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自衛隊失格―私が「特殊部隊」を去った理由―

伊藤祐靖/著

1,650円(税込)

発売日:2018/06/18

  • 書籍

こんなヤツが自衛隊にもいた!
勤続20年、捨て身の自伝で国防の現場を明かす。

魂の抜け殻だった防衛大生、平時にしか通用しないリーダーを育てる幹部候補生学校、007から戦術を学べという司令官。そして創設から携わって8年、未完のまま去らねばならなかった自衛隊初の特殊部隊――。イージス艦「みょうこう」航海長として北朝鮮の拉致工作船と対峙した著者が、摩訶不思議な組織のすべてを語り尽くす。

目次
はじめに
第一部 軍国ばばあと不良少年
高校で人生が一八〇度変わった/生きていくには金が要る/父親とサシで語り合う/父の受けた暗殺命令/根性論は完全否定する/痛快な「勝利の法則」/約束された体育教員への道/軍国ばばあの昔話/なんでまた自衛隊なんかに?/陸軍中野学校出身の父は/遺髪をおいての入隊/女々しいことをするくらいなら死を
第二部 幹部になるまでの「学び」
変なことだらけの自衛隊/取り返しのつかない過ち/他律的な新兵教育の毎日/塀の内側の山本五十六/脱走と捕獲の日々に/脳ミソは筋肉でしかなかった/生まれて初めての試験勉強/「幹部になるための試験」/分隊長の呼び出し/横須賀教育隊二五一期練習員/「命より大事なものは?」/軍艦乗りの始まり/アジフライと感謝の言葉/江田島の幹部候補生学校へ/セーラー服にアイロンをかけて/遵法精神を学ぶシステム/「赤鬼」「青鬼」への面従腹背/人としての器の違い/未体験の肉体の使い方/七階級降格の恐怖/海軍の「先輩」たちの遺書/二度と振り返るな/寄港地の駄目ジジイたち/実習生の評価基準/ハンモックナンバーの順位争い/米国陸軍大佐の語る「ベトナム戦争」
第三部 防衛大学校の亡霊たち
こんな自分が指導教官に?/防大での三つの顔/自衛隊内でも特異な防大/魂の抜け殻たちの行進/彼らのジレンマ/米を食べるとパワーがつく?/二〇歳前後ですでに「中年自衛官」/上陸作戦用の巨大軍艦/米軍らしい膨大な準備/若者は成長する/卒業生が帽子を投げる理由/女子大の担任の先生になる/非常時に立ちはだかる常識の壁/何のために生き、死ぬのか
第四部 未完の特殊部隊
航海長として着任す/緊急出港の下令/拉致船との遭遇/帰投する巡視船/海上警備行動の発令/突然止まった工作母船/総員戦闘配置につけ/命令が間違っているという確信/特殊部隊創設への道/忘れられない三つのこと/愚直なまでに命令に従う/サンディエゴのコーストガード/無茶な特殊部隊の創設準備/『007』をすべて観ろ/特殊部隊一期生/ひがみ、やっかみを超える/人間の肉体はどこまで耐えられるのか/もっとも重要な隊員の素養/潜水訓練中、事故発生/「訓練を中止しないでください」/いったい何が起きたのか/事後処理の理想のかたち/はだかの王様になりたくない/突然の異動の内示/なぜ退職に至ったのか/「生きていたい」本能を外す/ペナルティーと実行の天秤/自衛隊失格
あとがき

書誌情報

読み仮名 ジエイタイシッカクワタシガトクシュブタイヲサッタワケ
装幀 新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-351991-1
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,650円

書評

体を張って、本気で勤めてみたら

養老孟司

 体を張る。本気でやる。どちらも似たような表現だが、精確には意味が違うかもしれない。でもこの本を読んで、要するにそういう主題かなあ、と思う。
 これでは書評にならない。でも著者の作品は、どうも書評に向かない気がする。書評を書きながら、それを言うのは、いささか問題だが、そう思うから仕方がない。書評は傍から見るもので、体を張って、本気で書評するというのは、なんだか変。
 このあたりがこの本の「読みどころ」である。『自衛隊失格―私が「特殊部隊」を去った理由―』というタイトルだが、じつは著者が失格したのではない。失格したのは自衛隊である。防衛大学校に至っては、ほとんど話にならない。だからこの本の中でも、あまり話になっていない。体を張って、本気で勤めてみたら、自衛隊という相手が自分に失格してしまったという物語である。
 軍国バアサンというのは著者の祖母である。この人が防大の卒業式で全員が帽子を投げるのを見て、カンカンに怒る。官給品を放り投げるとは、なにごとか。私も古いから、心中でバアサンに拍手を送る。著者はアメリカの士官学校では、帽子は自費で買うから、と書いている。
 この本は著者の第二作といってよい。前著の『国のために死ねるか』(文春新書)は衝撃的だった。こういう人がまだいたか。そう思った。父親は陸軍中野学校で、祖母は軍国バアサン。それなら右翼だろうというのは、戦後の典型的な偏見である。大学紛争の最左翼は全共闘だが、北一輝を読んだりしているんだから、思想そのものに右も左もない。政治的な情勢で左右という表現が決まるだけのこと。
 この本では前作であまり触れなかった自分の生い立ち、家族のことが詳しい。父親は蒋介石暗殺命令を受けたままで、命令はまだ取り消されてないという。私は教室で教科書に墨を塗ったが、相変わらず教科書は正しくなければいけないという謬見? がまかり通っている。じゃあ間違った教科書を使ったわれわれはどうなるのか。その世代から橋本、小渕、森と、三人の総理が出ている。間違った教科書を使わせ、それを教室で訂正すると、総理大臣クラスの人材が輩出する。
 それは例外だよ、例外。それを言うなら、著者ももちろん例外。中野学校を出て、その頃のことを子どもに明るく話す父親なんて、例外に決まっている。これはとても大切な教育である。明治以降の日本の教育では、親は自分が育ったようには、子どもを育てられない。
 目的を達することだけを考えたら話は簡単だ。著者はそう書く。父親もそれを教えたという。私はそれを機能主義と呼ぶ。機能を果たすことが全てになるからである。機能主義はわかりやすい。私は形を専門に選んだから、機能主義のわかりやすさに憧れる。しかしもちろん世界は機能だけでできているのではない。生きものでは、形と機能は共存していて、両者は不可分である。自衛隊という組織は形だが、戦いの実践は機能である。
 解剖学と生理学はもともと不可分で、英国では、形を扱う解剖学と、機能を扱う生理学は、解剖生理学雑誌と題する学術雑誌で共存していた。この二つを分けるのは、大陸系の学問である。どちらが正しいとは言えない。でもとりあえずこれまでは、アングロサクソンの機能主義が世界を制覇してきた。形と機能を学問的に分けない伝統があった英米文化が、ついにコンピュータを生み出すことになる。それが著者とどう関係するのか。
 形をとるか、機能をとるか。自衛隊という形が、自分が考える機能を果たさなくなった時に、著者は自衛隊という組織、すなわち形を捨てた。しかしいずれそこには、新しい形が生まれてくるはずである。それはいわば、ひとりでに生じてくるに違いない。それを見るのが楽しみだが、残念ながら、もはや私には寿命が不足している。

(ようろう・たけし 解剖学者)
波 2018年7月号より
単行本刊行時掲載

『自衛隊失格』を語る(ロングバージョン)特殊部隊編

『自衛隊失格』を語る(ショートバージョン)特殊部隊編

著者プロフィール

伊藤祐靖

イトウ・スケヤス

1964(昭和39)年、東京都生れ。日本体育大学卒業後、海上自衛隊入隊(2士)。防大指導官、「たちかぜ」砲術長等を歴任。イージス艦「みょうこう」航海長時に遭遇した能登半島沖不審船事案を契機に、自衛隊初の特殊部隊である特別警備隊の創設に関わり、創隊以降6年間先任小隊長を務める。2007(平成19)年に中途退職(2佐)後、拠点を海外に移し、各国の警察、軍隊などで訓練指導を行う。著書に『国のために死ねるか』『自衛隊失格』『邦人奪還』などがある。

判型違い(文庫)

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