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パスタぎらい

ヤマザキマリ/著

858円(税込)

発売日:2019/04/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

断言する。世界にはもっと美味しいものがある! 胃袋で世界を比較する極上の食文化エッセイ。

イタリアに暮らし始めて三十五年。断言しよう。パスタよりもっと美味しいものが世界にはある! フィレンツェの絶品「貧乏料理」、シチリア島で頬張った餃子、死ぬ間際に食べたいポルチーニ茸、狂うほど愛しい日本食、忘れ難いおにぎりの温もり、北海道やリスボンの名物料理……。いわゆるグルメじゃないけれど、食への渇望と味覚の記憶こそが、私の創造の原点――。胃袋で世界とつながった経験を美味しく綴る食文化エッセイ。

目次
第1章 イタリア暮らしですが、なにか?
I 貧乏パスタ
II イタリアのパンの実力
III トマトと果物が苦手です
IV コーヒーが飲めません
第2章 あなた恋しい日本食
I ラーメンが「ソウル・フード」
II 世界の“SUSHI”
III 日本の「洋食」とはケチャップである
IV 憧れのお弁当
V にぎりめし考
VI キング・オブ・珍味
VII スナック菓子バンザイ!
第3章 それでもイタリアは美味しい
I 「万能の液体」オリーブ・オイル
II 酸っぱいだけじゃない!
III 優しいスタミナ食
IV 深淵なるモツのこと
V 臨終ポルチーニ
VI ジェラートとイタリア男
VII クリスマスの風物詩
第4章 私の偏愛食
I 思い込んだらソーセージ
II 私の“肉欲”
III パサパサか、ドロドロか
IV たまご愛
V シチリア島で餃子を頬張る
VI 串刺しハングリー
VII 世界の「病人食」
第5章 世界をつなぐ胃袋
I ワインとナショナリズム
II チーズと寛容
III ミラノ万博取材記
IV 胃袋の外交力
あとがき

書誌情報

読み仮名 パスタギライ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-610809-9
C-CODE 0277
整理番号 809
ジャンル エッセー・随筆
定価 858円
電子書籍 価格 814円
電子書籍 配信開始日 2019/04/26

ヤマザキマリの週間食卓日記「私がイタリアで食べているもの」

 絵画を学ぶため17歳でフィレンツェに留学。イタリアに暮らし始めてから今年で35年になる(途中、リスボンやシリア、シカゴなどにも暮らす)。現在はイタリアと日本の往復生活を続けているが、今回は約半年ぶりの「里帰り」――。

2月2日(土)
 NHK特番「シルクロード」シリーズで弥勒菩薩のルーツを辿る旅、今回は11月に訪れた中国の西域に続いてローマを取材。到着後、取材先の都合でいきなりのフリータイム。同行した芸大の前田耕作先生たちとともに、お昼ご飯を食べに繰り出すが、雨がひどいので近場へ。8年前、映画「テルマエ・ロマエ」のクランクイン前日に、キャストである阿部寛さんたちと初めて一緒にご飯を食べたピッツェリア「白い雌鶏」に向かう。駅前にしてはまあ、そこそこ許せる味だったという記憶通り、注文したカルボナーラもピッツァ・マルゲリータもそこそこ美味しい。飲み物は最近日本でも売り出しに力が入りつつあるヴェネト州の発泡酒プロセッコ。先生たちに「それ何?」と問われ、撮影もないんだしいいじゃないですかとお薦めする。昼間から食べて飲んですっかりいい心地になり、ホテルで昼寝。ハードなロケの前だからそれくらいの贅沢もヨシ。

2月3日(日)
 晴れ。午前中はローマ国立博物館へ。今回の番組の軸であり前田先生の研究対象であるミトラス教のレリーフが並べられているフロアで皆興奮、写真を撮りまくる。すっかりお腹が空いて、とりあえず何でもいいやとホテルの目の前にあるレストランへ。入った瞬間、店に漂う漂白剤の臭い、客は我々以外には誰もいない。注文したローマ風アーティチョークは小振りなものを三つぐらい真ん中で割り、皿に並べている。嵩があるように見せかける作戦か。味は、美味しくもなければマズくもない。駅前の店はどこもこんなもんだ。

「ローマ風アーティチョーク(carciofi alla romana)」。アーティチョークをオリーブオイルとニンニク、ハーブと一緒に焼いたり蒸したりするのが“ローマ風”

2月4日(月)
 早朝からローマ市内撮影。真実の口で有名な教会の脇にある建物の地下に古代のミトラス神殿跡を訪ねる。その後ヴァチカンの地下にある聖ピエトロの墓と、古代ローマ時代の墓の天井に施された太陽神のモザイクを見る。貴重な体験。その後、お昼は近くのカルボナーラのウマい店へ。ここで「カーチョ・エ・ペペ」というローマ名物のスパゲッティなどを味見する。でもやはりパスタは率先して食べたいとは思わないので、食が進まない(詳しくは4月17日発売の拙著『パスタぎらい』をどうそ)。夜は駅前の中華へ。マズいとわかっていても、イタリア料理ばかりだと胃が消極的になるからだ。

ローマ名物「カーチョ・エ・ペペ」。茹でたパスタにペコリーノ・チーズと胡椒を和えるだけのシンプルな一品

2月5日(火)
 ナポリ北郊のカプアへ。市内にあるミトラス神殿訪問の後、巨大な円形競技場などの古代ローマ遺跡がある公園内の、おしゃれな自然食品系レストランへ。せっかくカンパニア州に来たのだからと新鮮なモッツァレラ、そしてサラミや生ハムの盛り合わせを頼む。北アフリカの名物であるクスクスも。クスクスは、イタリアだとシチリアにしかないメニューだが、この店では特別にシェフがアレンジして作っているそうだ。昼前に食べ過ぎたので夕食はヌキ。

カプアにあるおしゃれな自然食系レストランで、スタッフと記念撮影

2月6日(水)
 ロケ最終日。アッピア街道にある由緒あるレストランで前田先生のインタビュー撮り。その後はもう皆で食事をするのも最後だからと食べたい物を注文する。石鯛のムニエル、ホウレンソウとタコとチーズの温サラダ。ウマい。ここはウマいぞ。
 ローマのテルミニ駅から高速鉄道でヴェネト州のパドヴァへ。久々にわが家へ帰る。夫(イタリア人)が私の常備食である「タッキーノ(七面鳥)」のハムとトレヴィーゾ産の「ラディッキオ」(「イタリアン・チコリ」としてしられる野菜)を買っておいてくれた。それと近所で収穫された白アスパラの瓶詰め。家ではいつも粗食と決まっている。でも飲み物はプロセッコ・ヴァルドッビアーデネ。発泡酒では、スプマンテやシャンパンよりずっと好き。

ヴェネト州パドヴァの自宅にて。「タッキーノ(七面鳥)」のハムとギリシャの「ザジッキ」(ヨーグルトにキュウリやニンニク、塩、オリーブ・オイルなどを混ぜたもの)

2月7日(木)
 デリバリーで中華料理を頼む。いつも行く上海系の中華料理はウマい。ビールは青島。最近はイタリアでもビール・ブームで、アサヒビールがパドヴァのペローニの工場でも製造されるようになったと知る。素晴らしいことだ。夜は日本から持って来たレトルトのお粥。夫はタンゴのレッスンで留守。アルコールはナシ。

2月8日(金)
 昼間は近所にラーメン屋が出来たというので、夫とエルベ広場へ向かう。「HABE」という店で、店舗はすこぶる小さく、カウンターは2人並べばもういっぱい。持ち帰り専門だというが、ラーメンを持ち帰るだなんて……。せっかくだからその場で伸びてないラーメンを頂きたい。
 しかし出て来たのは、紙製の器に入った、到底ラーメンとは称し難いスパゲッティ入りスープのようなもの。味噌ラーメンを注文するも、ほとんど味噌の味がしない。「日本に修業に行ったわけではないのか!?」とかいろいろ思うところはあったが、黙って完食。夫は日本で最も美味しい食事はラーメンだと豪語していたから、さぞかしガッカリしたかと思いきや「まあ、そこそこ美味しかったね」。ラーメンの味をわかるにはまだまだ訓練が足りない。
 夜は冷蔵庫の残りものとプロセッコ。夫は自分でパスタを茹でて食べている。家で夫婦同じものを食べることは滅多にないが、私はとにかくパスタ類は学生時代に一生分食べているので出来るだけ避けたい。夫もそれを判っていて薦めることはしない。夫婦食べたい物をそれぞれ準備して食べるのは、気楽でよし。

パドヴァの自宅近くに出来た、ラーメン屋の味噌ラーメン

文・撮影=ヤマザキマリ
(「週刊新潮」2019年4月11日号より転載)

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イタリアにおけるオリーブ・オイルの意外な活用法

 イタリアに暮らし始めて35年のマンガ家・ヤマザキマリさんによる食文化エッセイ『パスタぎらい』。本書では、イタリアの料理をはじめ、和食や中華、エスニックなど、世界中の料理がヤマザキさんの胃袋の記憶をもとに綴られています。
 イタリア料理に欠かせない調味料といえば、なんといってもオリーブ・オイルでしょう。サラダにかけたり、肉やパスタを炒めたり……オリーブ・オイルを使わないイタリア料理はないと、断言してもいいぐらい。まさに「万能な調味料」なのですが、イタリアでは料理以外にも広く活用されているようです。
 そのひとつが、火傷をした時の応急措置として。イタリアでは火傷をすると、まずは患部にオリーブ・オイルを掛けるそうです。実際、ヤマザキさんは留学生時代にパスタを茹でるためのお湯が腕にかかって火傷をした時、南イタリア出身のルーム・メイトが、すぐに実家から送られてきた濃厚なオリーブ・オイルを患部に塗ってくれたそうです。他地域でも、例えばギリシアや中東では、石鹸の原料としても使われ、主成分であるオレイン酸は便秘にも効くといいます。まさに「万能の調味料」ならぬ「万能の液体」――それがオリーブ・オイルなのです。

掲載:2019年4月25日

著者プロフィール

ヤマザキマリ

ヤマザキ・マリ

1967(昭和42)年生まれ。漫画家・文筆家・画家。東京造形大学客員教授。十七歳でフィレンツェに留学、美術史・油絵を専攻。1997年、漫画家デビュー。著書に『テルマエ・ロマエ』『プリニウス』(とり・みきとの共著)『パスタぎらい』『猫がいれば、そこが我が家』など。

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