ホーム > 書籍詳細:骨まで愛して―粗屋五郎の築地物語―

とろけるほど旨い粗(あら)料理と、古き良き築地の面影。これは、まさに《読む酒肴》!

骨まで愛して―粗屋五郎の築地物語―

小泉武夫/著

1,404円(税込)

本の仕様

発売日:2018/12/21

読み仮名 ホネマデアイシテアラヤゴロウノツキジモノガタリ
装幀 亀川秀樹/装画、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 188ページ
ISBN 978-4-10-454806-4
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、文芸作品
定価 1,404円

築地の有名マグロ解体人だった五郎が満を持して開店したのは、日本唯一の粗料理専門店。鰤大根、烏賊の腸煮(わたに)、鱶鰭の姿煮……四十年の魚河岸人生で磨かれた名物料理の数々は、訪れる人々の舌を“残すとこなく”口福で満たしていく。粗の魅力に取りつかれた著者が渾身の愛を込めて綴る、涙腺ならぬ「唾液腺崩壊」の人情小説。

著者プロフィール

小泉武夫 コイズミ・タケオ

1943(昭和18)年、福島県の酒造家に生れる。東京農業大学で教授として永く教鞭を執った後、2019年5月現在は発酵学者・文筆家として活躍中。農学博士。専攻は、醸造学、発酵学、食文化論。学術調査を兼ねて辺境を旅し、世界中の珍味、奇食に挑戦する「食の冒険家」でもある。『冒険する舌』『地球を肴に飲む男』『食あれば楽あり』『発酵は錬金術である』『不味い!』『発酵美人』『鯨は国を助く』『猟師の肉は腐らない』『幻の料亭「百川」ものがたり』『骨まで愛して 粗屋五郎の築地物語』など単著だけでも140冊を超える。

書評

「粗屋」の開店はいつ?

太田和彦

 東京農業大学名誉教授、農学博士で発酵学の権威。自らを“味覚人飛行物体”と称し、『猟師の肉は腐らない』『絶倫食』など著作も豊富な小泉武夫先生の書き下ろし小説は、中卒で築地市場に入り一流のマグロ解体人となった主人公・鳥海五郎が、日本唯一のあら専門料理「粗屋あらや」を開店する物語。
「粗」とは何か。魚の「頭や目玉、骨、ひれ、皮、血や血合い、浮袋、胃袋、心臓、肝臓、腎臓、わた、砂ずり、中落ち、腹の下、白子しらこ、卵巣など」、つまり刺身をとった残りの捨てる所だ。
 粗屋のお品書きの例えば「皮料理」は、「皮煎かわいり=鮭やますの皮をはいで、酒、醤油、味醂で濃いめに煎る。お通し、箸休めに」「はも皮膾かわなます=小骨を抜いた鱧皮をさっと洗って水気を去り、遠火にかけて両面から焦げ目のつかぬよう焼き上げ、細かに切って胡瓜きゅうりもみに和える」「鮫氷さめすが=材料は鮫でなく翻車魚まんぼうを使うこと。翻車魚の皮は鮫より弾力に富むので、歯応えが楽しめる。細かく刻んで酢の物に。また、皮の下に繊維状の軟骨があり……」。
 魚の皮だけで酒が飲める。さらに「浮袋料理」「骨料理」「腸料理」などなど。「皮料理」は五十三品、「卵巣料理」は全部で八十四品もあり、まさに著者の“粗好き全開だ。
 酒好きには「酒も重要だ」と始まる行にわくわく。「寒い冬には、まず河豚ふぐ鰭酒ひれざけ、そして熱燗あつかん。夏の暑い日は、キリリと冷やした日本酒に海鼠なまこの腸を入れた海鼠腸酒このわたざけがいいだろう」。ひらめの骨酒、真鱈まだらの白子酒、虎魚おこぜの鰭酒……。〆は「粗茶漬け」といこう。氷頭ひず茶漬け、鮭皮茶漬け、鰻肝うなぎもの佃煮茶漬け、まぐろの中落ち茶漬け、烏賊腸いかわたの塩辛茶漬け、鮎の腸の鱁鮧うるか茶漬け、河豚卵巣の糠漬ぬかづけの茶漬け、たこの子塩辛茶漬け。丼ものなら、甘酸ぱく煮た鱧皮を丼飯のうえにのせて蒸す鱧皮丼、うつぼ皮蒲焼きの精力丼、いろんな粗の煮凝にこごり丼。
 それらが「滑らかなあんに包まれた鰭が歯に応えてコリコリしながら繊状にほぐれていく。トロトロのゼラチン質から絶妙のコクとうま味が湧き出してくる。すぐに呑み込んでしまうのは勿体ないと、しばらく口の中でころがしていると、だんだんとすべてが溶けていき、ついにはピョロロンと喉の奥に……」と描写されるのだからたまりまへんわ。
 私は刺身、焼魚、煮魚など魚は大好きだが、「粗」は知らなかった。焼鮭の皮はうまいし、タラコ、骨せんべいなどは好物だが、血合いや浮袋までは。
 築地万年橋界隈の、ややうら寂しい横丁に開店した粗屋はたちまち評判をよび、水産大学微生物学教室による、江戸時代から伊豆半島の洞窟に祀られる、魚の粗がご神体の「粗神様」石板に記された、粗に塩を加えて醸す万能の霊薬「五家鬼養湯」の再現に及んで、粗料理は単なる珍味を越えた古来の知恵であり、学術的にも栄養的にも意味のあることが証明される。
 店主は、粗屋の常連となった「中国東方貿易」の人が中国には粗の干物がたくさんあると持ってきた品々を分析、かの国においても古来重要な食材と知る。また、客の話す、真鱈の胃袋とえらを干したものを戻して使う大分県山間の粗料理「たらおさ」を試し、石川県能登の「ぶりのかげのたたき=生の鰤のかげ(鰓)をなたでたたいて細かくし、大根のみじん切りと麹と塩を混ぜて漬け込む。五日ほどしたら、アワビの殻に入れて貝焼きにする」など、日本の郷土料理も粗を使いこなしているのを学ぶ。
 秘された味覚を求めて飛び回る小泉先生の面目躍如。学者の手になる小説ゆえ荒唐無稽のはずがない。であればあとは「試食」しかない。私ならまず「海鼠腸酒」に「烏賊の腸煮」「鰹の腹皮の塩焼き」で一杯始め、「真鱈の白子酒」に替えて「真鱈の腸の塩辛」でちびりとやり、最後は「煮凝丼」でお勘定だ。粗屋の開店にはぜひかけつけ、未知の食世界を体験したい。

(おおた・かずひこ 居酒屋研究家)
波 2019年1月号より
単行本刊行時掲載

目次

第一章 捌き屋五郎
第二章 粗屋開店
第三章 祭りだワッショイ!
第四章 粗神様
第五章 オッペケペッペケペー節
第六章 身を捨ててこそ浮かぶ粗もあり

まとめテーマでくくる 本選びのヒント

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