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ちゃぶ台返しの歌舞伎入門

矢内賢二/著

1,320円(税込)

発売日:2017/06/23

  • 書籍

「おおっ、こりゃやべえ!」
キテレツなものを見る喜び――。

歌舞伎という古くて新しいエンターテインメントを心底たのしむには、入門書でのお勉強だけじゃ足りません。意味より「かたち」、大嘘にこそ宿るリアル――「演劇鑑賞」ならぬ「芝居見物」の勘どころさえおさえれば、時代をこえた気持ちよさが味わえる! 江戸から遠く離れた現代人のための、目からウロコの歌舞伎の見方。

目次
はじめに
考察編 歌舞伎の気になるところ
一 隈取について
白塗りの美学/隈取の超人的パワー/生身の顔との「二重写し」/歌舞伎は役者の肉体が命
二 見得について
ゴレンジャーと白浪五人男/その瞬間、激情がスパークする/ 「にらみ」は呪力を放つ/異様なものを見る喜び
三 型について
大嘘の中にリアルが宿る/「かたち」と「意味」を秤にかければ/「わかりやすさ」のジレンマ
四 世界と趣向
「世界」という方法/「世界」の業務用カタログがあった/ ○○だが、また○○でもある/「趣向」は芝居を動かす原動力/ 新しい「世界」の誕生/「書替狂言」は変化球/ 世界をかき回す「ないまぜ」/「世界」と「趣向」の可能性
五 時代と世話
彼らには彼らの論理と生活がある/せりふにおける時代と世話/ 七五調にもリアリティがある
六 女方について
「絶対になれないもの」になる/半四郎と南北による新しい女性像/ 「平生をおなごにて暮らさねば」/「おっかさん」と「加役」、倒錯の魅力
七 踊りについて
踊りを楽しむために/「体の美しさ」と「幻の世界」/ 立廻りと「写実」
実践編 いざ、歌舞伎を観るときに
一 『菅原伝授手習鑑』「寺子屋」の人々
源蔵夫婦の立場/松王丸の立場/松王女房千代の立場
二 『勧進帳』のもっともらしさについて
松羽目物のインチキ臭さ/荒事の弁慶、実事の弁慶/ 『虎の尾を踏む男達』
三 『京鹿子娘道成寺』はお団子である
道成寺説話という額縁/道行/乱拍子〜中啓の舞/手踊り/鞠唄/くどき/鐘入り/満開の桜の下で
四 『梅雨小袖昔八丈』(髪結新三)は写実的か
様式が「世話」を引き立てる/江戸の長屋のリアリティ
おわりに

書誌情報

読み仮名 チャブダイガエシノカブキニュウモン
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-603811-2
C-CODE 0374
ジャンル 日本の伝統文化
定価 1,320円

書評

幕見席でのおしゃべりのように

松田奈緒子

 今から28年前、平成元年。歌舞伎座の三階席に著者の矢内さんは座って芝居を見ていた。見続けて今、この本を書かれた。
 偶然にも同じ頃、私も三階席、一幕見席に陣取って歌舞伎の世界にどっぷり漬かっていた。
「はじめに」で矢内さんが書いておられるとおりあの頃は若い見物人などほぼ見かけず、私も他の年配のお客さまがたにお菓子やお弁当、チケットなどいろいろいただいた。
 建て替え前の歌舞伎座といえばエスカレーターもエレベーターもないアンチバリアフリー。最上階の一幕見席など、登っても登っても辿り着かないトライアスロンなみの難所。願掛けでもできそうなくらい急勾配の階段だった。
 ある時、一幕見席のチケットを買おうと列に並んでいたら年配のご婦人に、「悪いけど私の分も席、とっといてくれない? 私アシがいたくて階段のぼんのたいへんなのヨ」と頼まれた。
 あいよガッテンと席をとって待っていたものの、幕開けを知らせるブザーが場内に響いても、いっこうにお見えにならない。なにかあったかとハラハラしていたら、お弁当をふたつ手にしてご婦人、悠々と現れて、「私、助六弁当が好きなんだけどね、若い人はパンがいいかなと思って。はい、お駄賃」とサンドウィッチ弁当を私にもくださった。
「若いのに歌舞伎に興味があるなんて珍しいわねぇ」を皮切りに、三階席、幕見席に行けばいつも、見物の大先輩がたからいろんなことを教わった。私が時代的に間に合わず見ることが叶わなかった名優たちの舞台姿や名人芸、歌舞伎筋書きの約束事、基礎知識のあれこれ。ただ面白く、楽しくお話ししていただけだったのに、気づけば歌舞伎を見る際の下地と心構えをつくってもらっていた。
 矢内さんもそうだったのかな、肩が凝らない『ちゃぶ台返しの歌舞伎入門』を読みながらそう思った。読みやすいのに浅くなく、歌舞伎を見るときの大事なキモがしっかり入ってくる。
 歌舞伎に興味があるかた、歌舞伎を見始めたばかりのかたにもおすすめだけど、私のようにわかってるつもりの歌舞伎ファンにもおすすめします。戦隊モノと歌舞伎の見得を考察したユニークな視点に爆笑したりうなずいたりしながらも発見が多々あり、気がつけば歌舞伎の楽しみ方をアップデートしてもらっていました。
「歌舞伎が好き」というと必ず返ってくる世間の言葉、「高尚」「お芸術」というイメージをひっくり返し、歌舞伎本来の「楽しさ、おもしろさ、美しさ」を伝えるこの本。堅苦しさがすこしも入らぬ、まるで幕見席でのおしゃべりのよう。気がつけばあなたも歌舞伎を好きになっているはず。
 ちょっとまって、もしや……これが名人芸?
 歌舞伎座の売店にたんと積んでもらって、筋書きと一緒に売ればよいのではないかな。
 重版出来! お祈りしております。

(まつだ・なおこ 漫画家)
波 2017年7月号より

著者プロフィール

矢内賢二

ヤナイ・ケンジ

1970年、徳島県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。専門は、幕末から明治期の歌舞伎を中心とする日本芸能史・文化史。日本芸術文化振興余(国立劇場)勤務、立正大学准教授などを経て、2017年6月現在、国際基督教大学准教授。『明治キワモノ歌舞伎 空飛ぶ五代目菊五郎』(白水社)でサントリー学芸賞を受賞。他の著書に『明治の歌舞伎と出版メディア』(ペりかん社)、『日本の伝統芸能を楽しむ 歌舞伎』(偕成社)などがある。

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