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いじめとひきこもりの人類史

正高信男/著

792円(税込)

発売日:2020/10/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

「逃げ場のない社会」の正体は? 「排除」の起源から、ポストコロナの未来まで『ケータイを持ったサル』著者による画期的論考!

野生の動物は不快なものには近づかない。危険を感じればすぐ逃げる。なのになぜ、ヒトの世界にだけ「いじめ」が成立するのか。その起源は、遊動・狩猟から定住・共同体へ、という劇的な生活変化にある。そこで始まった「よそ者」排除は、異界への「漂泊」「隠棲」を経て、逃げ場のない現代社会において大勢の「ひきこもり」を生みだした。500万年にわたる人類史から、ポストコロナの社会像をも見据える壮大な文明論。

目次
はじめに
第1章 遊動から定住へ 共同体の誕生
人類の定住化が「いじめ」を生み出した
人類史における定住化の意義
新石器革命という誤解
三内丸山遺跡の発見
水産資源に依存する生活の誕生
食料貯蓄の開始と定住化
そして、いじめが始まった
第2章 共有から占有へ いじめの誕生
ダンバー数の発見
秩序の維持と「異人」の排除
見せしめとしてのいじめ
傍観者の存在の意味
動物における「いじめ」の発生
血縁原理の誕生
餌付けの社会的影響
餌付けをすればサルにもいじめは生まれる
第3章 オーナーから家畜へ ヴァルクの誕生
なわばりのアユ、群れで暮らすアユ
環境変動に応じて変わる社会性と「自己家畜化」
ネポティズムの萌芽
ヴァルクの誕生
変人、怠け者とは誰のことか
発達障害とは?
「障害」という誤った認識
みすごされてきた人類の多様性
第4章 異人から職人へ バンディットの誕生
漂泊する山人
職人(しきじん)の登場
西行のドロップアウト
親鸞へのいじめ
芭蕉の、野たれ死に願望
第5章 漂泊から隠棲へ ひきこもりの誕生
逃げ場をなくした良寛
ひきこもりのパイオニア・鴨長明
吉田兼好という虚像
徒然草あるいはネット投稿の先駆け
漂泊・隠棲を愛でる日本の文化風土
ひきこもりと沈黙交易
最終章 定型から多様性へ 社交不安障害の誕生
グローバリゼーションの弊害としてのコロナ禍
社会がひきこもりを障害に仕立て上げた
CBD(カンナビジオール)の効用
社交不安緩和の効果
CBDの自閉症への効果
セルフメディケーションの可能性
ポストコロナの時代に向けて
おわりに

書誌情報

読み仮名 イジメトヒキコモリノジンルイシ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610881-5
C-CODE 0220
整理番号 881
ジャンル 社会学、ノンフィクション
定価 792円
電子書籍 価格 792円
電子書籍 配信開始日 2020/10/17

薀蓄倉庫

変化する「いじめ」の定義

「いじめ」と一口に言いますが、その実、定義は時代とともに変化しています。いじめが社会問題となった1986年度には、「自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもの」。これが1994年度は、定義は同じものの「いじめられた児童生徒の立場に立って」という文言が加わり、2006年度には「一方的」「継続的」「深刻」の文言が削除され、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」へ。そして、いじめ防止対策推進法が施行された2013年度以降は、ネットを利用したいじめにも範囲を広げ、犯罪性がある場合は警察との連携を促すものに。被害側の立場からより広範かつ具体的な対応へ――根絶には程遠い実状を映し出しているかのようです。

掲載:2020年10月23日

担当編集者のひとこと

「逃げ場のない社会」の正体は?

「いじめ」が社会問題化してから約半世紀、遅れてやってきた「ひきこもり」は、8050問題に象徴されるように、今や国家的な問題です。教育でも福祉でも、これまで様々な対策が講じられてきましたが、いまだ決定打がありません。これと似たような構図は少子化問題にも見られますが、そもそも動物の世界でなぜ、ヒトにだけこうした問題が起きるのか、何かが自然の摂理に反しているのか、ベストセラー『ケータイを持ったサル』で知られる霊長類学者の正高信男さんが、その起源から現代社会までを探求していきます。

2020/10/23

著者プロフィール

正高信男

マサタカ・ノブオ

1954(昭和29)年大阪府生まれ。霊長類学・発達心理学者、評論家。大阪大学人間科学部行動学専攻卒、同大学院人間科学研究科博士課程修了。京都大学霊長類研究所教授を2020年に退官。『ケータイを持ったサル』『いじめとひきこもりの人類史』など著書多数。

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