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言葉と物〈新装版〉―人文科学の考古学―

ミシェル・フーコー/著 、渡辺一民/訳 、佐々木明/訳

5,500円(税込)

発売日:2020/02/27

  • 書籍

二十世紀の文化人に大きな衝撃を与え、いまなお人々を魅了する革命的思想書を改版・新装版で。

ベラスケスの名画「侍女たち」は、古典主義時代における人間の不在を表現している。実は「人間」という存在は近代に登場したものであり、いずれ終焉を迎えることになるだろう――。西欧思想史を厳密に分析批判したうえで、今日の人間諸科学の冒険的試みを統合し、画期的認識論をうちたてたフーコーの名著を新たな装いでお届けする。

目次
凡例
第一部
第一章 侍女たち

第二章 世界という散文
一 四種の相似
二 外徴
三 世界の限界
四 物で書かれたもの
五 言語ランガージユ存在エートル
第三章 表象すること
一 ドン・キホーテ
二 秩序
三 記号シーニユの表象作用
四 二重化された表象
五 類似性の想像力
六 「マテシス」と「タクシノミア」
第四章 語ること
一 批評と註釈
二 一般文法
三 動詞の理論
四 分節化
五 指示作用
六 転移
七 言語ランガージユの四辺形
第五章 分類すること
一 歴史家はどう言うか
二 博物学
三 構造
四 特徴カラクテール
五 連続体と天変地異
六 畸型と化石
七 自然の言説デイスクール
第六章 交換すること
一 富の分析
二 貨幣と価格
三 重商主義
四 担保と価格
五 価値の形成
六 有用性
七 全体的なタブロー
八 欲望と表象
第二部
第七章 表象の限界
一 歴史の時代
二 労働という尺度
三 生物の組織
四 語の屈折
五 観念学と批判哲学
六 客体の側における綜合
第八章 労働、生命、言語ランガージユ
一 新たなる経験的諸領域
二 リカード
三 キュヴィエ
四 ボップ
五 客体となった言語ランガージユ
第九章 人間とその分身
一 言語ランガージユの回帰
二 王の場所
三 有限性の分析論
四 経験的なものと先験的なもの
五 コギトと思考されぬもの
六 起源の後退と回帰
七 言説デイスクールと人間の存在エートル
八 人間学的眠り
第十章 人文諸科学
一 知の三面角
二 人文諸科学の形態
三 三つのモデル
四 歴史
五 精神分析、文化人類学

訳者あとがき
固有名詞索引
事項索引

書誌情報

読み仮名 コトバトモノシンソウバンジンブンカガクノコウコガク
装幀 高松次郎/装画、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 522ページ
ISBN 978-4-10-506708-3
C-CODE 0010
ジャンル 人文・思想・宗教
定価 5,500円

書評

避けて通ることのできない書物

慎改康之

 1966年にフランスで出版された『言葉と物』は、ミシェル・フーコーの一大出世作となった。少数の専門家に向けて書かれたはずの極めて難解な書物が、「人間の死」ないし「人間の終焉」という挑発的テーゼとともに哲学書としては異例の商業的成功を果たし、これを機にフーコーの名は広く世に知れ渡ったのだった。
 実は、フーコーは後に、「『言葉と物』は私の真の書物ではない」と語ることになる。この著作において分析されているのが秩序とその存在様態とをめぐる経験であるのに対し、自分を本当に魅惑していたのは、そうした経験の限界にかかわるテーマ、すなわち、狂気、死、性、犯罪といったテーマであった。したがって、それらのテーマを扱った他の自著と比べるならば、『言葉と物』は自分にとっていわばマージナルな書物なのだ、と。
 しかし、著者自身による回顧的な評価がいかなるものであるにせよ、二十世紀後半のフランスにおける思想的転回にそれが果たした役割において、そしてまたフーコー自身の研究活動のなかでのその位置づけにおいて、『言葉と物』が我々読者にとって極めて重要な著作であることに変わりはない。
 まず、その歴史的な意義について。フーコーも述べているとおり、第二次大戦前から戦後にかけてのヨーロッパ哲学を支配していたのは、主体をあらゆる知の基礎とみなそうとする主体性の哲学であった。しかし、1950年代後半から1960年代にかけてそうした支配が次第に弱まるとともに、新たな波が現れることになる。主体の意識の外から意識に課されるものとしての「構造」に関する探究が、さまざまな領域において行われるようになるのである。そして1966年、「構造主義者」とされる人々の著作が次々に発表され、その波が最大の高まりに達するなかで、とりわけ脚光を浴びたのがまさしく、フーコーの『言葉と物』であった。つまりこの書物は、人間の主体性にそれまで与えられてきた特権に対する異議申し立てという当時の潮流を象徴するものとして現れ、そのようなものとして広く受け入れられたのである。
 実際、フーコーがそこで示してみせるのは、至上の主体であると同時に特権的な客体としての「人間」が、実は比較的最近になって現れたものにすぎない、ということである。ルネサンスにおける「類似」の解読から古典主義時代における「表象」の分析へ、そしてそこから近代における「人間」の発明へ。西洋の知の歴史的変容をこのように描き出し、そしてさらには間近な「人間の死」を予告することで、『言葉と物』は、新たな時代の幕開けを決定的なやり方でしるしづけたのだ。
 そしてそればかりではない。一つの時代を画す書物であるのみならず、フーコー自身の研究活動のなかである種の特権的な地位を占めているという点からも、1966年の彼の著作の意義を見定める必要がある。
 というのも、『言葉と物』によって前面に押し出されている「人間」の問題化は、1960年代から1970年代にかけてのフーコーの著作すべてを貫いて見いだされるものであるからだ。まず、狂気や病をめぐる「考古学的」探究が展開された1960年代には、「人間学的思考」の歴史的成立が、精神医学や実証的医学の登場を可能にした要因のうちの一つとして示されていた。そして、刑罰制度やセクシュアリティといったテーマをめぐる1970年代の研究のなかで、権力のメカニズムの変化と連動するものとして粗描されるのもやはり、近代における「人間諸科学」ないし「主体の学」の形成なのだ。要するに、フーコーを魅惑していたという死や狂気、犯罪や性といった問題のすべては、1980年代に古代世界の探究へと向かうまで常に、十八世紀末の「人間」の発明という出来事と決して切り離すことのできないものとして扱われているのである。
『言葉と物』は、フランス思想の画期をなしたものであると同時に、フーコー的言説の要石でもあるということ。したがって、これを読まずしてフーコーを語ることなどできまい。二十世紀フランス思想において彼が果たした役割を見極めるためにも、さまざまな領域を踏破してなされた彼の研究の数々を互いに関連づけるためにも、さらには我々が今なお彼に負っているものについて思考するためにも、『言葉と物』は、困難ではあるが決して避けて通ることのできない書物なのだ。

(しんかい・やすゆき フランス思想)
波 2020年3月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

ミシェル・フーコー

Foucault,Michel

(1926-1984)20世紀のフランスを代表する哲学者。1960年代からその突然の死にいたるまで、実存主義後の現代思想を領導しつづけた。主な著書に『狂気の歴史』『言葉と物』『監獄の誕生』『性の歴史』(以上、新潮社刊)『ミシェル・フーコー思考集成』全10巻(筑摩書房刊)など。

渡辺一民

ワタナベ・カズタミ

佐々木明

ササキ・アキラ

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