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世の中にはびこるキョーレツな老男老女に、気がつけば目が釘付け!?

じじばばのるつぼ

群ようこ/著

1,430円(税込)

本の仕様

発売日:2019/06/19

読み仮名 ジジババノルツボ
装幀 shimizu/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 216ページ
ISBN 978-4-10-367413-9
C-CODE 0095
ジャンル エッセー・随筆
定価 1,430円

駅のホームでは素知らぬ顔で列に割り込み、スーパーの店員にしつこく難癖をつけ、喫茶店で猥談に花を咲かせる……。街中を見渡せば、至る所でパワーを持て余したじじばばが周囲を振り回す姿が! そんな彼らに心中でツッコミを入れる著者の痛快デトックスエッセイ。読めば一緒に呆れ、笑い、でも何だかスッキリしちゃう?

著者プロフィール

群ようこ ムレ・ヨウコ

1954(昭和29)年、東京都生れ。六回の転職を経て、本の雑誌社勤務時代にエッセイを書き始め、1984年『午前零時の玄米パン』を刊行、独立する。『鞄に本だけつめこんで』『膝小僧の神様』『無印おまじない物語』『猫と海鞘(ほや)』『かつら・スカーフ・半ズボン』『またたび回覧板』『飢え』『ヤマダ一家の辛抱』『ビーの話』『おかめなふたり』『小美代姐さん花乱万丈』『きもの365日』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』『かもめ食堂』『しいちゃん日記』『音の細道』『ぢぞうはみんな知っている』『おんなのるつぼ』『おとこのるつぼ』『うちのご近所さん』など著書多数。

書評

確かな“視力”で描く、じじばばあるある

吉田伸子

 群さんと初めてお会いしたのは、もう三十年以上前のことだ。まだ「群ようこ」になる前の群さんと、学生だった私が出会ったのは本の雑誌社だった。本の雑誌社の“助っ人”募集に応じ、当時はまだ不定期刊だった「本の雑誌」の配本部隊として出入りしていた私と、事務所の一角で、机に向かって事務仕事をこなしていた群さん。今でも、群さんの小柄な背中が目に浮かんでくる。
 やがて、群さんは群さんとなって(というのも変な言い方だけど)、『午前零時の玄米パン』(めっちゃ売れた!)を上梓し、しばらくして群さんは本の雑誌社を退職された。三作目の『無印良女りょうひん』で、人気エッセイストとしての確固たる地位を築き、『無印OL物語』を皮切りにした「無印シリーズ」では小説家としても根強い支持を得た。世の中には、“なるべくしてなった”作家の方がいるけれど、群さんもその一人。群さんは群さんになる前から、群ようこの片鱗をうかがわせていたのだ。
 群さんがいた当時の本の雑誌社は、事務所に群さんしかいない!(社長の目黒さんはフリーランスで仕事をしていたし、編集長の椎名さんに至っては、人気エッセイストとして文字通り駆け回っていた)ということが常態だった。そこに、私たち“助っ人”が、大学のサークルのようにたむろしているわけで、経理を始め、本の雑誌社の事務仕事を一手に支えていた群さんにとって、私たちは騒々しくてお気楽なだけの、こうるさい存在でしかなかったはずだ。だけど時折、きりりとしたその背中がくるりと回って、私たちの話の輪に加わることもあり、そんな時の群さんの話術がもう、絶妙だった。そもそも群さんは聞き上手で、時折入る合いの手がこれまた抜群。なかでも群さんの人物描写は名人級というか、面白おかしく語られるその人物が、あたかも目の前にいるかのようだった。
 そんな群さんの話術の巧みさが、群さんのエッセイの芯になっていると私は思っているのだけど、その巧みさは歳を重ねたことでさらに円熟味を増してきている。その証が本書だ。タイトルからもわかるように、本書は高齢化社会ニッポンの「じじばば」たちを描いたもので、じじばば「あるある」が満載。そして、そうだった、群さんの卓越した話術を支えているのは群さんの視力(生理的なものではなくて、視る力、という意味です)なのだ、と再認識する。
 冒頭の電車を待つ列におけるばばたちの横入りに対する考察――ホームドアができたおかげで、体のバランスを崩し線路に転落する恐れがなくなったため、心置きなく横入りできるようになったのではないか――に頷いたあとは、ページを繰るごとに、もう、出てくる、出てくる、あなたの周りにもいそうな、というか確実にいる、あんなじじ、こんなばば。
 自分がストッパーになって、後ろには長蛇の列ができているというのに、スーパーマーケットのレジ担当者を、自分専用おしゃべり担当に(一方的に)認定し、延々と世間話を繰り広げるばば。
 電車に乗る際の、押した押されたに端を発し、いざ下りる時には、蹴り合いのバトルにまで発展してしまった、ばば初心者見習いvs.おばさん予備軍。「痩せているのが美しい神話」に未だに囚われ続け、全身をハイブランドで固めているのだが、傍目には「即身仏」のようにしか見えないがりがりばば。某ショップにて、妙に達者な発音で「ショーツ」(大人用の半ズボン)を求め、そのショップでは扱っていないことが判明すると「だいたいさあ、きみたちは衣食住にさまざまな提案をしている企業なんでしょう。(中略)そんな会社がショーツの一枚も作っていないなんて、そりゃあ、だめだ。だめだめ」と説教をかます、俺様じじ(正確にはじじ予備軍、プレじじである)。電車内で白髪頭をかきむしり、自分の隣の席にフケをこんもりと積み上げる不潔じじ。
 本書で語られているのは、じじばばたちのありがたくない「あるある」だけど、「下流じじ」に出てくるじじの姿は、プレじじ、プレばばはもちろん、若者世代にも、通じることだと思う。もはや安穏な老後を送れるのは、ごくごく少数の選ばれしじじばばだけだ。そんななかで、どうすれば「人として下流」にならずに済むのか。本書は、そのことに警鐘を鳴らしている。笑いながらも、大事なことに気づかせてくれる一冊なのである。

(よしだ・のぶこ 書評家)
波 2019年7月号より
単行本刊行時掲載

目次

ホームドア
服装マナー
ばばと乳首
情けないじじ
レジ前のばば
運転するじじばば
下流じじ
ヒステリックばば予備軍
英語じじ
ばばのファッション
痴じじ、痴ばば
愛でるじじ
意地悪着物ばば
俺様じじ
不潔じじ
方向音痴ばば
喫茶店のじじばば
お供じじ
ずるじじ
ラブホじじ
配達じじ
小言ばば
短冊じじ
厚顔ばば

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