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動物と機械から離れて―AIが変える世界と人間の未来―

菅付雅信/著

2,200円(税込)

発売日:2019/12/24

  • 書籍
  • 電子書籍あり

AIは人を幸福にするか? 第一人者たちの証言から探る、錯綜する現場の「今」とこれから。

自動化が進む中で、未来の労働は、自由意志は、人間の幸福はどうなる? 人は機械と一体化するのか、それとも動物に成り下がるのか――シリコンヴァレー、深セン、モスクワ、NY、ソウル、東京で第一線の研究者、起業家、思想家など51人を取材して描く、AI発展後の世界と〈わたし〉の行方。最新の未来図がここにある。

目次
まえがき 人間が人間であるための〈抗い〉を探す旅
お茶の間の話題はAIだった/100年前のケインズの予言/AIが招く人間の動物化/人間が人間であるための〈抗い〉を探す旅
第1章 AIとは何かを考えることは、人間とは何かを考えること
AIによる非人間的な明るい未来/人類より優れた超絶知能に支配されるシナリオ/神に近づくエリートと取り残される大衆/AIは「わかる」が何かは「わからない」/“わかる”とは錯覚か幻想/AIの手のひらの上で踊らされる幸福/人類はAIという神に託そうとしている/AIが全知全能になれない理由
第2章 「自律性」という広大な未知を探索する
他人の家を訪れてコーヒーを淹れる機械は可能か?/発展する特化型AIといまだ途上の汎用型AI/人工生命にはジュースが必要/自律性が知性の始まり/倫理をどうプログラムするか/幸福になるためには苦しみが必要/機械には好奇心がない/機械のエラーを人間は許容できるか/人間に残された役割は「芸術的な営み」
第3章 世界最大のテック都市、深圳はAIに未来を託す
「深圳ドリーム」という言葉が生まれるまで/人類史上稀に見る速度で成長した都市/「生命のデジタルデザイン」を目指す深圳のバイオテック企業/DNAは生物圏の共通言語となる/テクノロジーそのものが危険なのではない/「もし人の頭のサイズを2倍に出来たら?」/テクノロジーも人間も進化する/「顔」がすべての鍵になる管理社会/世界的技術で運用される監視システム
第4章 「わたし」よりも「わたし」を知っている機械
『2001年宇宙の旅』で描かれた感情を持つAI/感情解析という「未開の地」/AIがわたし以上に〈わたし〉を把握する世界/「不幸になる自由」は必要か/人間が機械に委ねたくない意思決定/亡き親友と会話するために起業家はチャットボットをつくった/死ではなく愛にまつわるチャットボット/ネットの世界で、わたしたちは望んでいないものに囲まれている/人間の95パーセントは、与えられたものを受け取るだけ
第5章 社会の複雑さに人間が追いつかず、AIが追いつこうとする
「自由と幸福の両立」という幻想/AIは民主主義というフィクションを変容させるか/データが示す〈わたし〉から逃れる自由と幸福/デジタル・レーニン主義にどう対抗するべきか?/アルゴリズムによるメタ選択の操作/人間だけが動物化について考える動物である/〈わたし〉を取り戻すための「アーキテクチャ」
第6章 ロシアのシリコンヴァレーが示すAI競争という新たな冷戦
自動運転タクシーが徘徊するロシアのシリコンヴァレー/大学、大企業、スタートアップが集うエコシステム/AIはアイデアを生み出すことに貢献する/ロシア政府は教育とスタートアップ支援に注力する/テクノロジーと政治の危ういバランス/テック冷戦の象徴企業が語るビットコインの問題/モスクワの民間テック研究機関の先端度/テクノロジーはそれ自体が政治的なもの/AIを活用した大ヒットのソーシャルアプリ/1秒間で10億人の判別ができる顔認証テクノロジー企業/監視カメラと「民族認識」がもたらすプライバシーの問題/「デジタルにおける死」を研究する/デジタルツインにより生き続けるSNSアカウント
第7章 「意識とは何か」を考える意識
AIがフラメンコダンサーのステップを学習する/「創造」のプロセスを解き明かしたい/コントロールとカオスの中間領域をサーフィンする/テックジャイアントと戦うAIスタートアップ/AIがAIを教える/人工意識をつくり「意識」の謎を解き明かす/統合情報理論における「情報」とはなにか?/「意識のようなもの」をもつAIの可能性/人間の意識を機械にアップロードする/人間はマシンのなかで生き永らえる/意識とは振る舞いではなく、ニューロンが生む複雑性
第8章 シリコンヴァレーの未来信者たちとその反動
シンギュラリティを教える大学/AIにより政府や国家は時代遅れになる/スタンフォード大学が作ったテックの村/人間の感覚拡張に挑む神経科学者/脳に機械を接続するのは「ばかげたアイデア」/人間のように考え、想像するロボット/コンセプトを理解し、それを基に行動するAI/AIには「説明可能性」が必要/「よいAI」とはなにか?/ウォール街を超えんとするAIヘッジファンド/AIを駆使した民主的な資本主義
第9章 仕事の代替は古くて新しい問題である
機械との競争が始まり、平均が終わる/AIがベンチャー・キャピタルの取締役になる/「機械による仕事の代替」という古くて新しい問題/ベーシック・インカムを政策に掲げる米大統領選候補/韓国のチャットボットのカスタマーサービスが代替すること/サンフランシスコで話題の「何もしない」指南書/「デジタル・デトックス」という西海岸の贅沢品/働くことの意味の再考
第10章 人間は素晴らしく、だらしなく動物である
自ら計算する機械への信奉と恐怖/人間は環境と調和し、「動物的」に生きていれば幸福である/人間は支配に順応する生き物/デジタル・テクノロジーによって人間も社会も大きく変わらなかった/言葉の発明が人間と動物を分けた/「記憶」と「思考」の外部化/情報技術は情緒の「曖昧さ」を削いでいく/「我感じる、ゆえに我あり」/人間は合理的かつ倫理的に感情で考える動物
第11章 シンギュラリティは来ないが、ケインズの予言は当たる
チューリングとウィーナー、2つの予言/人間は自分よりも優れたなにかをつくりたい/世界は計算可能か? という問い/世界は計算不可能性で溢れている/人間が生み出したものの複雑さ/シンギュラリティへの懐疑的な声/人間は世界の中心ではない/シンギュラリティはやってこないものの……
第12章 未来の幸福、未来の市民
自由意志のこれから/「自動化された生活」が人間から自由を奪う/幸福のダイバーシティ/AIと共生する新たなコミュニティ意識/企業はグローバル化したが、国がグローバル化していない/国民ではなく、世界市民として生きる/ホール・アース・シチズン/ユートピアに生きることはユートピアなことではない/動物でも機械でもない「わたし」を考える
あとがき
参考文献一覧

書誌情報

読み仮名 ドウブツトキカイカラハナレテエーアイガカエルセカイトニンゲンノミライ
装幀 新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 320ページ
ISBN 978-4-10-353071-8
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 2,200円
電子書籍 価格 2,200円
電子書籍 配信開始日 2019/12/24

書評

人間 vs. AI? それとも、人間 vs. 資本主義?

斎藤幸平

 人工知能(AI)の発展を中心とする第四次産業革命の可能性について、耳にしない日はない。だが、この急速な技術発展は、本当に人間を「自由」にし、さらには「幸福」にしてくれるだろうか? これが本書の核心的な問いである。
 菅付の整理によれば、世間には対立した見方があるという。一方では、あらゆる情報が監視され、人間はAIに仕事を奪われ隷属することになるというディストピア論がある。そして、他方では、人間がAIによって様々な重荷から解放され、自由・幸福になるというユートピア論がある。
 どちらの見解が正しいかを突き止めるために、菅付は、様々な専門家にインタビューをし、豊富な具体例をもとに、テック業界の現場の最前線をレポートしてくれる。そして、「AIは人間のように思考することができるのか?」、「AIは意識を持つか?」、「AIは人間を労働から解放するか?」など、AIについて考えようとすると必ず思い浮かぶ重要な問いについて考えるヒントを数多く与えてくれる。
 興味深いのが、菅付が取材を進めるにつれて、徐々に楽観的なシンギュラリティの到来予測そのものへの懐疑を強めていくように思われることだ。というのも、調査から浮かび上がってくるのは、多くの研究者や専門家たちが、シンギュラリティのような世界がすぐに実現する可能性はかなり低いと見積もっている現状だからである。
 この事実から奇妙な構図が浮かび上がってくる。フランスの哲学者ジャン=ガブリエル・ガナシアを引用しながら、菅付が述べているように、シリコンバレーの人々は、一方では、AI発展の限界を暗に認めながらも、同時に、「人間の終わり」をもたらすようなAIの危険性を熱心に警告しているのである。つまり、「私たちの心はすべてAIに読まれている」、「私たちの判断は実はすべてグーグルやフェイスブックが生み出しているフェイクに支配されている」と警告しているのだ。あたかも私たちには自由意志もなく、すべては幻想だと言わんばかりに。
 この矛盾を考察するためには、さらに踏み込んで、私たちはこう問わねばならない。テック業界の人々は、近い将来のAI技術発展の限界を知っているにもかかわらず、なぜ誇張された危険性を積極的に広めているのだろうか、と。
 それは単に話題を生み出すことで、世間的な注目を浴び、政府の助成金やクラウド・ファンディングによる資金を獲得するためだけではないだろう。また、万が一の危険性を親切心から喚起してくれているわけでもない。むしろ、真の狙いは、私たちの自由意志は存在せず、真実を知ることはできない、と人々を疑心暗鬼にさせることにあるのではないか。
 つまり、狙いはこうだ。一度、私たちが自明の事実を自明ではないものとして疑うようになれば、人々はもはや事実とフェイクの区別をつけられなくなる。あるいは、自由意志を疑ってくれれば、そこに付け込んで、人々を操ることが容易になる。私たちがテック業界の警告を信じて、自発的に、自ら判断し、行為する能力を疑う背後で、GAFAは私たちの情報データをどんどん集めて分析しながら、巨大な支配システムを構築していく。本書でも引用されているマルクス・ガブリエルが『未来への大分岐』(集英社新書、2019年)で述べているように、こちらが敵を見誤れば、相手の思う壺である。これほど簡単なゲームはないのだ。
 人間は単なる動物ではなく、機械でもない。「動物と機械から離れて」、存在している。人間の人間らしさの一つは、自ら進んで人間性を否定することのできる能力のうちにある。これ以上の自発的隷従を防ぐためには、まずは相手の戦略をしらなくてはならない。本書はそのための貴重なドキュメンタリーだ。
 要するに、敵はAIではない。菅付が述べるように、AIはうまく使えば、私たちの知能を大いに高めてくれる。「特定の」使われ方をする場合にのみ、AIは破壊的な危険性を発揮することになるのである。
 だが、この文脈で、技術が中立でないというのであれば、その力関係を規定する政治的要因だけでなく、GAFAを駆動する資本主義の経済的要因にも触れるべきだろう。問題は、中国やロシアの監視社会だけではないのだから。端的に言えば、真の敵は、AIを利用して、私たちの生活や思考を支配しようとするシリコンバレーであり、利潤を求め続ける資本主義なのである。

(さいとう・こうへい 経済思想家)
波 2020年1月号より
単行本刊行時掲載

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著者プロフィール

菅付雅信

スガツケ・マサノブ

編集者/株式会社グーテンベルクオーケストラ代表取締役。1964年宮崎県生まれ。『月刊カドカワ』『カット』『エスクァイア 日本版』編集部を経て独立。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務め、出版物の編集から内外クライアントのプランニングやコンサルティングを手がける。著書に『はじめての編集』『中身化する社会』『物欲なき世界』等がある。アートブック出版社ユナイテッドヴァガボンズの代表も務める。下北沢B&Bで「編集スパルタ塾」を主宰。

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