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本当はダメなアメリカ農業

菅正治/著

814円(税込)

発売日:2018/06/15

  • 新書
  • 電子書籍あり

移民排除で労働者不足、輸出ひとり負け、遺伝子組み換え作物ばかり、農民に自殺とドラッグが蔓延。「自由化したら日本農業は壊滅」なんて大ウソ!

自由化したら日本農業が壊滅? とんでもない。アメリカ農業はハリボテだ! 消費者が求めるオーガニック作物は輸入だのみなのに、遺伝子組み換えがやめられない。除草剤に負けない「スーパー雑草」にはさらに強力な除草剤で対抗。人手不足なのに移民を追い詰め、農民には自殺とドラッグが蔓延。輸出はトランプの保護主義で一人負け……。現地を徹底取材したジャーナリストが描き出す等身大のアメリカ農業の姿。

目次
まえがき
第1章 農業で汚染される五大湖
エリー湖でアオコが大発生。ここを水源とするオハイオ州トレド市では、水道水を飲むことが禁じられる異常事態が発生した。主犯として名指しされたのは「農業」だった。
第2章 アメリカ農業の全体像
大黒柱はトウモロコシと大豆で、その9割以上は遺伝子組み換えである。農業生産額は世界3位ながら、輸出額は世界トップ。貿易財としての存在感は極めて大きい。
第3章 遺伝子組み換えに吹く逆風
ダノンが脱「遺伝子組み換え」を宣言。遺伝子組み換えの表示義務化を決めたバーモント州の決断に、食品大手は猛反発するも、もはや流れは止められない。
第4章 嫌われ者、汝の名はモンサント
1996年に世界で初めて遺伝子組み換え作物の商業栽培を始めたパイオニア。この20年で米国農業の姿を大きく変えた同社は今、激しい攻撃の対象となっている。
第5章 オーガニックへとなびく消費者
オーガニック商品の売上高は過去最高を更新中。しかし、「遺伝子組み換え漬け」の米国では充分なオーガニック商品が確保できず、輸入頼みになるという倒錯した事態に。
第6章 遺伝子組み換え作物と除草剤の二人三脚
農薬でも枯れない「スーパー雑草」が登場。その雑草を枯らす新たな除草剤と、耐性のある遺伝子組み換え作物をセット販売したモンサントは業績を急回復させた。
第7章 ミツバチが消える
10年ほど前から相次ぐミツバチの大量失踪。その原因として疑われているのが「殺虫剤のベストセラー」と「増えすぎたトウモロコシ畑」だ。
第8章 全米で吹き荒れる食肉工場への反対運動
シカゴ・トリビューン紙が豚肉業界の大批判キャンペーンを展開、全米で畜産業界に厳しい視線が注がれている。契約生産者という「現代の奴隷」の存在も浮き彫りに。
第9章 伝染病と抗生物質のいたちごっこ
穀物に対する農薬同様、畜産物への抗生物質も消費者は気にするようになってきた。鶏への抗生物質は減少しつつあるものの、牛と豚ではなかなか削減が進まない。
第10章 老化する農家、萎縮する移民
農家の平均年齢58歳。後継者不足は深刻だ。現場の人手不足を埋めるのは不法移民だが、トランプ政権の誕生で彼らは「いつ追い出されるか」と戦々恐々の状態に。
第11章 農家に薬物依存と自殺が増えている理由
種子・農薬業界の再編で農家はさらに「弱者」に。豊作貧乏も常態化。先行き不安から麻薬に溺れる農家が増え、自殺率は全米平均の4倍超という異常な状態に。
第12章 TPP離脱というダメ押し
逆風続きの米国農業にとって輸出は最後の砦なのに、トランプ大統領はTPPからの離脱を表明。日本という大市場をライバルにさらわれる焦燥感たるや……。

書誌情報

読み仮名 ホントウハダメナアメリカノウギョウ 
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-610769-6
C-CODE 0261
整理番号 769
ジャンル ビジネス・経済
定価 814円
電子書籍 価格 814円
電子書籍 配信開始日 2018/06/22

蘊蓄倉庫

三大作物から脱落する小麦

 アメリカ農業の三大作物は従来「大豆、小麦、トウモロコシ」とされてきましたが、小麦は三大作物の座から脱落しつつあります。2017年の作付面積では、トウモロコシが9020万エーカー、大豆が9010万エーカーですが、小麦は4600万エーカーと、大豆やトウモロコシの半分程度にまで落ち込みました。これは、トウモロコシや大豆には遺伝子組み換えが認められているのに対し、小麦では認められていないという事情が大きく関係しています。

掲載:2018年6月25日

担当編集者のひとこと

隣の芝生も青くない

 日本ではTPP論議の際に、「自由化したら規模の大きいアメリカ農業にやられて日本の農業は壊滅する」などの危機論が展開されました。日本の農業が問題だらけなのは確かですが、かといって隣の芝生が青いというわけではないようで、アメリカ農業にも問題が山積しています。

 トランプ大統領が保護主義を発動してTPPを拒否している間に、日欧でEPA(経済連携協定)が結ばれてしまい、アメリカ農業は戦わずして「輸出ひとり負け」に陥りました。それどころか中国との貿易戦争で、対中輸出の多い大豆などが狙い撃ちにされるというしっぺ返しもくらっています。

 アメリカでも消費者のオーガニック志向は顕著で、全食品に占める割合も5%を超えるところまで来ていますが、アメリカ農業は「遺伝子組み換え漬け」。なので充分なオーガニック作物を手当できず、輸入に頼る始末。それどころか、近年は遺伝子組み換え作物シフトに拍車がかかっており、遺伝子組み換えが全盛のトウモロコシと大豆の畑ばかりが増えて、遺伝子組み換えが認められていない小麦の畑は減少が続いています。

 また、近年は除草剤の効かない「スーパー雑草」が登場していますが、これに対抗するために、農薬・種苗業界はさらに強力な除草剤と薬剤耐性のある遺伝子組み換え作物をセット販売するという戦略を採っています。除草剤や殺虫剤の過剰な使用や、遺伝子組み換えで生産管理がしやすいトウモロコシ畑ばかりが増えたことで、ミツバチが突然失踪するなどの自体も発生しており、生物多様性の喪失が止まりません。

 近年の農薬・種苗業界のM&Aの進行などによって、農家が「弱者」となる傾向も強まっています。農家の平均年齢は58歳まで上がり、業種別の統計において自殺率とドラッグ中毒の率が全米最高であるという「窮状」もあきらかになってきました。現場の労働を担っているのは、まさにトランプに狙い撃ちされている「不法移民」ばかりなので、人手不足も解消される見込みが立ちません。
 アメリカ農業の問題は、日本がおそれていた当の「規模の大きさ」にあるようです。でかすぎるので、問題が発生しても、なかなか舵を切り直すことが出来ないのです。加えて大統領が場当たり的な政策を繰り出すので、そのとばっちりも食らう。かなり「泣きっ面に蜂」的な状況です。そうした現状がイヤというほどわかるのが本書です。

 著者の菅正治さんは時事通信の記者で、この2月までの四年間、アメリカ中西部の中心都市シカゴの駐在記者をつとめていました。この本には、現場を歩き続けて集めた事実がたっぷりと注ぎ込まれています。ちなみに菅さんの趣味はトライアスロンで、マラソンのタイムは3時間半を切るアスリート。シカゴ時代はそちらの記事もちょくちょく書いておられました。足で集めた情報に偽りなし!、というわけです。

 どうぞご一読を。

2018/06/25

著者プロフィール

菅正治

スガ・マサハル

1971(昭和46)年生まれ。時事通信記者。慶応義塾大学商学部卒業後、時事通信社に入社。経済部で財務省、農水省などを担当した後、2014年3月〜2018年2月シカゴ支局勤務。同年3月からデジタル農業誌Agrio編集長。著書に『霞が関埋蔵金』。

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