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石田三成は、何を考えていたのか? そこに「戦国」の答えがある!

八本目の槍

今村翔吾/著

1,980円(税込)

本の仕様

発売日:2019/07/18

読み仮名 ハチホンメノヤリ 
装幀 神田ゆみこ/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 398ページ
ISBN 978-4-10-352711-4
C-CODE 0093
ジャンル 歴史・時代小説
定価 1,980円

秀吉の配下となった八人の若者。七人は「賤ケ岳の七本槍」とよばれ、別々の道を進む。出世だけを願う者、「愛」だけを欲する者、「裏切り」だけを求められる者――。残る一人は、関ケ原ですべてを失った。この小説を読み終えたとき、その男、石田三成のことを、あなたは好きになるだろう。歴史小説最注目作家、期待の上をいく飛翔作。

著者プロフィール

今村翔吾 イマムラ・ショウゴ

1984年京都府生まれ。2017年『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー。同作で第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。大ヒットシリーズの「羽州ぼろ鳶組」は、第4回吉川英治文庫賞候補に。2018年「童神」(刊行時『童の神』と改題)で第10回角川春樹小説賞を受賞、同作は、第160回直木三十五賞候補にもなった。他の著書に「くらまし屋稼業」シリーズ、『ひゃっか! 全国高校生花いけバトル』、『てらこや青義堂 師匠、走る』などがある。

書評

“戦国”の新たな主役は、三成だ!

細谷正充

 どれだけの速さで進化しているのだ。
 今村翔吾の最新刊となる本書を読んで、まず思ったことだ。それほど歴史・時代作家として、格段の進化を遂げているのである。では、何がどう進化しているのか。説明するための前提として、作者の経歴を見てみよう。
 今村翔吾は、2017年に刊行した文庫書き下ろし時代小説『火喰鳥』によって、本格的に作家活動を開始。これを「羽州ぼろ鳶組」シリーズに発展させ、大きな人気を獲得する。同じく文庫書き下ろし時代小説の「くらまし屋稼業」シリーズも好評だ。2018年には『童神』で、第十回角川春樹小説賞を受賞(刊行時『童の神』に改題)。権力の理不尽に抗う者たちの軌跡を描いた物語は、作者の主張がむき出しであったが、そこが魅力になっていた。以後、現代を舞台にした青春小説『ひゃっか! 全国高校生花いけバトル』、忍者と子供たちが活躍する時代エンターテインメント『てらこや青義堂 師匠、走る』を刊行。どちらも瑞々しい作品だ。
 そこに現れたのが本書である。賤ヶ岳の戦いで活躍した、羽柴秀吉子飼いの七人――いわゆる“賤ヶ岳七本槍”を主人公にした連作短篇集だ。初めての戦国小説であるが、そうとは思えないほど、威風堂々たる内容である。歴史小説用にチューニングした硬質な文章で、織田から豊臣を経て徳川という、激動の時代を生きた七本槍の興趣に富んだ人生が綴られていく。そして各話を通じて、同じく秀吉の子飼いだった石田佐吉(三成)、すなわち八本目の槍の姿が浮かび上がってくる。連作のスタイルを生かした、非常にテクニカルな作品なのである。
 もちろん、それぞれの話のレベルも高い。冒頭の「虎之助は何を見る」は、加藤虎之助(清正)が主人公。自分を武将より能吏だと思っている彼は、佐吉と共に豊臣家を支えるつもりでいた。しかし大坂から遠く離れた熊本に領地を与えられる。そこに佐吉の意思があったことを知った虎之助は、裏切られた気持ちになった。やがて朝鮮出兵が始まると、虎之助は武将としての資質も開花させる。そして佐吉の真意を理解することになるのだった。
 以下、戦場のトラウマで戦えなくなってしまった糟屋助右衛門(武則)が、関ヶ原の戦いで死に花を咲かせる「腰抜け助右衛門」、運命の女と出会った脇坂甚内(安治)の曲折に富んだ歩みを活写した「惚れてこそ甚内」と、話は進んでいく。史実にフィクションを巧みに織り込み、時には小道具を十全に使いこなしたストーリーは、どれも読みごたえあり。
 さらに、少年期の厳しい暮らしから、現実を見つめて生きてきた片桐助作(且元)の、儚き夢を描いた第四話「助作は夢を見ぬ」、加藤孫六(嘉明)の意外な正体に驚く「蟻の中の孫六」で、史実の読み替えが極まる。「虎之助は何を見る」から史実を巧みに弄っていたが、ここまでやるとはビックリ仰天である。積み重ねてきた物語があってこその奇想だが、大胆不敵に歴史を操る、作者の手際が素晴らしいのである。
 そして七本槍で唯一、大名になれなかった平野権平(長泰)の意地を輝かせた「権平は笑っているか」を経て、ラストの「槍を捜す市松」に突入。福島市松(正則)の視点で、いままでの物語を統合。徳川家康を相手に、壮大な戦を仕掛けた、石田佐吉が浮かび上がってくるのだ。
 では佐吉とは、いかなる人物だったのか。彼の求めるものは天下泰平。いや、それだけなら、他に同じことを考えていた武将は、少なからずいただろう。佐吉の凄いところは、泰平になった国家をどうするかという、グランドデザインが明確にあったことだ。戦いしか能のない武士は減らす。女性の社会進出を実現する。怜悧な天才でありながら、己の信念に従い続けた純情な男の肖像が、鮮やかに表現されるのだ。本格的にデビューしてから、まだ二年なのに、これほど成熟した作品を上梓するとは、ただただ驚嘆するしかない。
 本書一冊だけで作者は、本格的な歴史小説の書き手と目されることになるだろう。だが、そこが頂点とは思わない。どこまで作品世界を進化させていくのか、見届けようではないか。今村作品をリアルタイムで読み、その進化を実感するという、贅沢な楽しみを堪能したいのである。

(ほそや・まさみつ 文芸評論家)
波 2019年8月号より
単行本刊行時掲載

目次

一本槍 虎之助は何を見る
二本槍 腰抜け助右衛門
三本槍 惚れてこそ甚内
四本槍 助作は夢を見ぬ
五本槍 蟻の中の孫六
六本槍 権平は笑っているか
七本槍 槍を捜す市松

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