変り兜―戦国のCOOL DESIGN―
1,760円(税込)
発売日:2013/09/20
- 書籍
戦場のオシャレは命懸け。
兜は見た目が9割? 戦国の武将たちが競いあうように作らせた「変り兜」60点を一挙公開。虫愛づる殿やカニ将軍、ウサミミ男子にSFマジンガー系など、キッチュでバサラな造形はなぜ生れたのか。そもそも「戦国時代」とは何か。合戦のリアルな真実とは? ワビ、サビ、イキだけではない、「B面」の日本美が明らかに。
昆虫|虫愛づる男たち
鳥羽|羽根マシマシで
植毛|男は黙って盛り髪
ウサミミ|バニー男子で行こう
植物|武士でも草食系
魚介|カニ将軍 VS さかなくん
タワー|そそり立つシンボル
双角|戦え角を突き合わせて
かぶりもの|頭上に輝く大将の印
マジンガー|ロボットアニメまで受け継がれる造形感覚
番外|なんでもあり、の奇想天外兜
南蛮|やっぱり海外ブランドが好き
陣羽織|戦場のトータルファッション
一|「戦国時代」を知っていますか?
二|覇者たちの都市
三|戦場のエンサイクロペディア
四|変わり兜はこうして生まれた
書誌情報
読み仮名 | カワリカブトセンゴクノクールデザイン |
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シリーズ名 | とんぼの本 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | B5判変型 |
頁数 | 128ページ |
ISBN | 978-4-10-602249-4 |
C-CODE | 0372 |
ジャンル | 収集・コレクション |
定価 | 1,760円 |
書評
過剰系美意識の系譜
和をもって尊しとなす日本の歴史の中に、下克上を旨として、特異点のように存在する戦国時代には、甲冑も異様な進化を遂げた。
『変り兜―戦国のCOOL DESIGN―』は、室町時代以降、武将たちがさまざまに意匠を凝らして競い合った兜を、時代背景を交えながら、ユニークさを重視したセレクトで紹介している。それにしても、戦場のような緊迫した場で、こんなオモシロセンスを発揮していて大丈夫? 兜はずっと被っているわけだし、武将の代名詞になったりもするから、下手にやってカッコ悪かったら、ただの晒し者になってしまう。だからといって、無難な方向にはいかなかったのが、戦国の世というものなのだろうか。
フサフサの毛虫を模した「七十二間筋兜」、頭の上ににょっきり腕が生えたような「金剛杵形兜鉢」、空気抵抗で首が折れないか心配してしまう「一の谷形兜」など、奇をてらったようなモチーフもあるが、それぞれに武士の勇猛さや、信仰心の表れ、縁起を担ぐ意味があったりして、戦場という場での心理的効果も考えた立派な実用品なのだ。文脈は重視しつつ、自分だけの創意工夫をする――方向性はまったく違うけれど、同時代に隆盛した茶の湯にも通じる感覚だ。
現代に変り兜のセンスを当てはめるとして、本書の冒頭で、オタクのコスプレ文化ではなく、「いささか古典的なヤンキー文化」との共通性を指摘しているのは、さすが橋本麻里さん! という感じだけど、さらに言えば、ギャル・ギャル男文化も、この系譜に連なるのではないだろうか。彼らの用語に「盛る」という言葉があり、過剰な化粧などで、実物より可愛く、派手に見せたりすることを指す。とくに「髪を盛る」ことに関してはエスカレートしていて、そのまま武将の兜のようだし、内輪で共有されている美意識に基づいていたり、外部の人間としては「この努力に何の意味が……」と思いつつも、圧倒されるパワーは認めざるをえないところも、なんだか似ている。そういえばギャル男雑誌「メンズナックル」のストリートスナップにつけられた煽り言葉が過剰ということで、一時期ネットで話題になったが、本書のどーんと1頁に1兜、インパクト重視のキャッチが添えられている形から、なんとなくそれを思い出した。ただのモノとしての紹介ではなくて、それを作った・作らせた武将の「どうだ!」という顔を見せつけられているようで、実際に使われた現場の血腥さとは裏腹に、ほほえましくすら思ってしまうのも、変り兜の魅力だ。
(さるた・うたこ 編集者)
波 2013年10月号より
著者プロフィール
橋本麻里
ハシモト・マリ
ライター。編集者。明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。「芸術新潮」「BRUTUS」等の雑誌記事のほか、高校美術教科書の編集・執筆も手がける。1972年神奈川県生れ。国際基督教大学教養学部卒業。著書に『日本の国宝100』(幻冬舎新書)、『ニッポンの老舗デザイン』(マガジンハウス)、共著に『浮世絵入門 恋する春画』『運慶―リアルを超えた天才仏師―』(ともに新潮社とんぼの本)など。