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論争 関ヶ原合戦

笠谷和比古/著

1,650円(税込)

発売日:2022/07/27

  • 書籍
  • 電子書籍あり

通説・俗説・珍説を徹底論破! 「天下分け目の戦い」の真相を解明する。

「淀殿や三奉行は三成派」「直江状は偽書」「小山の評定は後世の創作」「戦(いくさ)は一瞬で終わった」「関ヶ原は戦場ではない」「問い鉄砲はなかった」……。四百年を経た今も日本史上最大の野戦について激しい論戦が繰り広げられている。そのうち、注目を集めた新知見を、第一人者である著者が吟味し、総合的な歴史像を構築する。

目次
まえがき
第一章 秀吉の死――豊臣政権の内部矛盾
1 慶長三年八月一八日、秀吉他界
2 文禄・慶長の役
3 関白秀次事件
4 北政所と淀殿
5 五大老と五奉行
第二章 関ヶ原前夜の政治抗争
1 秀吉死後の政治情勢
2 家康の私婚問題
3 家康暗殺の計画
4 豊臣七将の石田三成襲撃事件
【論点1 三成襲撃事件の実態】
5 加賀征伐計画
第三章 会津征伐
1 上杉景勝と直江状
【論点2 直江状の真贋】
2 徳川軍団の構成
第四章 三成の挙兵と小山の評定
1 石田三成と直江兼続
【論点3 三成と兼続の事前通謀説】
2 大谷吉継の動向
3 内府ちがひの条々――西軍蹶起の二段階性
4 小山の評定
5 小山の誓約の陥穽――東軍の混迷と家康の江戸滞留
【論点4 小山の評定の存否について】
第五章 西軍の展開と全国各地の戦い
1 西軍の形勢
2 毛利輝元の上坂
【論点5 毛利輝元の西軍参加事情】
【論点6 豊臣三奉行の転回の契機】
3 西軍の軍事的展開
4 全国各地の戦い
a 丹後田辺の籠城戦
b 大津城の戦い
c 上杉領国付近での戦闘
d 九州の戦い
第六章 東軍の展開と家康の戦略
1 家康、江戸を動かず
2 徳川秀忠部隊の動向
3 岐阜合戦と家康の出陣
第七章 関ヶ原合戦
1 合戦への経緯
【論点7 関ヶ原を決戦場として選んだのは誰か】
2 関ヶ原の布陣
【論点8 戦場は「山中」の地とする説】
【論点9 家康軍の軍事的構成――秀忠軍との比較】
3 開戦
【論点10 関ヶ原合戦は瞬時に終わったとする説】
4 小早川軍の動向
【論点11 小早川軍は開戦早々に裏切り出撃したとする説と、いわゆる問い鉄砲】
5 終戦
第八章 合戦後の国制
1 戦後処理と論功行賞――豊臣系武将の処遇
2 戦後全国の領地配置
3 豊臣家と秀頼の政治的位置
結び
後注・参考文献

書誌情報

読み仮名 ロンソウセキガハラカッセン
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 272ページ
ISBN 978-4-10-603887-7
C-CODE 0321
ジャンル 歴史・地理
定価 1,650円
電子書籍 価格 1,650円
電子書籍 配信開始日 2022/07/27

書評

松尾山の小早川秀秋陣所で問い鉄砲は聞こえたか?

小和田哲男

 慶長5年(1600)9月15日の関ヶ原合戦については、江戸時代から今日に至るまで、夥しい数の研究蓄積があり、通説あるいは定説といった以上に、関ヶ原合戦の常識といえるものが形作られてきた。
 ところが、近年、そうした関ヶ原合戦の常識とされてきたいくつかの事柄について見直す動きが出てきて、新説といわれるものがいくつか提示されている。
 常識に慣らされてきた多くの人にとって、新説のいくつかについては、「本当かな」と半信半疑の思いを抱かれたのではないかと思われる。実際、研究者の間からも新説に対する反論が出され、論争になっている問題もいくつかある。徳川家康が会津上杉攻めを中止して反転することを決断した小山評定はあったのかなかったのか、家康を怒らせたという直江兼続の直江状は本物なのか偽文書なのかなど、論争となっている点は多岐にわたっているが、その一つひとつについて、関ヶ原合戦研究の第一人者で、今日の関ヶ原合戦の常識を描いてこられた笠谷和比古氏が解説を加え、改めて、わかりやすい形でご自身の説を述べられたのが本書である。現在の関ヶ原研究の到達点、論争点がたちどころにわかる一冊となっている。
 では、その論争となっているものはどのような事柄なのだろうか。笠谷氏は次の十一に整理している。
 論点1 三成襲撃事件の実態
 論点2 直江状の真贋
 論点3 三成と兼続の事前通謀説
 論点4 小山の評定の存否について
 論点5 毛利輝元の西軍参加事情
 論点6 豊臣三奉行の転回の契機
論点7 関ヶ原を決戦場として選んだのは誰か
 論点8 戦場は「山中」の地とする説
論点9 家康軍の軍事的構成――秀忠軍との比較
論点10 関ヶ原合戦は瞬時に終わったとする説
論点11 小早川軍は開戦早々に裏切り出撃したとする説と、いわゆる問い鉄砲
 それぞれの詳細については、ここでは立ち入らないが、一つだけ、最後の論点11について触れておきたい。いわゆる問い鉄砲問題である。これまでの通説では、松尾山に布陣する小早川秀秋が寝返りを逡巡している様子をみた徳川家康がしびれをきらし、決断を迫るため、松尾山に向けて鉄砲を撃たせたというもので、関ヶ原合戦に関する本や映画、テレビドラマなどでも必ずといっていいほど描かれている有名なシーンである。問い鉄砲あるいは威し鉄砲などともいわれている。
 新説では、これらは、江戸時代の軍記物が描きだしたフィクションで、実際にはそのようなことはなかったとする。もう十年ほど前になるが、はじめて松尾山に登って、小早川秀秋の陣所に立ったとき、麓からの高さが予想以上だったこともあり、「たしかに、麓で鉄砲を撃っても、秀秋がそれに気づくことはなかったのではないか」と、私も新説に賛意を表明したことがあった。
 ところが、今回、笠谷氏は、その問い鉄砲に関する『備前老人物語』に収載されているエピソードを紹介し、問い鉄砲の真相に論及し、「もちろん記事そのものは後代の伝聞に基づくものであるから第二次史料ではあるけれども、その内容は比較的信頼のおけるものとされている。第二次史料だからといって一律に否定、排除するというのは妥当とは言えない」と指摘する。
 私は、この指摘は非常に大事だと思っている。というのは、新説の多くが、これまで関ヶ原合戦の常識とされてきたほとんどの話が第二次史料に依拠しているとして、それらからの脱却を標榜しているからである。
 たしかに、歴史研究において、同時代の人が書いた手紙や日記などの第一次史料に依拠すべきことはいうまでもない。
 しかし、その結果、第二次史料を軽視あるいは排除する傾向があることは問題である。笠谷氏が「第二次史料だという理由だけで一律排除するのは、史実の解明にとってむしろ有害ですらある」とする主張に賛意を表したい。

(おわだ・てつお 歴史学者/静岡大学名誉教授)
波 2022年9月号より

著者プロフィール

笠谷和比古

カサヤ・カズヒコ

1949年神戸生まれ。京都大学文学部卒業。同大学院博士課程修了。博士(文学)。国際日本文化研究センター名誉教授。専門は歴史学、武家社会論。著書に『主君「押込」の構造』、『関ヶ原合戦』、『徳川吉宗』、『江戸御留守居役』、『武士道と日本型能力主義』、『関ヶ原合戦と大坂の陣』、『武士道 侍社会の文化と倫理』、『豊臣大坂城』(黒田慶一氏との共著)、『徳川家康』、『信長の自己神格化と本能寺の変』など多数。

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