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沖縄と核

松岡哲平/著

1,980円(税込)

発売日:2019/04/18

  • 書籍
  • 電子書籍あり

その時、沖縄は破滅の寸前だった――。

死者も出た核ミサイルの暴発事故、キューバ危機を受け中国各都市に向け発射寸前だった戦術核ミサイル、島の生活を破壊した核爆弾投下訓練……。米軍占領下、東アジア最大の核基地となった沖縄の真実を、米国で発掘した秘蔵資料と当事者たちの証言で物語る。大反響の同名「NHKスペシャル」に、未放送情報を加え完全書籍化!

目次
プロローグ
第1章 “核の島”の端緒
伊江島/「沖縄と核」の原点/ニュールック戦略とアジアの冷戦/マクスウェル空軍基地/伊江島とLABS/元エースパイロットたちの証言/「Gで痔になった」/戦略核と戦術核/土地接収の原因となったLABS/「侵略者」の論理/「乞食行進」/開示を待つ「歴史」
第2章 海兵隊と核 知られざるつながり
当初は本土に駐留していた海兵隊/沖縄の基地化を進めた海兵隊/核武装化を急ぐ海兵隊/本土で密かに始まっていた核訓練/高まる反核感情/オネストジョン問題/旧安保条約下での「核持ち込み」への対応/強行された発射訓練/“子供たちの将来が保証できない”/“核アレルギー”に敏感になっていたアメリカ/アメリカ文化情報局による日本人の意識調査/核問題を背景に米軍は本土から沖縄へ
第3章 島ぐるみ闘争と海兵隊移駐
海兵隊の土地接収計画/「反対」ではなく「陳情」/見過ごされた核配備の意図/適正補償の代償としての核基地化
第4章 海兵隊による核運用の実態
“オネストジョン発射”の映像/沖縄を部隊にした核戦争の訓練/海兵隊と「立体輸送」/元海兵隊員たちの証言/“命中させた時はうれしかった”/台湾海峡危機と「核の恫喝」/揚陸艦の上で組み立てられる核弾頭/“再機密指定”という壁/沖縄“焦土化”作戦
第5章 高まる〈核〉防衛
スプートニク・ショック/「沖縄は最大のターゲット」/核貯蔵施設/「ノーコメント」/高卒の核兵器スペシャリスト/住民も目撃していた嘉手納弾薬庫地区の警備強化/核を防衛するための核/本土では〈核〉、沖縄では〈土地〉/常態化したナイキの発射訓練
第6章 隠されていた核事故
元兵士たちの掲示板/事故現場に居合わせた男/24時間態勢での敵機襲来への備え/見つかったナイキ部隊の「日報」/「ミサイル発火事故」/事故で神経を患った男/誇りと不信/全てを知る男/僅かな針の振れ/戦争ではなく訓練だった/「間違いなく核弾頭が搭載されていた」/「安全」への過信/秘匿された事故/待たれる公文書開示
第7章 核訓練が生んだ悲劇
“クズ鉄収集人が自業自得の死”/“模擬”核爆弾/激化する核爆弾の投下訓練/爆音下での人々の暮らし/命がけの模擬弾拾い/夫を亡くした妻の訴え/米軍の論理/元パイロットの弁明/58年後に知った父の死の真相
第8章 安保改定と沖縄
広がる本土と沖縄の溝/“宙吊り”にされた沖縄/沖縄も核も大事/旧安保条約と新安保条約/「事前協議」「交換公文」とされた理由/“沖縄も条約地域に”安保改定草案/逆風(1)米軍部の意向/逆風(2)外務省の「自主規制」/逆風(3)野党の反対/“沖縄の核は日本に必要”
第9章 メースB
攻撃型核ミサイル「メースB」/恩納村に残されたメースB基地跡/浮かび上がったメースB基地の構造/ターゲットはどこだったのか/メースB基地跡を訪れた元兵士/“新兵”によって構成された部隊/兵士たちの選別/核配備に不安を抱き始めた沖縄/米軍の方針「できるだけ話題にさせない」/沖縄への核配備は「アリかナシか」/日本政府の“保身”/アメリカ・日本・沖縄の歪んだ関係
第10章 キューバ危機 破滅の瀬戸際
消えない記憶/世界を震撼させたキューバ危機/緊張高まる沖縄の核部隊/“ハイギア機”/核を運んだ男/変わらなかった意識
第11章 本土復帰と核密約
世界最大級の核拠点/高まる復帰熱と「核付き返還論」/佐藤首相と立法院議員の間で起きた「事件」/“核抜き”への方針転換/“核抜き”をカードにしたアメリカ/“核抜き”も“本土並み”も名ばかりだった/元国防長官の遺言/分かれた回答
エピローグ「唯一の被爆国」の番外地
反響/「核査察」を求める声/繰り返されてきた「核疑惑」/「曖昧にせよ」/「核査察などありえない」/「唯一の被爆国」の番外地
参考文献・論文・記事(五十音順)

書誌情報

読み仮名 オキナワトカク
装幀 新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 352ページ
ISBN 978-4-10-352561-5
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,980円
電子書籍 価格 1,980円
電子書籍 配信開始日 2019/05/17

書評

現実主義的外交と沖縄差別

佐藤優

 外交には、理想主義と現実主義という2つの考え方がある。理想主義者は性善説に立ち、対話によって戦争を回避することが可能であると考える。これに対して現実主義者は性悪説に立つ。常に他国の悪意を想定して、自国を守るべきと考える。理想主義的理念を持つ政治家や外交官でも、実務においては現実主義に傾く。
 本書は、核抑止による日本の安全保障を現実主義的に追求すると、沖縄に対する過重負担という結論に至る構造を見事に描いている。アメリカは、反核感情が強い日本(本土)よりも沖縄に核兵器を配置する方が現実的と考えた。1957年にアメリカのプロパガンダ機関USIA(アメリカ文化情報局)が行った世論調査の結果を踏まえ、著者は〈重要なことは、当時アメリカが、日本人の反基地感情の源流を反核感情に見いだしており、そのことに強い警戒感を持っていたこと。そして、本土よりも沖縄に基地を置く方が、「ハードルが低い」と見なしていたことである〉(72頁)という結論を導いている。その通りと思う。このようなアメリカ当局の認識の下で、岐阜県や山梨県、静岡県に駐留していた米海兵隊が、1950年代に沖縄に移動することになる。日本の反米軍基地闘争が沖縄における米軍基地の過重負担という結果をもたらしたのだ。
 もっとも沖縄という地域に過重負担を強いる背景には、日米両国民の沖縄に対する無自覚の差別意識がある。50年代に沖縄で核使用を想定した訓練に参加していた元海兵隊員ハリー・ミカリアンの認識が典型的だ。
〈こうした海兵隊の訓練に対し、沖縄の人々はどのような反応を示していたのだろうか。/「訓練場で私たちが食べた食料の残飯を、たくさんの貧しい沖縄人(Okinawans)が来て、拾っていました。十分な食べ物がなく、それほど貧しい状態にあるのを見るのは辛いことでした。人々のそんな様子を見ると、私はある種、感情的になってしまったのを覚えています」/本土で起きていたような核兵器への反対運動がなかったかと聞くと、ミカリアンは、「全くありませんでした」と即答した。/「沖縄人は、我々の訓練の内容など知らなかったと思います。彼らは我々が軍隊だという事は分かっていたでしょうが、核兵器を持っていたことなど知るよしもなかったでしょう。当時、沖縄の人々は高等な教育は受けていませんでした。彼らの多くは貧しい農民だったのです。日本人には教育を受けた人がたくさんいました。彼らには何が起こっているのか分かっていました。だけど人は農業に従事していると、他の物事に追いついていかないのです」/ミカリアンは、Okinawans(沖縄人)という言葉を使い、Japanese(日本人)と区別した。/貧しく教育レベルも低い沖縄は、日本本土と違い、核の訓練に何の遠慮もいらない場所だ――。/こうした意識は、区別というより「差別」と言った方が適当かもしれない。/別の文脈でミカリアンは、当時米軍の中にあった黒人差別について語った。(中略)/それに比べると、「沖縄人」について語るミカリアンの言葉はあっけらかんとしたもので、何の躊躇もなかった。/差別は、それを差別と意識していないからこそ起きるものなのだろう。そしてアメリカ軍の中にあるこうした無意識の差別こそが、沖縄への基地と核の集中をもたらしたのかもしれない〉(101〜102頁)。
 アメリカと日本の沖縄に対する複合的差別が沖縄における基地と核の集中の根底にある。
 著者らの取材チームが沖縄返還交渉当時の国防長官だったメルビン・レアードから2016年9月に得た証言も史料的価値が高い。
〈唐突に、レアードは言った。/「今だって、日本には核兵器があるさ」/驚いて、いったいどういうことなのかと聞き返した。/「今も空母や潜水艦がたくさんあるだろう。日本が、核兵器という盾を維持するのは大事なことだと思わないか?」/日本は、現在でも、沖縄返還前と同じようにアメリカの「核の傘」に守られている。仮に、日本の国土の上に核兵器が配備されていなかったとしても、その事実は変わらない。レアードが強調したかったのはそういうことだった〉(322頁)。
 評者は外務官僚だった。外務官僚の大多数も、日本に寄港する核兵器搭載可能なアメリカの航空母艦や潜水艦が、核兵器を搭載している可能性は十分にあると考えている。
 しかし、その問題にはあえて踏み込まない。アメリカの核抑止力が日本の安全保障に不可欠であるという現実主義的思考から外務官僚が抜け出せないからだ。

(さとう・まさる 作家・元外務省主任分析官)
波 2019年5月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

松岡哲平

マツオカ・テッペイ

1980年大阪府生まれ。2006年、京都大学大学院人間・環境学研究科卒業、NHKにディレクターとして入局。福岡局、報道局社会番組部を経て、2015年より沖縄放送局勤務。主な番組にNHKスペシャル「日航ジャンボ機事故 空白の16時間」、「沖縄空白の1年〜“基地の島”はこうして生まれた〜」(「地方の時代」映像祭選奨)など。

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