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看守眼

横山秀夫/著

1,870円(税込)

発売日:2004/01/16

  • 書籍

守りたいものがある、守ってみせる、人生を賭けて――。わかるんだよ、刑事にはわからなくてもな。

いつか刑事になる日を夢見ながら、二十九年間、留置管理係として過ごした近藤。まもなく定年を迎える彼は、殺人容疑をかけられながら釈放された男を、ひとり執拗に追う。「死体なき殺人事件」の真相を見抜いたのは、〈看守の勘〉だった。表題作他、短篇の名手の本領発揮、渾身の小説集!

  • テレビ化
    ドラマW『横山秀夫サスペンス』(2010年3月放映)

書誌情報

読み仮名 カンシュガン
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-465401-7
C-CODE 0093
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 1,870円

書評

「仕事」と「職務」の間で

坪内祐三

 日本の現代小説をほとんど読まない私も、横山秀夫には強い関心がある。
 小説は読まないものの、私は、日本の現代作家たちのエッセイやインタビューは、けっこう読んでいる。週刊、月刊あわせて、毎日のように私のもとに様ざまな雑誌が届く。それらの雑誌には幾つものエッセイやインタビューが載っている。
 そういうエッセイやインタビューに、つまり作家たちの言葉に、私は、つい、目を通してしまう。
 そして、本質的な作家と、そうでない人を、私なりに見分ける。
 もちろん、本質的な作家は数少ない。
 横山秀夫はその数少ない一人であるように私には思える。
 だから、私は、氏の小説には目を通していないものの(ゴメンナサイ)、作家横山秀夫という存在を、ずっと、秘かに観察し続けていた。
 直木賞拒否宣言の時はさすがだと思った。
 その淡淡とした肝のすわり方に。
 普通、こういう宣言を行なう時は、もっとケレン味たっぷりと(特に今時の作家なら)やりたがる。
 ところが横山秀夫はあくまで淡淡としていた。だからこそ氏は本質的な作家である、と私は思った。
 私の友人に、大の仕事師として知られる二人の古本屋がいる。
 新本に興味ある古本屋は二流である。まして彼らは大の仕事師である。
 数カ月前に彼らと酒を飲んでいた時、私は、彼らが横山秀夫の愛読者であることを知った。ふだん彼らの口から名前が出るのは明治大正期のアナキストたちや戦前に満洲で活躍した詩人たちの名前などだ。
 そんな二人が、声を揃えて、横山秀夫の小説はいいよツボちゃん、と言った。
 横山秀夫の最新短篇集『看守眼』を通読し、初めて横山文学を知った私は、彼らが横山秀夫の小説のどのような部分に反応したのかよく理解できた。
 ところで横山秀夫が特別の作家であることは、彼が、編集者たちから愛されている作家であることからもわかる。
 売れる作家と愛される作家は別である。
 例えば、かつて純文学には、売れなくとも愛される作家がたくさんいた(今の純文学が弱くなったのは、そういう愛される作家が殆ど消えてしまったことに原因がある)。
 それから、今のエンターテインメント系には売れるだけの作家が何人もいる(そういう作家は売れなくなった時にその作家生命が終わる)。
 横山秀夫は、売れる作家でありながら、しかも愛される作家でもある。
 この場合の「愛される」とは、単に人柄が良いとか締め切りに正確だとかいうことではない。
 編集者が、「職務」ではなく、その「仕事」を共にしたいと思わせる、そういう作家のことを意味する。
 編集者は普通のサラリーマンに比べて自由業者的に見えるがやはり「組織」の人間である。だから、売れ行きだとかそういうことを常に気にしなければならない。その「組織」のために働かなければならない。しかしそれが「職務」であるか「仕事」であるかによって、彼らの感じる手ごたえは全然違う。もちろん、誰もが「仕事」を得られるわけではない。たいていの人は「職務」を遂行するだけにすぎない。
 この短篇集の巻頭に置かれている表題作に、
〈「仕事」と「職務」。その意識の隔たりは埋めがたいと感じることがある〉
 という一節がある。
 肝心なのは、「埋めがたいと感じ」ながらも、その「職務」の中に自らの「仕事」を見つけ出すことである。
 この短篇集に収められた作品は、すべて、物語(短篇小説)としての結構を見事に持ちながら、この、「仕事」と「職務」との間の葛藤というテーマが、そのバリエーションを変えつつ、共通している。
 たぶんそれは他の横山氏の作品にも共通するテーマであり、先の二人の古本屋の友人、そして私を含む、今の四十代の人間がきちんと見すえて行かなければならないテーマである。

(つぼうち・ゆうぞう 評論家)
波 2004年2月号より

著者プロフィール

横山秀夫

ヨコヤマ・ヒデオ

1957(昭和32)年、東京生れ。国際商科大学(現・東京国際大学)卒。上毛新聞社での12年間の記者生活を経て、作家として独立。1991(平成3)年、『ルパンの消息』がサントリーミステリー大賞佳作に選出される。1998年「陰の季節」で松本清張賞を受賞する。2000年、「動機」で日本推理作家協会賞を受賞。2021年11月現在、最も注目されるミステリ作家のひとりである。『半落ち』『顔 FACE』『第三の時効』『クライマーズ・ハイ』『看守眼』『臨場』『出口のない海』『震度0』『64』『ノースライト』などの作品がある。

判型違い(文庫)

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