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元気が出る患者学

柳田邦男/著

792円(税込)

発売日:2003/06/20

  • 新書
  • 電子書籍あり

とまどう患者と家族のために、医者と賢く付き合う必携ガイドブック。

日々、多様化する医療の現場。しかし技術の進歩が必ずしも幸福な結果を生んでいるとは限らない。いざ自分が、あるいは家族が、重大な病気に直面した時、一体どう対処したらいいのか。病気を人生の中でどう位置付け、死を前にした生き方をどうすればいいのか――。病気や治療法を正確に知るための知識から、医療者との接し方、いかにして「生きがい」を見つけるかにいたるまで、“賢く病気と付き合う”ガイドブック。

目次
はじめに
一、「患者学」事始め
(1)生きる人々
(2)闘病の「二正面作戦」
二、病気について「知る」には
(1)病気と治療法について「知る」ための8カ条
(2)診療の受け方10カ条
(3)「おまかせ」から「患者主体」へ
三、くじけない「生き方」のために
(1)大切な「生きがい」と「笑い」
(2)「生き方」を学ぶ7つの方法
四、患者・家族が悩む問題
(1)告知
(2)治療法の選択
(3)がんの治療法をめぐって
(4)延命治療について
(5)代替医療・民間療法について
(6)病院かホスピスか在宅か
五、求められる医療者の対応
(1)「安心と納得」への医療者の取り組み
(2)「人間を見る眼」を耕す
六、「患者のプロ」になるための読書術
(1)病気と治療法について知るための本
(2)患者会がすすめる本
(3)「生き方」を考えるための本
(4)人生の最終章の「生き方」を考える本
あとがき

書誌情報

読み仮名 ゲンキガデルカンジャガク
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-610017-8
C-CODE 0247
整理番号 17
ジャンル 科学
定価 792円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2012/01/27

インタビュー/対談/エッセイ

波 2003年7月号より 「考える患者」への意識革命  柳田邦男『元気が出る患者学』(新潮新書)

柳田邦男

「元気」という言葉が好きになったのは、故司馬遼太郎さんのその言葉の使い方が、《なるほど》と素直に納得できる響きで胸に伝わってきたからだった。
以前、新潮学芸賞があった頃、司馬さんと一緒に私もずっとその選考委員を務めた。司馬さんは候補作品を評するとき、時折、「この作品はとてもよく調べて書いてあるのだけれど、読んでいてどうも元気が出ないんだな。大本の意味での元気ね」という言い方をしたのだ。大本の意味とは、〈万物を産み育てる気〉とか〈心身の活動の根本の気力〉という、中国古来の「元気」という漢語の意味のこと。
よく調査してデータをそろえしっかりとした内容の本であっても、感動や共感や読んでよかったという充実感がなかったなら、とても元気が出る本とは言えないだろう。元気が出る本とは、たとえ悲しみに満ちていたり苛酷な運命の物語であったりしても、涙の後の不思議な爽快感が明日への生きる力につながるような本のことである。
司馬さんが「本来の意味での元気ね」と言ったときの声の響きは、その後、折にふれては私の耳に甦ってきて、何事につけ物事を考える支えになってきた。とくに病気と医療のあり方について考えるときが、そうだ。
がんや脳卒中・脳外傷や心臓病など、人生に突然危機をもたらす病気は多い。私はそういう病気と医療のあり方について、取材・執筆の仕事に取り組んで四半世紀余りになる。その間に、病気と医療をめぐる時代の相は大きく変わった。遺伝子研究、画像診断装置、薬や治療法など、医学・医療の進展はめざましい。患者の側も、心を通じ合える医療や生命・生活の質を大切にする医療を求めるようになった。最近はまた、医療や健康に関する情報が様々なメディアによって大量に流されるようになった。インターネットで調べると、大抵の情報は検索できる。
しかし、洪水のような情報がうまく活かされているかというと、現実はそうではない。むしろ患者は困惑し立ち往生しているとさえ言える。医療不信という社会病理的な状況が、患者の困惑を一段と深めている。これでは「元気」が出るわけがない。
患者が賢明になるには、どうすればよいのか。何を知るべきなのか。情報に振りまわされずに、逆に情報を使いこなすには、どうすればよいのか。大事なことは、「専門的なことはわからないから」と自分を丸投げ(おまかせ)するのでなく、自分の生き方と人生のためには、どのように医療資源を利用すればよいのかと考える力、判断する力をつけることだ。今度書いた『元気が出る患者学』は、そういう「考える患者」への意識革命のために、四半世紀余りの取材と身近な体験からエッセンスを抽出して、具体的な心得と方法を提起したものである。同時に医療者にも読んでもらえたなら、「元気」の輪はさらに大きくなるだろう。医療とは、患者固有の人生街道と医療者の専門家としての人生街道の交差点で共同で創る作品なのだから。

(やなぎだ・くにお ノンフィクション作家)

蘊蓄倉庫

自己紹介はフルネームで

 医師を前にした際、あなたは一体どんな挨拶をするだろうか。
 例えば「木村です」と姓だけ名乗る人、「よろしくお願いします」とだけ言う人、それぞれだろう。ただフルネームで挨拶する人はほとんどいないという。でも実は、これは大事なことなのである。
 かつて「患者取り違え手術」を起こした横浜市立大学医学部付属病院が、その後1年間にわたり、同院を受診した6万466人の姓名について調査した。
 それによると、姓名の読みが同じ患者が1万784人、漢字まで同じ者は3845人もいた。読みで一番多かったのは「すずきよしこ」さんの19人、2位が「すずきけいこ」さんの16人。漢字まで同じ患者は「鈴木和子」さんで12人いたそうだ。
「患者取り違え手術」などあってはならない医療過誤である。医療者がカルテを間違えぬように注意を払うことは言うまでもないが、せめて患者はフルネームで自己紹介すること。それが人違いを防止するメッセージとなるのだ。
 詳しくは『元気が出る患者学』で。
掲載:2003年6月25日

担当編集者のひとこと

これからは「考える患者」への意識革命

 99年1月の横浜市立大学病院で起きた、肺の手術予定だった男性患者と心臓の手術予定の男性患者を取り違えて執刀してしまった「患者取り違え事件」、00年3月、京都大学付属病院で起きた入院中の17歳女性患者の人工呼吸器に蒸留水と間違えて消毒用エタノールを2日間にわたって注入し、死亡させた事故、あるいは01年3月、人工心肺装置の操作ミスで12歳の少女を死亡させたうえ、ミスを隠蔽しようとした東京女子医大病院での「心臓手術ミス事件」などは記憶に新しいところ……。ちなみに、昨年一年間の、医療事故、事件として警察に届けられた数は183件もあったとか。 遺伝子研究や画像診断装置、薬や治療法など、日進月歩で多様化する医療の現場です。確かに技術の進歩はこれまで治療は不可能と思われていた病を克服し、平均寿命を延ばしました。でも、その一方で“患者の取り違え” “手術ミス” “機器操作ミス” “薬剤投与ミス”といった、信じられないような医療過誤が頻発する昨今なのです。
 また最近は、医療や健康に関する情報が様々のメディアによって大量に流されるようになりました。インターネットで調べると大抵の情報は検索できる現状です。しかし、まさに洪水のような情報量を前に、かえって振り回されるだけという結果にもなりかねません。
 いまの「高度先進医療」なるものが必ずしも幸福な結果を生んでいるとは限らないでしょう。そして「専門的なことはわからないから」と医者任せにしてしまう時代でもないのです。

 がん、脳卒中、心臓病等々、人は人生後半に入ったとき、重大な病気を背負うと否応なく生き方の変更を迫られるもの。いざ自分が、あるいは家族が、重大な病気に直面したら、一体どう対処したらいいのか。病気を人生のなかでどう位置付け、死を前にした生き方をどうするのか――。
「納得の医療」「患者主体の医療」などとキーワードだけは飛びかっていますが、現実に自分が重大な病気になったとき、検査データひとつでさえその意味がよくわからないのでは満足に病気に立ち向かっていけません。本書は、病気や治療を正確に知るための知識から、医療者との接し方、いかにして「生きがい」を見つけるかにいたるまで、とことん患者と、その家族の身になって書かれた実用書です。
 四半世紀にわたり、病気と医療のあり方について取材、執筆に取り組んできた柳田邦男氏が、「考える患者」への意識革命を提言します。

2003年6月刊より

2003/06/20

著者プロフィール

柳田邦男

ヤナギダ・クニオ

1936(昭和11)年、栃木県生れ。1995(平成7)年『犠牲―わが息子・脳死の11日』とノンフィクション・ジャンル確立への貢献が高く評価され菊池寛賞受賞。災害・事故・公害問題や、生と死、言葉と心の危機、子どもの人格形成とメディア等の問題について積極的に発言している。主な近著に『壊れる日本人』『「気づき」の力』『生きなおす力』『人の痛みを感じる国家』『新・がん50人の勇気』『僕は9歳のときから死と向きあってきた』『「想定外」の罠―大震災と原発』『生きる力、絵本の力』『終わらない原発事故と「日本病」』『言葉が立ち上がる時』がある。翻訳絵本に『ヤクーバとライオン』『少年の木』『その手に1本の苗木を』『やめて!』等多数。

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