国新地図』/驚愕の赤線範囲/解説文を全訳すると/どこが事実と異なるか/「元」は蒙古族の国、「清」は女真族の国/南シナ海は未決着
第三章 もう一枚の「中華国恥図」が描く南シナ海
一九三九年版もあった!/表紙に「中山紀念堂」/目次では「疆界変遷図」だが/南シナ海の「赤線」が動いた/「偽満州国を建設している」/中華民国が定めた領土/拙速に製作した?
第四章 蒋介石が始めた「国恥」教育
「内政と教育から始める」/蒋介石と中国共産党/済南事件での激しい屈辱/蒋介石の日本軍事留学/「国恥を雪辱するまで」/四つの教育方針/「民衆学校」に「民衆教育館」/各種「国恥」グッズも
第五章 国恥地図になぜ「日本語」が?
奇妙な「亜細亜洲」「中国本部」/日本製の地図が下敷きでは?/世界レベルの地図製作術/“武器”に使われた『皇輿全覧図』/孫文の日本製『支那現勢地図』/非公開の『支那現勢地図』を見る/ベースマップ/八千名もの留学生/「我が国には国名がない」
第六章 地図には「美」と「科学」と「主張」がある
照らし合わせるのが早道/平凡社地図出版へ/陸軍陸地測量部/民間地図の開祖・木崎盛政/地図製作アナリスト、辻野民雄/「国宝的地図現る」/理学博士・小川琢治とのタッグ/「『平』という字体はそっくり」
第七章 金港堂と上海商務印書館による「合弁」教科書
教科書疑獄事件/木崎盛政を救った依頼/不可思議な四大出版社筆頭/上海での「日本ブーム」/なぜ印刷所を再建できたか/清国に進出する二方式/編纂責任者が指名手配に/「順序」と「挿絵」のある教科書/東京に現存する「合弁の地理教科書」/「上海(商務)印書館の地図類全部を引き受けている」/木崎盛政による『大清帝国全図』/ある中国人製図家の記録
第八章 社長暗殺とその後の「国恥地図」
ベストセラーへの恨みと反発/合弁解消/社長銃撃される/上海に林立する地図出版社/「申報」のフランス批判キャンペーン/水陸地図審査委員会と白眉初/「ジェームズ礁」を書き替えた/「十一段線」への疑問/虚構による「空間認識」と「失地意識」
第九章 見るべき五つの国恥地図
「領海」が膨らんでいく/一、「前清乾嘉以後中華領域損失図」/二、「中華国恥地図」/三、「中国国恥地図」/四、「中華国恥地図」/五、「海疆南展後之中国全図」/伸びていく中国領の南限
第十章 「貧しいときは我慢し、富んだときに復讐する」
「九段線は正しい」という学生たち/ジェームズ礁に中国の標識/引き合いに出される白眉初の地図/二〇〇七年頃からの唐突な主張/緊迫する南シナ海/文化大革命後の歴史地理学/「中国市場で儲けているくせに」
おわりに
参考文献

インタビュー/対談/エッセイ

「国恥地図」を知れば、中国人の頭の中が分かる

譚ろ美

「国恥地図」って、なに?! それが私の第一印象だった。初めてその名を耳にしたのは、「香港返還」があった1997年のことだ。「国の恥を描いた地図」とは、なんとおぞましい命名だろう。聞けば、戦前の中華民国時代に作られ、かつて中国が列強に奪われた領土を示した地図だという。当時、香港で復刻版が刊行されてブームになっていた。
 偶然、古書店でその実物を手に入れて、私は唖然とした。中国の国境線が、近隣18ヵ国を呑み込み、日本など3ヵ国の一部を切り取り、南シナ海全域をすっぽりと囲っていたのである。こんな荒唐無稽な代物を、いったい誰が、いつ、どんな目的で作ったのか。こうした疑問を抱きつつ、私は調査と取材の旅に出た。
 本書は、国恥地図の謎を追って100年前の世界に分け入り、中国近代地図の成り立ちと断絶にまつわる真実を探し求めた旅の記録であり、深遠で美しい地図の魅力に触れつつ、歴史の波に翻弄された人々の壮大な物語でもある。
 中国で「国恥」という言葉が最初に現れたのは、1915年、日本が中国に「二十一ヵ条要求」を突きつけた時だとされている。さらに1928年、蒋介石が政権を掌握した後、国民教育の一環として、「国恥キャンペーン」を実施した。その際、文字の読めない民衆に国家観念を植え付けるために、政治思想をビジュアル化した国恥地図を作り、小中高校の地理教科書にも取り入れた。当時、数多くの国恥地図が作られ、世間に出回った。「国恥記念日」が制定されたのも、この頃だ。
 もっとも、国恥地図のスタイルは様々で、地図によって領土を示す範囲もバラバラだ。本書では、入手できる限りの国恥地図を比較して、領土の範囲が時代とともに膨れ上がっていく過程をつまびらかにした。
 国恥地図を見ていて、実に不可解だったのは、「日本語」のような表記が多数混じっていたことだ。そこから日本と中国の地図の関わりについて、新たな追跡が始まった。果たして、日中初の合弁地図出版社の存在が浮かび上がり、その破綻と暗殺事件の実態や、中国で近代地図のバイブルと崇められる地図が、実は日本人製図家の手によって製作されたものだったことなどが判明して、秘められた日中近代地図史の一端が明らかになった。
 驚くことに、南シナ海の領有権問題も、「国恥地図」と深く結びついていた。現在の中国政府は、中華民国時代に作られた「国恥地図」を根拠に、伝統文化と現代政治とを結びつけて、領有権の正当性を主張している。だが「国恥地図」の歴史的変遷をたどってみれば、呆れるほどのドタバタ喜劇があり、数々の政治的思惑や偶然の出来事が折り重なっていることに気づく。
 今日的テーマである中国の領土的野心の根源を知り、中国人の歴史認識を理解するうえで、「国恥地図」は大きなヒントを与えてくれている。

(たん・ろみ 作家)
波 2021年11月号より

著者プロフィール

譚ろ美

タン・ロミ

東京生まれ。作家。慶應義塾大学文学部卒業。元慶應義塾大学訪問教授。革命運動に参加し日本へ亡命後、早稲田大学に留学した中国人の父と日本人の母の間に生まれる。『中国共産党を作った13人』『阿片の中国史』『戦争前夜—魯迅、蒋介石の愛した日本』など著書多数。

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