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ダンディズムの系譜―男が憧れた男たち―

中野香織/著

1,430円(税込)

発売日:2009/02/20

  • 書籍

あのオバマ大統領も、輝かしきダンディの末裔!?

華麗な装い、大胆な立ち居振る舞い、事に臨む態度で、氏素性に関係なく周囲をひれ伏させた男たちがいた。「ナポレオン(英雄)よりも、ブランメル(ダンディの祖)になりたい」と詩人バイロンにいわしめた、絶対的な魅力の正体とは? 「男の中の男」のまばゆい系譜と「愛され力」を、気鋭のファッションジャーナリストが徹底解剖する。

目次

序 いま、なぜダンディズムか
  ――現代日本における「ダンディ」の解釈
第I部 ダンディズム誕生前夜
ジェントルマン、その源流と残滓
【その一】育ち良き紳士の振る舞い、レディファーストの源流
【その二】ジェントルマンの美徳に「天然」なし
【その三】紳士必修の礼儀作法と処世術――その本質と落とし穴
第II部 ダンディズム列伝――その栄枯盛衰
ダンディズムは進化する
No.1 ダンディズムの祖にして絶対神、
ボー・ブランメル
No.2 ブラックフォーマルを創造したダンディ、
リットン卿
No.3 ハンディをダンディズムで押しのけた文人宰相、
ディズレイリ
No.4 スキャンダラスな愛と贅沢の中に生きた
ドルセイ伯
No.5 カーライル、サッカレー
によるダンディズムの糾弾
No.6 ダンディズムを詩的哲学として結晶させた
フランスの知的エリートたち
No.7 華麗なる警句と逆説で社会を挑発しつづけたダンディ、
オスカー・ワイルド
No.8 異常な時代に平凡を貫いたダンディ、
サー・マックス・ビアボウム
No.9 スポーティーなエレガンスで世界を魅了した
エドワード七世
No.10 ファースト・クラスの人生の旅人を演じたダンディ、
ノエル・カワード
No.11 王位よりも、愛され支配される人生を選んだダンディ、
エドワード八世
No.12 破天荒な英国紳士の夢を体現するダンディ、
ジェイムズ・ボンド
No.13 逆境をもっとも輝かしい時に変えた、偉大なる紳士にしてダンディ、
サー・ウィンストン・チャーチル
第III部 現代のダンディズム像
1 ダンディズムの再定義
2 二十一世紀のダンディ
No.1 カジュアル化に優雅に逆行する
プリンス・マイケル・オブ・ケント
No.2 道化か天才か、
ボリス・ジョンソン
No.3 二十一世紀のクールなスタイルアイコン、
バラク・オバマ
3 混迷する現代において、変わりゆく男性像
4 日本におけるダンディズム

なぜ私はダンディズムにとりつかれているのか?――あとがきにかえて
参考文献

書誌情報

読み仮名 ダンディズムノケイフオトコガアコガレタオトコタチ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-603630-9
C-CODE 0377
ジャンル 倫理学・道徳
定価 1,430円

書評

“格好悪くない格好良さ”とは?

酒井順子

 格好いい男の人って、何て格好悪いのだろう。と、格好いい男性を見るといつも、思うものです。端正すぎる容姿の人。いかにもなモード系の服を着ている人。そんな男性を見ていると無性に恥ずかしくなってきて、直視しては悪いのではないか、とすら思えるのです。
 男は中身があってナンボ、外見にかまけているような男は馬鹿だ。……という古い考えが私の中にあるからこそのこの感覚なのでしょうが、しかしその感覚は意外に根強いもの。当の格好いい男性達も、若い頃はまだ無邪気に自分の格好良さを楽しむことができても、少し分別がつくと、「格好良くてすいません」的な顔をして、人生を過ごすことになるのです。
 外見の良さやお洒落さは、男性にとっては時にハンデとなるのでした。だからこそ、不幸にして完璧な外見や飛び抜けたセンスを持って生まれてしまった人は、どこか別のところで“抜け”をつくっておく必要がある。
『ダンディズムの系譜―男が憧れた男たち―』においては、古今を彩る様々な西洋のダンディな男達が紹介されています。彼等の人生を見ていて理解できるのは、やはり彼等にも必ず、何らかの“抜け”があるということなのでした。生まれが高貴でなかったり、破滅的な恋愛ばかりしてしまったり、実はお金に困っていたりと、どこかに欠点を抱えている人こそが、歴史に名を残すダンディになっているらしい。男性にとっての欠点は、ダンディさを形成するためのバネとなると同時に、格好良さをイヤミなものにしないためのガス抜き孔となるのです。
 さらには、歴史的ダンディは皆「格好良くなりたい」と思って格好良くしているのではないということも、本書から理解することができます。どこから見ても格好いい、のに無性に格好悪い男性は、「格好いいと思われたい」という自意識が手に取るように見えているからこそ、格好悪い。
「格好いいと思われたい」という気持ちを隠しつつ、それでも格好いいと思われたい男性達。彼等を見ていると、男性も大変であることよ、と思えてくるのでした。変な格好をしていれば「ダサい」と言われ、かといってお洒落に励んでみれば「馬鹿みたいだ」と言われ、「いったいどうすればいいのだ」と、思うのではないか。
 しかしこの本を読むと、男性が格好良く見える秘訣は、もしかすると「真似しない」ということなのかも、と思えてくるのです。人や雑誌の真似ではなく、自分の中から湧き上る衝動を外見と行動とに反映することによって結果的に格好良く見えていた人こそが、ダンディなのではないか。
 しかしまぁ、歴史的なダンディにまでなるつもりなどないという皆さんは、本書を参考にするだけでも、「格好いいという格好悪さ」からは脱却できるはず。いや本当、男性が格好よくするのって、難しいことですよね……。

(さかい・じゅんこ エッセイスト)
波 2009年3月号より

担当編集者のひとこと

ダンディズムの系譜―男が憧れた男たち―

ジェントルマンより出でて、顰蹙を買う反逆の徒となれ。「ダンディの条件って何ですか?」――中野香織さんへの最初の質問はこれでした。本書の元となった雑誌連載「ダンディズムへの招待状」「ジェントルマンの履歴書」で英国史のダンディ列伝を楽しんだものの、その像がしかと結べません。祖として神話化された郷士ボー・ブランメルに始まりディズレイリ、ワイルド、エドワード8世、チャーチルまで職業も容貌もさまざま、イギリス人であること以外に共通点もなさそうです。
「時代によって変化しますが、だいたい周囲の“顰蹙を買う”んです」と中野さん。「“空気を読めない”、どころか“読んだうえでぶちこわす”男たちですから。なのに愛されちゃう」――どこか他所ごとだった「男のダンディズム」というやつに、俄然、興味が掻き立てられたのでした。
 燦然と輝く歴史的ダンディ13人プラス現代版3人の人物カタログを通し、男の“愛され力”の秘密が鮮やかに、ときに酷薄に解剖されていきます。人は見た目が9割、という至言もありますが、実はその9割に「見る側の視線」も大きくあずかっているらしい。伝統とか大勢に反逆し、プライドも志も危険なほど高く、事に臨む態度はにくいほど冷静かつ大胆。そんな精神のありように、“色気ある装い”がプラスされたとき、人々はそこにカリスマを見出し、理屈を超えて「萌え」てしまうのではないでしょうか。
「ダンディズム」の優雅で濃密な薫り。せちがらい現代社会で空気を読むことに疲れた諸兄に、お奨めです。

2016/04/27

著者プロフィール

中野香織

ナカノ・カオリ

1962年生まれ。東京大学文学部および教養学部卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得。英国ケンブリッジ大学客員研究員などを経て、文筆業に。新聞、雑誌、ウェブマガジンなど多媒体において連載記事を執筆。著書に『愛されるモード』『着るものがない!』『モードの方程式』『スーツの神話』、訳書にエイザ・ブリッグズ『イングランド社会史』(共訳)、ジャネット・ウォラク『シャネル スタイルと人生』、アン・ホランダー『性とスーツ』など。2008年より明治大学国際日本学部特任教授。

KAORI NAKANO OFFICIAL WEBSITE (外部リンク)

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