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君たちが忘れてはいけないこと―未来のエリートとの対話―

佐藤優/著

1,485円(税込)

発売日:2019/05/29

  • 書籍
  • 電子書籍あり

怖いもの知らずの高校生、佐藤優に体当たり! 「知」を追求する者同士の世代を超えた真剣勝負。

世界の行方も日本の未来も、決めるのは僕たちだ! 世界的に広がる格差をなくすには? 資本主義の終焉はいつ訪れる? 後悔しない大学の選び方は? 社会のリーダーに必要な教養とは? 切実でイキのいい問いを遠慮会釈なくぶつける高校生たちに、自らの知識と経験を惜しみなく語り伝える名講義完全採録。

目次
まえがき
1 ファシズムは僕らの周りにある 2016年4月5日
「半年後の国際情勢をズバリ予測します」と言っている人がいるとしたら、
それは大ウソつきか、まるで分かっていないかのどちらかです。
資本主義を読み解いた宇野弘蔵/国際政治は複雑系/「資本の過剰」からイノベーションまで/『わが闘争』を巨大化したドイツの発想/第一次世界大戦に伴うパラダイムチェンジ/二〇世紀最大の「問題国」は?/勉強に興味のない東大生たち
共産主義と違って、ファシズムはまだ潜在力を使い切っていない。
「One for all, All for one」はファシズムの合言葉/ファシズムの芽は学校にも/簡単に受容し、絶対に消化しない日本/室町時代のグローバリゼーション/英語で授業して伝わる内容は六%/「メンター」にご用心/神権がなければ人権はない/現世は悪ければ悪いほど良い/じつは都合がいい「対米従属論」
今は入学歴プラス大学で何をやったのかが問われる、
真の学歴社会が到来している。
SEALDsは中堅大学生の地位上昇装置/若者は狙われている/安保法案は突っ込みどころ満載のガラス細工/国民投票の現実性は/中学までは少なすぎ、高校からは多すぎる/日本最高のエリートは高卒だった/錬金術師・小保方さん/AO入試の罠/ロマン主義が分けた欧と米/マシンガン・ベーコンの国
人生の価値観を高収入に置く場合、儲ける方法はたった一つしかない。
それは企業を興して、他人の労働を搾取することです。
日本の社会民主主義政党はどこだ/ハーバードは寄付で入れる時代/行政が喜ぶ「富山モデル」/「女性の活躍」に潜むカラクリ/「お上は信用ならない」/最高税率一五%の国へ/大金持ちの憂鬱/日本人の自己意識/労働力再生産の現場
みなさんが大学に入って学ぶ際にも、平和学の仮面をかぶった
安全保障問題や軍事問題があることを覚えておいてください。
日本と核/GPS技術をどう持つか/NPT体制は風前のともしび/資本主義崩壊は外部からやってくる/どうなる、次世代の経済システム/空気のような天皇
2 モラルとモラールを持って生きよ 2017年4月4日
計算能力と識字率の高さが産業社会の特徴であり、
産業を維持するために必要なインフラなんです。
もしグローバル化できなかったら/国家と産業がセットな理由/受験英語では物足りない君へ/マルクス経済学とは?/民族・国家・資本の環/「官製春闘」はファシストの発想/「負の相続税」の可能性/資本主義はマネジメントできない/「歴史的」とはどういう意味か/メタファーとアナロジー
日本人における天皇制と似ているのが、
イスラム社会におけるイスラム教です。
希望のない人の希望としての宗教/アイデンティティの基盤はどう決まる/スルーされた籠池発言の大問題/天皇が作る日本的特殊性/変わりつつある共産党/「イスラム穏健派」は存在するのか?/品格ある帝国主義の国イギリス
沖縄問題の一番のボタンの掛け違いは、中央政府の目には、
自分たちの味方が敵に見えていることだ。
沖縄くんのトイレ掃除/琉球は水戸黄門にひれ伏さない/自己決定していく沖縄/分離独立のシナリオを問う/米軍は何のためにいるのか/「絶対に負けない国」と戦ってはいけない/イキり盛りの中国海軍
北朝鮮には世論がない。韓国には世論がある。
パワー・エリートという人種/「金持ちの無償奉仕」は美談ではない/アメリカの現状はボナパルティズム/トランプ政権の意外な支持層は/金正恩vs.トランプ/韓国が核保有国になる日/市民は欲望を追求する/『東京タラレバ娘』の生活保守主義/ポピュリズムはエリートを指弾する
言っておくけれど、受験勉強を決してバカにしてはいけない。
総理大臣と出身大学問題/自分の未来をマネジメントする/イスラエル軍需企業の逆転の発想/AI原理の教育はエリートの重要課題/宇宙で向き合う米中露/サンデル「トロッコ問題」の背景にあるもの/ロックフェラー家の二つの家訓/ロシアを支えたエリートの力/エリートにしかできないこと
3 AIと正しく付き合うために 2018年4月5日
君たちは「常識」に疑問を持たねばならない。
国会質疑のごとく/メディアの目的は営利の追求/教育改革の目的はどこにあるか/AIは人間の知性を超えない/国体の動揺を抑えるために/少数派の宿命
森友問題は、能力がなくてやる気のある政治家と、
能力があって倫理観の欠如した官僚によって起きた案件なんだ。
鈍感力も実力のうち/佐川局長の思考回路/悪い政治家と、うんと悪い政治家/北朝鮮の「強さ」の理由/米朝を結んだ韓国のチャンネル/大統領になりたくなかったトランプ/日本が犯した重大な勘違い
外務官僚はいま、安倍内閣のために一生懸命仕事をしないんだよ。
役人が我慢できること、できないこと/人口のトレンドにも注目せよ/国際関係はニュートン力学/中間層市民の不安がポピュリズムを生む/国家社会主義の源流へ/社会福祉とファシズムの分かちがたい仲/ヨーロッパとアメリカのリベラル
受験勉強は総合マネジメント能力の勝負だから、君たちは十代の時点で
社会の上層部に残ることがほぼ確定しています。
灘高生の人生設計/メディアは公私の交わる場所で生まれた/情報空間は三層化する/受験勉強は総合マネジメント能力勝負/「入学歴社会」にも対応すること/「ラッセルのパラドックスってなんですか」
この国では天皇の名の下にさまざまなものが結び付くのが特徴です。
国体を考える/今上天皇退位がもたらす大きな変化/外務省の終戦工作は「英文和訳力」で/国体が埋め込まれた国際基督教大学/外部の視点から天皇を見れば/トランプのモチベーション/アメリカのエリートは国連が嫌い
懸命に這い上がってくる人たちの気持ちを理解するには、
ぜひ小説を読んでください。
ベーシックインカムは有効か/「幸せ」ってなんだろう/自分と違うタイプの人を理解するために/官僚を目指す人へ推奨する道/予防接種としての神話教育を/通俗化の力を再評価しよう
あとがき
本書に登場した書籍一覧+α

書誌情報

読み仮名 キミタチガワスレテハイケナイコトミライノエリートトノタイワ
装幀 新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 272ページ
ISBN 978-4-10-475215-7
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,485円
電子書籍 価格 1,485円
電子書籍 配信開始日 2019/11/01

書評

マイケル・サンデルではまにあわない

松岡正剛

 最近はあまり現場の仕事をしなくなったけれど、編集の仕事をしていると、いろいろな才能の持ち主に出会う。書けばうまい、インタヴューに強い、対談が巧みだ、講演で聴かせる、タイトリングに長けている、あとがきで泣かせる、書評が適確だ、等々。いろいろである。
 こうした才能には逆もあるし、片寄りもある。書けるけれど話すとめちゃくちゃ、相手との距離が保てずに話す、予定どおりの講演しかできない、文章は妙にレトリカルなのに授業は通りいっぺん、すべて上等だが実は人格が破綻している、論文は書けるがエッセイはへたくそ。こちらもいろいろだ。だから、おもしろい。
 佐藤優はリテラルもオラルも抜群で、かつ多産であって、どんなときも焦点が間抜けにならない。人倫もすばらしく、付きあってみるとすぐわかるが、配慮にも富んでいる。
 読書派であることは夙に知られているけれど、たんに読書量を誇っているのではなく、文脈の中でも「その書物」(著者・版元・刊行期・内容)との遭遇距離をまちがえないで引用したり挿入できる才能がある。私が知るかぎり、最近の日本ではピカ一だ。
 加えてさらに気付かされたのは、セッションにも強いということだ。作家でこの能力を見ることはめったにないのだが、佐藤さんはナマの「多勢に無勢」にも強い。外交官の経験にもとづくのか、熾烈な裁判をくぐり抜けてきたせいかはわからないが、私も何度か現場を共有して目を見張った。
 灘高の生徒を相手に話しこんだ『君たちが忘れてはいけないこと―未来のエリートとの対話―』にも感心した。高校生エリートを相手にしていることを活かして、生徒たちが用意した論点・質問・疑問をみごとに采配している。通りいっぺんのセッションではない。誘導の場面、切り込みの場面、諭しの場面、転換の場面、いずれも申し分なく配分されていた。
 灘高生が気になっているのは、日米関係、グローバルスタンダードの行き過ぎ、ベーシックインカムの実現可能性、天皇制の行方、SNSやAIの限界のこと、基地問題、民主主義とポピュリズムの関係、トランプや北朝鮮やイスラム過激派の動向といったもので、まあ、予想のつく論題が多い。ただ、そこには灘高生なりの憂慮と不安、日本の将来の見えなさ、納得のいかない思い、深められない苛立ちなどがある。これらを佐藤さんは、まさに「知の鵜匠」や「インテリジェンスの伯楽」のように捌いていくのである。
 当然、高校生には無知も誤解も先走りも思いこみもある。とくに歴史観が乏しい。それを適切な事例をふんだんに出しながら補い、必須なところは解説し、あっというような判断基準を惜しみなく出していく。事例は軍事情報から小説・映画・マンガに及び、そのつど読むべき書物が差し出されるのだ。
 しかし、この本を読んで感心したのは、こうした対応力の愉快だけではなかった。2020年代の世界情勢のなか、令和の時代に入った日本および日本人が何を考えなければならないのか、このことを実に分厚く、鋭利に、証拠だてて展開している問題設定力と解読力に感心した。たんに深めようとしているのではなく、設定された問題のレベルを問うて、その設定問題なら打ち切ってしまうという、さしずめ「知の地政学」ともいうべき「知政学」が発揮されているのも魅力的なのである。
 もうひとつ感心するのは、「踏み込むべきところ」と「怖いところ」をちゃんと示していることだ。高校生にはどこで踏み込んでどこで控えるかが、わからない。そういう社会感覚的なアフォーダンスを扶けてあげているのだ。大学で取り組むべきことも、社会で仕事をするときの心得も、存分に助言されている。この親心は、実は佐藤さんの隠れた魅力だろう。
 当然、オトナたちも読むべきである。私はどこかでオトナたちに苦言を呈することに倦きてしまったところがあるのだが、佐藤さんのリテラシーやオラリティとなら筏を組んで同舟できそうだ。思想議論としても、民主主義、反知性主義、ポピュリズム、ボナパルティズム、帝国主義、ファシズム、リバタリアニズム、統計主義などの、歴史的で未来的な捉え方が、大いに参考になる。マイケル・サンデルなどではまにあわない。

(まつおか・せいごう 編集工学研究所所長)
波 2019年6月号より
単行本刊行時掲載

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著者プロフィール

佐藤優

サトウ・マサル

1960年生れ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了の後、外務省入省。在英大使館、在露大使館などを経て、1995年から外務本省国際情報局分析第一課に勤務。2002年に背任と偽計業務妨害容疑で逮捕・起訴され、東京拘置所に512日間勾留。2005年2月執行猶予付き有罪判決を受ける。2009年6月に最高裁で上告棄却、執行猶予付き有罪確定で外務省を失職。2013年6月に執行猶予期間を満了、刑の言い渡しが効力を失った。2005年、自らの逮捕の経緯と国策捜査の裏側を綴った『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。以後、作家として外交から政治、歴史、神学、教養、文学に至る多方面で精力的に活動している。主な単著は『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞)、『獄中記』『私のマルクス』『交渉術』『紳士協定―私のイギリス物語』『先生と私』『いま生きる「資本論」』『神学の思考―キリスト教とは何か』『君たちが知っておくべきこと―未来のエリートとの対話』『十五の夏』(梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞)、『それからの帝国』など膨大で、共著も数多い。2020年、その旺盛で広範な執筆活動に対し菊池寛賞を贈られた。

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