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お殿様たちの出世―江戸幕府老中への道―

山本博文/著

1,430円(税込)

発売日:2007/06/22

  • 書籍

老中=幕政の最高中枢。その座を巡り、江戸城では熾烈な人事争いがあった!

幕政を握る人物たちは、いかにして選ばれるのか? 諸大名が羨望した、老中の権力と権威とは? その座へと至る大名の昇進コース、出身家や本人の能力などから、江戸城中枢の政治力学が見えてくる。初代老中・本多正信から最後の老中・稲葉正邦まで、歴代老中が総登場。幕府のトップ人事から見た画期的江戸政治通史。

目次
はしがき
序章 老中とはどういう存在か
第一章 江戸幕府における老中の地位
一、幕府老中の地位
老中は譜代大名最高の家柄か?/江戸城の殿席/帝鑑間席と雁間詰/老中の官位/老中の格式は領地三万石以上/老中の城地の全国分布
二、なぜ徳川四天王の子孫は老中にならないか
秀吉が知っていた徳川家老臣/徳川家宿老としての酒井家/一門並となった本多家/家康の側近だった榊原康政と井伊直政/徳川四天王家と老中職/四天王家が老中を出した特殊事情
第二章 「老中制」の成立
一、家康の駿府政権と秀忠の「将軍政権」
初代老中本多正信と大久保忠隣/本多父子と大久保忠隣との権力抗争/駿府政権と将軍政権の関係
二、秀忠政権における「老中制」の成立
秀忠政権の成立と年寄たち/上昇する土井利勝の地位/本多正純の改易とその命脈/本多正純改易後の年寄
三、秀忠大御所時代の年寄
酒井忠世と酒井忠勝/三代将軍家光の年寄/大御所秀忠の年寄/秀忠大御所時代の権力の所在/将軍の地位を尊重した大御所
第三章 側近老中制の完成
一、家光側近による老中制
家光主導の年寄人事/側勤めを望んだ松平信綱/家光側近の取り立て/三階層あった年寄/利勝・忠勝の老中職赦免/家光時代の老中制の特徴/家光時代の老中の城地/阿部正次と大坂城代職/家光に殉死した堀田正盛と阿部重次
二、家光が遺した老中と家綱取り立ての老中
将来を嘱望されていた酒井忠清と稲葉正則/若年寄の設置/老中の補充/京都所司代の変化/阿部豊後守家の老中就任事情/大久保家の復権/家綱政権の老中の特色
第四章 老中官僚制への移行
一、老中昇進コースの成立
綱吉将軍就任の真相/酒井忠清の失脚/老中の交代/誰もがたどるようになる昇進コース
二、大老・老中・側用人
大老という地位/大老堀田正俊の横死/必ず務めるべき奏者番/長期化する在職期間/家格のあがりすぎた稲葉家/綱吉晩年の老中補充/側用人柳沢吉保/柳沢吉保取り立ての理由/大老となった井伊直興
三、老中昇進が望まれる時代に
家宣代の老中と側用人/老中になりたかった阿部正喬/不遇の時代が続いた久世重之/七代家継代の老中補充/譜代にこだわった酒井忠挙/忠挙の譜代意識
第五章 幕府安定期の老中登用
一、吉宗政権前半の老中
吉宗の将軍襲職と老中の交代/久世重之の誠実さと御側御用取次/二度にわたって先を越された京都所司代
二、吉宗政権後半の老中
十五年の若年寄勤務の末の老中/将来を見込まれていた酒井忠音/水野忠之の罷免/松平信綱の子孫の老中登用/松平輝貞の任務/老中の家格は分家からも/吉宗政権末期の老中欠員補充/将軍の目利き
三、同年代を集めた家重代の老中
勝手掛老中松平乗邑の罷免/吉宗大御所時代の西の丸老中/酒井忠恭、溜詰となる/藩財政窮乏の原因となった老中職/堀田正亮、勝手掛老中に就任/大御所吉宗没後の体制/側用人職の復活
四、家治代の老中と田沼意次
家治の将軍襲職/相次ぐ老中の交代/田沼意次の老中就任/田沼意次の権勢の背景
第六章 改革と爛熟の時代の老中
一、寛政改革期の老中の評判
松平定信の老中首座就任/賄賂で老中になった阿部正倫/前代からの老中の退場/定信系老中の任命/部下たちの老中評
二、松平定信の引退
政権を返還した松平定信/定信辞職の衝撃/病にありながら老中就任/若年寄から老中へ
三、家斉代後半の老中
帝鑑間席から老中になった牧野忠精/久々に老中を出した土井家/家斉が任命した老中たち/就任時最年長は西の丸老中/桂昌院取り立ての家から老中へ/外様大名を老中に進めた大奥女中の不祥事
第七章 崩壊する老中制
一、水野忠邦の栄光と末路
四十五歳の新将軍家慶と老中水野忠邦/天保の改革と忠邦派老中/ 改革政治の挫折/阿部正弘の老中昇進/忠邦の復権と辞職
二、弱体化する老中制
阿部正弘とペリー来航/十三代将軍家定と堀田正睦の再起用/大老井伊直弼の登場/大老の権力/安政の大獄と桜田門外の変/文久の政治改革/家茂上洛後の老中たち/諏訪忠誠と松前崇広/毛利家への老中奉書/若年寄に「馬鹿」と言われた老中
三、老中制の終焉
徳川慶喜の老中任用/最年少老中松平定昭/大政奉還後の老中任命/最後の老中稲葉正邦
終章 江戸幕府老中の実像
あとがき
付録 歴代老中就任期間一覧
主な参考文献

書誌情報

読み仮名 オトノサマタチノシュッセエドバクフロウジュウヘノミチ
シリーズ名 新潮選書
雑誌から生まれた本 から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 272ページ
ISBN 978-4-10-603585-2
C-CODE 0321
ジャンル 日本史
定価 1,430円

インタビュー/対談/エッセイ

波 2007年7月号より 出世を望んだ殿様たち  山本博文『お殿様たちの出世―江戸幕府老中への道―』

山本博文

 本書は、江戸幕府の総理大臣にあたる老中がどのようにして選ばれたのかを、初代老中で家康の懐刀であった本多正信から幕府の滅亡後の最後の老中稲葉正邦まで、すべての老中について検討したものである。そんな地道な作業をしているうちに、気づいたことも少なくない。
 官僚制的老中制の成立が、側用人政治とされる五代綱吉の時代であったことや、各将軍による老中昇進コースの変化などは、その最も大きな成果であるが、個々の老中の評価についても興味深い発見があった。
 たとえば、賄賂政治で有名な田沼意次である。意次は、低い身分から取り立てられ、老中になったとされる。しかし、意次は出世街道を驀進したわけではない。田沼が小姓として仕えた家重の時代には側衆までにしかなれず、家治の時代、五十四歳でようやく老中になった。その後、先任の老中が高齢のため次々と病死し、期せずして権力が集中する立場になった。意次の権力の背景には、将軍の信任があったことは確かだが、運のよさも大きかったのである。
 備後福山藩主の阿部正弘は、二十五歳という当時としては最年少で老中に就任した。彼が老中に抜擢されたのは、寺社奉行の時、大奥女中の不祥事を見事にもみ消したことが大きかった。その後、老中首座にまでなったが、ペリー来航という国難に遭遇する。しかし阿部政権は、経験の浅い者ばかりで、とうてい独断で開国を決定することができる陣容ではなかった。
 将軍も病弱な十三代家定である。正弘が、外交方針について諸大名の意見を徴したのは、そうした政治環境を考慮しないと理解できない。
 正弘の場合は悪い時期に老中だったと言うほかはないが、それ以前の時代なら、殿様は老中になって鼻高々だった。ただし、老中になると、驚くほど出費が増え、藩財政は窮乏した。
 鶴岡藩の中老は、国元の惨状を言上して藩主酒井忠寄を諫め、唐津藩水野家の家老は、老中になるため浜松へ転封を策する藩主忠邦を、自害して諫めようとした。
 しかし、忠寄は不機嫌になって奥へ引っ込んでしまったし、忠邦は考えを改めようとはしなかった。殿様たちにとって、多くの殿様の上に立つ老中という役職は、それほど魅力的なものだったのである。



(やまもと・ひろふみ 東京大学教授)

担当編集者のひとこと

お殿様たちの出世―江戸幕府老中への道―

「老中」=幕府政治の最高中枢。その人事には、江戸城内の政治エッセンスが詰め込まれていた! 歴史書はもちろん、時代歴史小説でもたびたび幕府政治の最高権力者として登場するのが「老中」です。しかし、これほど重要な役職でありながら実際に名前をよく知られている老中は、松平伊豆守、田沼意次、松平定信、水野忠邦など数名に過ぎません。
 しかし、約260年間の江戸時代には、124名もの大名が老中に就任しているのです。もちろん、幕政トップの座がかかっていますから、その就任にはつねに競争があり、名を知られていない老中たち一人ひとりにも、当時の政治動向や将軍や幕閣同士の人間関係、家格、血脈が様々に働いているのです。そして、現代の我々も身につまされるような事情もあれば、まさに江戸時代ならではの背景もありますが、それはまさに幕府政治のエッセンスともいうべき独特の政治力学そのものなのです。
 山本博文東京大学史料編纂所教授による本書は、江戸時代に老中に就任した「全124名」について、その人事的背景を考察し、老中という役職の権力、権威、またそこに至る出世コースなどを明らかにして行きます。例えば有名な田沼意次も、同時代の他の老中人事をあわせて分析することにより、その出世が単に異例とは言えないことや、自由に権勢をふるえた事情までが見えてきます。老中制度の変遷を捉え、その構造を明らかにしてゆく本書ですが、あわせて紹介される老中たちの悲喜こもごものドラマ、エピソードも読みどころです。
 また、著者の工夫により、本書では初代老中の本多正信以下、各老中に就任順の通しナンバーを振っているのも特徴です。一見、小さな工夫ですが、これにより江戸政治の流れがぐっと掴みやすくなっています。巻末には、付録として「歴代老中就任期間一覧」もついていますので、読者の皆さんが独自に江戸のトップ人事から何かを発見することもあるかもしれません。事件や出来事ではなく、人事から江戸時代の流れを見る――画期的な江戸通史を是非お楽しみ下さい。

2016/04/27

著者プロフィール

山本博文

ヤマモト・ヒロフミ

(1957-2020)1957(昭和三十二)年、岡山県生まれ。東京大学文学部国史学科卒、同大学院修了。東京大学史料編纂所教授。専門は近世政治史。新しい江戸時代像を示した『江戸お留守居役の日記』で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。『島津義弘の賭け』『「忠臣蔵」の決算書』など著書多数。

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