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なぜ君は絶望と闘えたのか―本村洋の3300日―

門田隆将/著

1,430円(税込)

発売日:2008/07/18

  • 書籍

判決、死刑――。最愛の妻子が殺害されたあの日から、9年。

妻子を殺された深い哀しみの中、幾度となく司法の厚い壁に跳ね返され、なおも敢然と挑んだ青年。だが、それは決して孤高の闘いではなかった。絶望の海を彷徨う青年の陰には、彼を励まし、支えた人たちがいた。そして、青年との闘いの末に「死刑判決」を受けた元少年が判決翌朝、筆者に伝えた意外な言葉とは――。光市母子殺害事件を圧倒的な取材と秘話で綴った感動と衝撃の記録。

  • テレビ化
    なぜ君は絶望と闘えたのか(2010年9月放映)
目次

   プロローグ

第1章  驚愕の光景
第2章  死に化粧
第3章  難病と授かった命
第4章  逮捕された少年
第5章  渡された一冊の本
第6章  破り捨てられた辞表
第7章  生きるための闘い
第8章  正義を捨てた裁判官
第9章  凄まじい検事の執念
第10章 明るみに出たFの本音
第11章 「死刑」との格闘
第12章 敗北からの道
第13章 現れた新しい敵
第14章 熾烈な攻防
第15章 弁護団の致命的ミス
第16章 辿り着いた法廷

   エピローグ
   あとがき
   《光市母子殺害事件》経過

書誌情報

読み仮名 ナゼキミハゼツボウトタタカエタノカモトムラヒロシノサンゼンサンビャクニチ
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-460502-6
C-CODE 0095
ジャンル 法律、事件・犯罪
定価 1,430円

書評

本当に頑張ってきましたね、お疲れさま。

土師守

 2008年4月22日。この日、広島高等裁判所で画期的な判決が下された。事件当時、18歳になってまだそれほど経っていなかった被告人に対し、死刑判決が下されたのだ。
 山口県光市母子殺人事件。国民の多くが記憶している、あの事件である。1999年4月14日の事件発生からは、9年という長い年月が過ぎていた。9年前のあの日、本村洋さんは、当時18歳の少年Fの自分勝手な欲望のために、最愛の妻子の命を一瞬にして奪われ、家族の愛が溢れた幸福な生活から奈落の底へと突き落とされてしまった。
 一審、二審の判決は大方の予想通り、相場主義に則って無期懲役であった。相場主義の場合、被害者が2人であれば、どれほど残酷な殺され方をしようと、死刑判決が下されることはなかった。そして被告人が少年であればなおさらのことである。Fが全く反省もせず、さらに被害者の尊厳を貶めるようなことを手紙に書いても、そのことが判決に影響を与えることはなかった。その、相場主義に陥っていた司法の壁を、本村さんは打ち破ったのである。
 本書は、本村洋さんの9年間の闘いの軌跡を丹念に辿っている。私自身、初めて本村さんと電話で話をしてから9年が過ぎている。それ以降も全国犯罪被害者の会(あすの会)の活動を含め、それなりには彼のことを知ったつもりになっていたが、そのような私の浅薄な理解を嘲笑うかのように、本書に書かれた内容は私の心の中に突き刺さっていった。
 著者は、最初に事件の状況を時系列で克明に描写しており、犯人の異常な欲望と残酷さを、迫真の映像で私の頭の中に形作り、現実味をおびて鮮明に浮かび上がらせてくれる。そして、事件を通して、それぞれの時期での本村さんの心理状態が手に取るように伝わってくる。驚愕、怒り、悲しみ、現実との乖離感、それらの感情を我がことのように感じることができる。私の子どもの事件(神戸連続児童殺傷事件)の時の状況を思い出しながら、そして重ね合わせながら読み続けていると、涙が溢れて止まらなくなってしまった。
 本書は、また人間の愛情の深淵も描き出している。特に母親の娘への鬼気迫ると言って良い、底知れぬ深い愛情を私たちに教えてくれている。深い傷が刻まれた最愛の娘に、最後の化粧を施す場面は、涙無くしては読むことができない。親子、家族の深い愛情を、私たちに改めて気づかせてくれている。
 著者は、もう一つの重要な問題点を提起している。弁護士の問題である。最高裁からFについた弁護団の対応には、同じ被害者遺族として心底怒りを感じているし、また虚しさで心の中を充満させられてしまった。一部の傲慢な弁護士は、自分たちは一般国民とは異なった人種であり、被害者の尊厳を貶めようが、被害者が苦しもうが、謂れ無き中傷を行おうが、全く意に介す必要がないと考えているようである。このような、真の意味での社会正義に反することをしても、懲戒さえも科されることがないことが大きな原因と考えられる。このことはやはり改善されるべきであると本書は教えてくれている。
 本村さんは、9年間司法と闘い続けながら、人間として大きく成長していった。その様子を本書は克明に描き出している。彼のことを思ってくれた多くの人の愛情が、彼を支え、後押しをしてくれたことを、彼は充分に理解していた。本書は、人間の繋がりの大切さとその秘めた力を、改めて認識させてくれる。そして、最も重要なことは、本村さんの妻子への深い愛情が、絶望と闘い続けることが出来た源であるということではないだろうか。
 私は、本村さんには、「この9年間本当に頑張ってきましたね、お疲れさま。あなたの闘いはこれからも続くと思いますが、少しの間だけでも休んでください」と言いたい。そして、本村さんの最愛の家族、亡くなられた弥生さん、夕夏さんのご冥福を心からお祈りしたい。

(はせ・まもる 医師・『淳』著者)
波 2008年8月号より

著者プロフィール

門田隆将

カドタ・リュウショウ

1958(昭和33)年高知県生れ。中央大学法学部卒。雑誌メディアを中心に、政治、経済、司法、事件、歴史、スポーツなどの幅広いジャンルで活躍している。主な著書に『裁判官が日本を滅ぼす』『なぜ君は絶望と闘えたのか─本村洋の3300日─』『あの一瞬―アスリートはなぜ「奇跡」を起こすのか―』『甲子園への遺言』『神宮の奇跡』『康子十九歳 戦渦の日記』『この命、義に捧ぐ』などがある。

判型違い(文庫)

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