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衰退産業でも稼げます―「代替わりイノベーション」のセオリー―

藻谷ゆかり/著

1,650円(税込)

発売日:2019/05/29

  • 書籍
  • 電子書籍あり

「借金まみれの親の会社」でも再生できる!

地方だから、中小企業だから、お金がないから……。商売の不振を、そんな言い訳で正当化していませんか? 地方の商店・日本旅館・農業・伝統産業という「衰退産業」のまっただ中にありながら、「代替わり」によって蘇った16のケースを徹底研究。東大卒、ハーバードMBAの起業家が、移住した長野で見出した経営の骨法。

目次
はじめに
序章 日本を再生するための3つのキーコンセプト
第一章 商店――新商品開発や販路開拓で起死回生を図る
CASE1 株式会社八代目儀兵衛(京都府京都市)
米販売店から、お米ギフトのネット通販と米料亭に大転換
CASE2 信州イゲタ味噌醸造蔵元 酒の原商店(長野県上田市)
酒販売店から、味噌・甘酒のメーカーに
CASE3 合名会社富成伍郎商店(長野県松本市)
信州・松本の水にこだわった手作り豆腐で日本一に
CASE4 日本酒応援団株式会社(東京都品川区)
スタンフォードMBAが日本酒を楽しむライフスタイルを世界に展開
第二章 旅館――IT化やローカルな魅力で再生する
CASE5 元湯陣屋(神奈川県秦野市)
10億円の借金をかかえた老舗旅館をIT導入でV字回復、週休2.5日制導入で働き方改革を実現
CASE6 三水館(長野県上田市)
古民家4棟を移築、「里山の風景にあう、古くて新しい旅館」を再生して人気に
CASE7 一茶のこみち 美湯の宿(長野県山ノ内町)
現役客室乗務員の女将が積極営業、外国人観光客が年間数泊から6000泊に
CASE8 小石屋旅館(長野県山ノ内町)
「温泉なしの旅館」が温泉街に賑わいをもたらす
第三章 農業――ブランド化やIT化で6次産業化を実現する
CASE9 農業生産法人 こと京都株式会社(京都府京都市)
伝統野菜の九条ねぎに特化、ブルー・オーシャン戦略で年商10億円
CASE10 株式会社みやじ豚(神奈川県藤沢市)
バーベキューで6次産業化、豚のブランド化で家業をイノベーション
CASE11 株式会社唐沢農機サービス(長野県東御市)
農機具屋の二代目がIT技術の活用で「地域密着型の起業」
CASE12 株式会社エムスクエア・ラボ(静岡県菊川市)
東大卒リケジョによる農業のインキュベーション・ラボ
第四章 伝統産業――伝統を革新し、グローバルに展開する
CASE13 京和傘日吉屋(京都府京都市)
和傘の技術をデザイン照明に応用、海外市場開拓のメソッドをアドバイス
CASE14 小岩井紬工房(長野県上田市)
海外帰りの姉弟が、オープンファクトリーとイベント開催で地産外招
CASE15 株式会社白鳳堂(広島県熊野町)
伝統工芸の技術を活かした化粧筆を開発し、世界で新たな市場を形成
CASE16 株式会社和える(東京都品川区)
学生起業で日本の伝統を次世代につなぐ
おわりに
主要参考文献
コラム
代替わりはイノベーションのチャンス/「スノーモンキー」で地域活性化する長野県山ノ内町/「資金調達」をどうするか/「頑固おやじ」の説得法/業務IT化の遅れ/「後継者難」の乗り越え方

書誌情報

読み仮名 スイタイサンギョウデモカセゲマスダイガワリイノベーションノセオリー
装幀 新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-352641-4
C-CODE 0095
ジャンル ビジネス・経済
定価 1,650円
電子書籍 価格 1,650円
電子書籍 配信開始日 2019/11/15

書評

地方再生のカギは衰退産業にあり

嶋田毅

 地方再生、地方創生などという言葉が言われて久しい。人口減が進む日本において、首都圏を始めとする都市部への集中はマクロレベルでの効率性を考えればある程度やむを得ないという意見もあるが、だからと言って地方の非都市部が衰退してもいいということにはならないだろう。やはり活力ある地方と都市部がバランス良く存在してこそ、日本という国はより豊かになる可能性が高い。
 しかしながら現実の地方再生を見ると、苦戦しているのが現状だ。いろいろな町おこしイベントの開催や「ゆるキャラ」の開発、売り込みなどはあるが、一時的な話題になっても持続しないケースが多い。私も地域の青年会議所などで講演や議論をすることがあるが、結局は「しっかりと儲けられる企業が生まれ、地元で新しい価値創造ができる状態にならないと、衰退の一途をたどる」というのが一致した意見である。
 では、その新しい価値創造活動として、手っ取り早いのは何だろうか? ベンチャー企業が生まれ、全く新しい産業を興すことが本来は望ましいのだろうが、それはなかなかハードルが高い。そこで注目されるのが、すでに長く存在する、生産性の低い産業をテコ入れすることである。具体的には旅館業や農業などである。これらの産業は、人間が生活を営む上で本質的に必要であり、需要は簡単には消えない。また、競争の変数(軸)が多い「分散型ビジネス」あるいは「特化型ビジネス」の側面が多く見られ、やり方次第では十分に価値創出ができるのだ。生産性が低いということは伸び代が大きいということでもある。これは、言われてみれば当たり前ではあるが、見落とされがちな視点だ。
『衰退産業でも稼げます―「代替わりイノベーション」のセオリー―』も、まさにこの観点に立っている。著者は米国ハーバード・ビジネススクールで学んだやり手のビジネスウーマンであるが、2002年に長野県に移住し、そこで地方の現状に触れる中で、産業の活性化のヒントを得たという。
 本書では、特に4つの産業に着目している。商店、旅館、農業、伝統産業だ。そしてそれぞれ4つの事例、計16の事例を紹介することで、地方の衰退産業が復活する上でのヒントを提示している。
 本書独自のユニークな点に「代替わり」への着目がある。先述の4つの産業の多くは家族経営のビジネス(ファミリービジネス)である。小規模なファミリービジネスでは、事業承継者がそもそもいないという事態に直面しやすい。とは言え、親子の縁はあるので何かしらの関心やこだわりがあるというのが一般的だ。事業承継のタイミングは、「事を起こす」チャンスでもある。本書で触れられているケースでも「クーデター」的な奪権によって先代の力を弱め、承継者の独自性を打ち出した例がある。先代までの知恵やのれんが残るなかで、承継者が新しい取り組みを行う仕組みは、小さなイノベーションを起こすための良い土壌と言えるだろう。
 昔から地方におけるイノベーションを支えるのは「若者、バカ者、よそ者」などと言われてきた。本書で紹介されている例も、概ねそれが当てはまる。事業承継者だけではなく、その配偶者が活躍する例も多い。やはり斬新な視点やしがらみに縛られない発想などが、それまでの常識を覆し、新しい価値創造に結び付きやすいのである。また、都市部の大企業で磨いたスキル(法人営業、海外マーケティング、ウェブ作成など)が地方の地場産業ではさらに大きな価値を持つ可能性があるというのも大事な指摘である。
 新しいイノベーションを起こしつつも、地域からの支援も受けなくてはならないという点もポイントだ。地元で嫌われては商売はできない。斬新な試みをしながらも、無駄に敵を作らない、あるいは徐々に味方を増やしていくという視点は非常に重要だ。世の中は捨てたものではない。正しく頑張っている人間には手を差し伸べる人間がいるものだという事実は、まさに同じ立場に立つ人間を勇気づけるだろう。
 都市部の人間にとってもこうした地方のイノベーションは魅力的な場である。全員が都市部の雑踏や猥雑さが好きなわけではない。その地方ならではの強みを再発見し、面白い事業の機会を作れれば、人はやってくるのである。
 本書は16の事例を紹介しつつ「代替わりイノベーション」のヒントを提示しているが、すべての現場には固有の事情というものがある。共通項の高いセオリーはセオリーとして理解しつつ、自分の置かれた立場独自の固有性をいかに解決あるいは利用するかも読者には考えていただきたい。

(しまだ・つよし グロービス経営大学院教授)
波 2019年6月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

藻谷ゆかり

モタニ・ユカリ

1963年横浜市生まれ。東京大学経済学部卒、ハーバードビジネススクールMBA。会社員、起業を経て経営エッセイスト。2002年、家族五人で長野県に移住。著書に『衰退産業でも稼げます』『六方よし経営』など。

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