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牛丼を変えたコメ―北海道「きらら397」の挑戦―

足立紀尚/著

748円(税込)

発売日:2004/08/18

  • 新書

「北海道で美味いコメを作れ!」――そして昭和六十三年、上川農業試験場で究極の品種が生まれた。

デフレの象徴と騒がれた激安の牛丼。低価格を可能にした要因は、牛肉ばかりでなく実はコメにこそあった。――“きらら397”、昭和63年に北海道立上川農業試験場で開発された、いわば究極の品種。大量生産ができ、安価にして良食味。それは「北海道で美味しいコメは絶対に無理」といわれた常識を見事に覆したブランド米である。その開発の裏には、品種改良に挑む研究者、あるいは地元農家の、不屈の努力があった。

目次
まえがき
第一章 外食産業の主役となった北海道のコメ
吉野家四百店舗を支える配送センター
牛丼一杯二百八十円の秘密
丼モノをうまくするコメの条件
ホクレンの乾坤一擲
急成長の外食産業を狙え
「高整粒米」の成功
第二章「北海道にコメは向かない」
お雇い米国人ケプロン
コメづくりを否定した札幌農学校
「ブラキストン線」の北
果敢にコメづくりに挑んだ人たち
薩摩対東北、札幌農学校対駒場農学校
初めて普及したコメ“坊主”
当時のハイテク技法「短日法」
もう凶作に泣かされることはない
百年目の大逆転
第三章 コメが北を目指した一世紀
二律背反の課題
至上命令、うまいコメをつくれ!
〈純系分離〉から〈人工交配〉へ
歌にも詠まれた酒田の本間家
現在流通する品種の祖“亀ノ尾”
冷水のなかにあった黄金の稲穂
地元に尽くした亀治の生涯
因縁の地に建てられた支場
人工交配第一号“陸羽一三二号”
藤坂試験地「奇跡のコメ」
「大胆に捨てること」
“外剛内剛”の人
第四章 北限を越えたニッポンのうまいコメ
上川農試「暗黒の十七年」
賭け事に近い品種改良
七度の緯度差“しまひかり×キタアケ”
運命の日、昭和五五年八月四日
「人間を育てることと似ています」
一日三食、白飯とお茶だけ
本試験での大逆転
“きらら397”の際だった特徴
平成元年、初のブランド米誕生
第五章 コメ育種の最新技術を見にゆく
さらに進化するコメ
イネゲノムの解読完了
遺伝子で解明された二律背反
新技術「DNAマーカー」
葯培養で生まれたコメ
上川農試でのもう一つの研究
密室で汗だくの手作業
「遺伝子組み換え」がもたらす課題
あとがき
コメの系統図
参考資料・文献

書誌情報

読み仮名 ギュウドンヲカエタコメホッカイドウキララサンキュウナナノチョウセン
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610082-6
C-CODE 0261
整理番号 82
ジャンル 農学
定価 748円

蘊蓄倉庫

丼一杯、二八〇円のカラクリ

 米国BSE騒動の煽りを受け、未だ多くの店で休止状態が続く牛丼。販売中止時の騒ぎようは記憶に新しいところでしょう。でも遡ること平成十三年八月、吉野家が並盛一杯を四百円から二百八十円に値下げした際も、デフレの象徴と騒がれ世間の関心を集めました。
 吉野家が激安牛丼を実現させたのは、一つには多くの店舗をチェーン展開することで発生するオペレーション・コストを大幅に削減させたことによります。とりわけ、輸送システムを末端にいたるまで徹底して効率化させたことに負うところが大きかったとか。
 そして、実はもう一つ経費削減のための決定的な秘密がありました。それはコメ――。
 吉野家では牛丼のコメに、様々な銘柄を混ぜ合わせたブレンド米を使用しています。その内、全体の七割方を占めるベース米として“きらら397”を使うようにしたのです。ちなみに新潟産“コシヒカリ”で六十キロあたりの取引価格は二万円ほど、秋田産“あきたこまち”で約一万六千円。それが“きらら397”なら、一万二千円前後ですむのです。しかし安いからといって、決して味で有名ブランド米に引けをとるわけではありません。さらに加えて、タンパク値が高い特徴からやや硬めに炊き上がり、具をかけるとタレの通りが抜群によくなるのです。激安牛丼は、“きらら397”があってこそ生まれたのでした。

掲載:2004年8月25日

著者プロフィール

足立紀尚

アダチ・ノリヒサ

1965(昭和40)年、兵庫県生まれ。明治大学文学部卒業。毎日新聞記者、高校教師などを経てノンフィクションライターに。農業、経済、医療、介護などの幅広いテーマで執筆。著書に『幸福な定年後』『修理――仏像からパイプオルガンまで』など。

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