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空気が支配する国

物江潤/著

792円(税込)

発売日:2020/11/18

  • 新書
  • 電子書籍あり

戦時中も、コロナ禍も……大事なことは何となく決まる。日本の同調圧力の正体を徹底解剖。

“それ”はいつの間にか場を支配し、事が決まっていく。その圧力に抗うことは困難だ。日本では法よりも総理大臣よりも上位に立つ存在、それが「空気」である。あの戦争の時も、コロナ禍においても、国家、国民を支配したのは「空気」だった。なぜそうなるのか。メディアやネットはどう作用しているか。息苦しさを打ち破る手立てはあるのか。豊富な事例から得体の知れぬものの正体をロジカルかつ鮮明に解き明かす。

目次
まえがき
第1章 空気、この厄介な存在
政府のコロナ対応は遅かったのか/守るべき掟である空気/どうして日本人は空気を守るのか/高コンテクストという土壌/賛否両論の同調圧力/沢山の共同体がある外国/どこの国にも同調圧力はある/掟でなければ空気ではない/社会不安を利用したナチス/曖昧な掟が息苦しさのもと
第2章 誰が空気を決めるのか
名著『「空気」の研究』/民主政だけど民主主義ではない国/空気を決める代表がいるはず/テレビ番組にいる代表たち/代表はどのように作られるのか/演出が事実とは相違した空気を作る/論理的な主張よりも扇動的な主張/空気に対抗できる武器があるかどうか/意思決定の主体が不明
第3章 制御不能の恐ろしさ
トップエリートの悪しき習慣/自動制御装置まで備えた掟/安倍政権をめぐる実体語と空体語/共同で作り上げた安全神話/貧しかった原発立地地域/波及する掟/インパール作戦/せめてビルマで一旗あげてほしい/制御できない曖昧な掟/上司の願望が現実化/外国人は理解できない「忖度」/曖昧さの危険性
第4章 学校の中は地雷だらけ
教室は たとえて言えば 地雷原/スクールカーストとはなにか/一軍が作るカーストリスト/スクールカースト当事者の話/合唱祭はほどほどに、体育祭は死ぬ気で/スマホが広げるサバイバル生活/道徳心は決め手にならない/いじめがあっても「一軍は善」の空気が維持される/リストの崩壊/卒業生の感想/アメリカのスクールカーストとの違い
第5章 新型コロナ禍の空気論
田中角栄は巨悪だったのか/大きなメリットもある現今主義/空気を探り続けた新型コロナ禍/空気を読んでから法という名の掟を作る/曖昧さが生む副作用/大阪府知事をどう見るか
第6章 「ネットの正義」の強い副作用
現今主義を打破するようにも思えたインターネット/選択的接触がもたらす偏り/首尾一貫した虚構の世界/乱立するカリスマ/炎上における違和感の正体/正義の心が生む罵詈雑言/保守であれば対話ができるはず/現実にはない理想を目指すリベラル/政治家が空気を読み過ぎる恐怖
第7章 精神は常に自由である
空気を振り返る/空気はなくせない/個人が前提とすべきこと/『生きる』が教えてくれること/「変わらなくてはならない」って本気?/あのエネルギーはどこへ/行き過ぎた現今主義を防ぐために/抗空意見の尊重を/民主主義への近道はない/SNSで実体語を発する意味/私たちは自由である

書誌情報

読み仮名 クウキガシハイスルクニ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610883-9
C-CODE 0236
整理番号 883
ジャンル 心理学、社会学
定価 792円
電子書籍 価格 792円
電子書籍 配信開始日 2020/11/18

インタビュー/対談/エッセイ

堀江氏が破った掟とは何か

物江潤

 堀江貴文氏と餃子店の騒動は記憶に新しい。店内でのマスクに関するルールを巡って店主と口論になり、堀江氏の一行が入店を拒否された一件だ。
 その後、堀江氏はネット上で持論を展開した。「マジやばいコロナ脳。狂ってる」と書き込んだうえに、店舗を特定しうる情報を流したため、主張に共感したネットユーザーから同店に迷惑電話が殺到。店は休業に追い込まれた。
 この騒動を受け、心理学者、弁護士、モデルでタレントのゆきぽよ等々、まさに四方八方から堀江氏は批判を浴びた。堀江氏にも言い分もあると思うが、店が休業を余儀なくされた発端が彼の書き込みだと見れば、非難されても仕方がない。
 一方、確かにマスクにまつわるルールには厄介な一面がある。実際、いつ・どこでなら外してよいのかと問われても、確たるルールがないため明快に答えるのは難しい。何となく空気を読みながら着脱した経験のある人も多いだろう。新型コロナ禍の今、空気を読む機会が随分と増えた。
 そもそもなぜ、空気を読むのか。それは、読まないと罰を受けそうだから。従って、空気は「掟」である。しかも、どんな掟なのかが明確ではないので、空気は「曖昧な掟」だと言える。
「明確な掟」があれば、それに従えばよいので空気を読む必要がない。裏返せば、「明確な掟」が不足しているとき、私たちは何となく読んだ空気を掟とするのだ。本当は議論をして掟を決めればよいのだが、日本は議論文化が希薄なのでそうもいかない。
 そんな空気は、法のような「明確な掟」と比較すると、色々と危険な特徴が見えてくる。たとえば、掟が非合理的だと判明しても、容易には変更ができないことだ。法のように人間が能動的につくった掟であれば、その欠陥が判明次第、人間の手によって修正ができるものの、空気の場合はそうはいかない。このままでは危ないと分かりつつ空気に従い、時として敗戦や原発事故といった破滅的な事態を招いてしまう。
 いつの日か、新型コロナは収束するだろう。そして、敗戦や原発事故の時と同様に、場を支配していた空気も消えてなくなるだろう。空気は忘れ去られ、新しい日常が始まる。
 しかし、本当にそれでよいのだろうか。アフターコロナとかウィズコロナとか新しいカタカナ語をつくるのもよいが、ずっと放置されてきた「空気の支配」という名の古くて重要な問題に、そろそろ真剣に取り組むべきではないだろうか。
 本書は、曖昧な掟である空気の正体を、なるべく具体的且つ分かりやすく解明することに注力した。また、その危険性と向き合い方についても記した。空気に振り回される個人や社会にとって、本書が少しでも有益な存在になれれば幸いだ。

(ものえ・じゅん 著述家)
波 2020年12月号より

薀蓄倉庫

「日本は同調圧力が強い」のウソ

「日本は世界的に見ても同調圧力が強い」といった主張をする人は多くいます。しかし、その根拠は多くの場合その人の経験、あるいは体感のようです。実際にこれを調べた心理学の研究が何度か行われましたが(慶応大学、大阪大学)、日本人とアメリカ人とでは大した差は出なかったようです。「同調圧力が強い! だから日本はダメ!」と言っている人は、実は後半の「日本はダメ!」を主張したいだけなのかもしれません。日本における空気の働きとはいかなるものか。詳しくは『空気が支配する国』(物江潤・著)で。

掲載:2020年11月25日

担当編集者のひとこと

安易な日本批判に走る前に

「●●は同調圧力が強い。窮屈だ」
「●●のムラ社会的体質が嫌だ」
 ●●には「日本」「日本人」や「ウチの会社」が入ります。こんな感じの言説をよく目にします。あるいは聞きます。
 特に多いのは「日本」でしょうか。
「日本ほど同調圧力の強い国は無い。個人の意思、権利よりも集団の空気が優先される」
 そうなのかもしれない、と思いつつも個人的には違和感もありました。
「日本は〜」「日本人は〜」という乱暴な一般化をしたうえでの物言い、決めつけが違和感のもとなのでしょう。
 その乱暴な一般化と、「日本人ならこうすべきだ」「ウチの社員ならこうして当然だ」という「同調圧力」はどこかで通じ合っているような気がしてしまうからです。
 なるべく多様な意見を聞き、集団で個人を押しつぶさないように心がけている人も、日本には多くいることでしょう。私もそうありたいと思っています。実行できているかどうかは別として。
 しかしこの手の論者にはそういう人は目に入れず「とにかく同調圧力が強いのだ」と言う。それって、同調圧力的思考の変形では、と思うのです。
 結局、こういう人が言いたいのは、同調圧力云々よりも「何か俺、不愉快。居心地悪い。気分悪い」ということなのでは、と考えると納得がいきます。
 本書『空気が支配する国』は、そういうステレオタイプの「同調圧力」論とは一線を画した論考です。どの国にも、どの社会にも同調圧力は存在する。では日本の特徴とはどこにあるのか。この問いに正面からぶつかっていきます。
 筆者は安易な日本批判には走らず、「空気」の長所、短所を示します。その思考の過程はとてもスリリングで、多くの共感を呼ぶものだと思います。

2020/11/25

著者プロフィール

物江潤

モノエ・ジュン

1985(昭和60)年、福島県生まれ。早稲田大学理工学部社会環境工学科卒。東北電力、松下政経塾を経て、2022年11月現在は福島市で塾を経営する傍ら社会批評を中心に執筆活動に取り組む。著書に『ネトウヨとパヨク』『空気が支配する国』など。

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