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一発屋芸人列伝

山田ルイ53世/著

1,430円(税込)

発売日:2018/05/31

書誌情報

読み仮名 イッパツヤゲイニンレツデン
装幀 新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 238ページ
ISBN 978-4-10-351921-8
C-CODE 0095
ジャンル テレビ
定価 1,430円
電子書籍 価格 1,430円
電子書籍 配信開始日 2018/06/08

輝いた時代は終わる。それでも、人生は続く。
雑誌ジャーナリズム賞作品賞受賞!

誰も書かなかった今の彼らは、ブレイクしたあの時より面白い!? レイザーラモンHG、テツandトモ、ジョイマン、波田陽区……世間から「消えた」芸人のその後を、自らも髭男爵として“一発を風靡した”著者が追跡取材。波乱万丈な人生に泣ける(でもそれ以上に笑える)、不器用で不屈の人間たちに捧げるノンフィクション!

  • 受賞
    第24回 編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞 作品賞
目次
はじめに
レイザーラモンHG 一発屋を変えた男
コウメ太夫 “出来ない”から面白い
テツandトモ この違和感なんでだろう
ジョイマン 「ここにいるよ」
ムーディ勝山と天津・木村 バスジャック事件
波田陽区 一発屋故郷へ帰る
ハローケイスケ 不遇の“0.5”発屋
とにかく明るい安村 裸の再スタート
キンタロー。 女一発屋
髭男爵 落ちこぼれのルネッサンス
おわりに

書評

君たちはどう生き残るか

武田砂鉄

 宝くじで高額当選すると、「【その日】から読む本 突然の幸福に戸惑わないために」と題された冊子が配られるそうだが、突如としてブレイクした芸人に「戸惑わないために」と声をかけてくれる人はいない。「突然の幸福」をひた走るしかない。流行ってる存在を猛スピードで搾り取る芸能界の荒波に乗り、やがて溺れる。ようやく自分で息ができるようになったと思えば、すでに波は止んでいる。さっきまで、荒波に乗り続けていたのに、気づけば、誰一人いない砂浜に打ち上げられ、無慈悲な直射日光で干上がってしまう。
「コラーゲン、主電源」「柴咲コウ、尾行」などの脱力系ラップで人気を博したジョイマン。ブームから数年後に開かれたサイン会の集客はゼロ名。ジョイマンの高木は、Twitterでエゴサーチを始め、「ジョイマン消えた」などのコメントを見つけては、「ここにいるよ!」と返信し始める。消された者たちが、ここにいるよ、と呟く。ここ、って一体どこなのか。必死の生存を、大衆は嗤う。
 一発屋、との言葉は揶揄として使われるが、冷静に見直せば、ほぼ賞賛に等しい言葉である。なんたって、一発当たっているのだ。「オリンピック金メダリスト」との肩書きさえあれば、そのスポーツ界では死ぬまで(死んでも)「レジェンド」と敬われるが、一発当てた芸人に尊敬は持続しない。
 ワイングラスを合わせながら「○○やないかーい!!」と賑やかすネタでブレイクした髭男爵・山田ルイ53世が、同じ境遇に置かれた一発屋芸人を訪ね歩き、「瞬間最大風速」に乗った後の無風状態をいかに耐え抜いたのかを聞き取っていく。そこに安易な同調はない。卑下するわけでもない。ギター侍・波田陽区が「一発屋の人なら分かると思うんですけど……」と道連れを欲するような発言をしても、山田は「共感したら終わり」と冷静に距離をとる。
 一発屋芸人が、かつての賑やかな場に戻れるのは、「あの時は○○だったのに、今は……」と自虐を携えて出向く時のみ。ホコリをかぶった金メダルを拭きながら、わざわざ笑われに出戻る行為が、麻薬のような中毒性を持ってしまう。でも、ハンドリングはできない。体を痛め、無風の地に帰る。
 一発屋芸人自ら一発屋芸人という存在を見つめる本書には、世の中から弾き飛ばされた者だけが知る哀感が随所に滲み出る。その哀感を味わい、復古するための光源を共に探る。レイザーラモンHGは「僕達には、経験してきたものをこれからの一発屋に伝える役目がある」と、一発屋芸人たちの「心のセーフティネット」を自ら買って出る。ロケバス運転手を兼務し始めたムーディ勝山は、友人である天津・木村から、まさかの「ネタ被り」を仕組まれ、やがて「ロケバスネタ」という狭い世界で共存を誓い合う。「とにかく明るい“不倫現場”安村がパンツを脱いだ!」という、記者のドヤ顔が透ける見出しで早々に勢いが萎んだ芸人は「俺はまだまだやれる!」と、「一発屋1年生らしい、滾り」を見せる。
 人間は、人が落ちぶれていくのを見たがる生き物である。嘲笑うことで自分を肯定したがる生き物である。だから、戦力外通告を受けた野球選手の苦悩が好きだ。結婚詐欺だとは知らずに大金を注いだ中年男の悲運が好きだ。相次ぐ不祥事で土下座をする経営者の憔悴が好きだ。つまり、人間は、自分以外の誰かを、適当に片付けるのが好きだ。あいつはもう終わったねと、押し入れに収納するのが好きだ。
 でも、人間って、なかなか終わらない。瀕死なりに息をする。耳をそば立てた時にかすかに聞こえる声には、大切に残しておいた言葉がある。才能がぶつかり合い、摩擦熱で浮遊し続ける芸能界から切り捨てられ、地べたで根を張らざるを得なくなった芸人たちの声。山田の筆致には、対象への愛情と共に、自らの体に残る困惑が静かに忍び込む。「瞬間最大風速」で通り過ぎた後、芸人に残るものとは何か。
 磨けば光る原石、なんて言い方があるけれど、この本を読むと、そういうことじゃない、と思う。磨いて光るのが原石ではなく、むしろ、削って削って最後まで残ったのが原石なのではないか。一発屋芸人が、更地に戻ってから立ち上がる。その原石が放つ、僅かな光が眩しい。自家発電で光を得た静かな喜びの数々が、本全体を多幸感で包み込んでいく。

(たけだ・さてつ ライター)
波 2018年6月号より
単行本刊行時掲載

インタビュー/対談/エッセイ

負けてからが本当の人生

山田ルイ53世中瀬ゆかり

「一発屋」と呼ばれる芸人たちのその後を取材したノンフィクションで、雑誌ジャーナリズム賞を受賞した山田ルイ53世。自らも髭男爵として“一発を風靡した”後に到達した、「失敗のススメ」とは?

一発屋だって生きている

中瀬 この度は「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」受賞、おめでとうございます。この賞は名前の通り、編集者が面白いと思う作品に投票して決めるんですけど、連載中から本当に話題になってました。すっごく面白かったです。
山田 ホンマですか、ありがとうございます。僕、最近ほめられる機会が少なかったんで(笑)、めちゃくちゃ嬉しいです。もうね、人生の35キロ地点でやっと給水所に来たなっていう感じです。
中瀬 失礼ながら山田さんがこんなに文章を書ける方だというイメージがなかったので、業界もざわざわしてたんですよ。
山田 一発屋が書いてるってことで、だいぶ期待値のハードルが下がってたからよかったんかなと思います。
中瀬 独特の文体がありますよね。もともと読書はお好きだったんですか?
山田 小さい時はそこそこ本好きでしたけどね。うちの親父が近所のゴミ捨て場から拾ってきたドストエフスキーを棚に飾ってたので、読んだりしてました。
中瀬 いや、ドストエフスキー拾ったんかい!
山田 世の中何が落ちてるか分からない。でも正直、コスプレキャラ芸人が“書くお仕事”をいただけると思わなかったです。
中瀬 きっかけはあったんですか?
山田 僕は中学2年生の時に学校でうんこを漏らして、それから6年間引きこもり生活を送ったんですが、その体験を書いてみませんかと言っていただいたのがはじまりですね。『ヒキコモリ漂流記』という本になりました。
中瀬 星野源さんと同じですね! うんこを漏らすとブレイクする(笑)。
山田 こらこら静かに! 今回の『一発屋芸人列伝』では、「消えた」「死んだ」と揶揄されがちな一発屋の現在の姿を、いろんな芸人さんを通して取材したんです。一発屋だって生きているんだぞ、というのを書きたかった。
中瀬 山田さんの文章って喩えが洒落てて面白いんですよね。「一発屋界のアダムandイブ」「芸人達のゲティスバーグ演説」とか、言葉のセンスが光ってる。
山田 コスプレをしていると、お笑い的な飛び道具を使ってるというコンプレックスがあるんです。スーツをビシッと着て、センターマイク1本で漫才してる人に比べて、おもちゃ感あるじゃないですか。これまで芸人として、単純に言葉で評価をされてきていないので、いまニヤニヤが止まりません(笑)。
中瀬 キャラ芸人としてブレイクしたことに葛藤があるんですか。
山田 やっぱりほとんどの芸人が、正統派の漫才で売れたくてこの世界に入ってくると思うんです。僕も最初は“ネタの人”っていう評価があったんですよ。でもなかなか仕事がなくて、だけど飯は食わなあかんってなって、気づいた時にはシルクハットかぶってた。お笑いはじめた時は、芸人ってこんなにおでこが汗疹でかぶれる仕事だと思わなかったですから! やっと売れて「爆笑レッドカーペット」とかネタ番組の仕事が一気に増え始めると、ある種のポピュリストみたいになってもうて。流行ってるけど、本当の実力はない人みたいに思われてしまうんですよね。忸怩たる思いはありました。

男芸人と女芸人のジェンダー論

中瀬 『一発屋芸人列伝』は、それぞれの芸人さんに対する愛あるツッコミがめちゃくちゃ面白かった! さっき独特の文体って言いましたけど、やっぱり漫才的なテンポの良さとか、セッション感がありますよね。取材対象の芸人さん10組はどうやって選ばれたんですか?
山田 レイザーラモンHGさんを最初に取材しようというのは決めていて。そこでちょっと真面目な人柄を書いたので、次は変わった人でコウメ太夫さんにしようとなり、ピン芸人が続いたから次はコンビがいい、じゃあテツandトモさんで……という感じで決めていきましたね。芸人がネタの台本を書くときって、三段落ちじゃないですけど、ボケのテイストがかぶらないようにするとか、短いボケのあとは長く引っぱってからツッコむとか、全体にリズム感があるじゃないですか。そういう構成にしたいなって。
中瀬 絶妙な並びだと思いました。でも取材を断わられた方もいらっしゃるんですよね、やっぱり。
山田 そうですね……一発屋って、世間的に一発屋だと思われていることと、自分が一発屋であることを飲み込んだということ、この2つがあって初めて誕生すると思うんですよ。
中瀬 その自己認識にもつながっていると思うんですけど、女芸人に一発屋がいないという考察は面白いですよね。
山田 我々の開催している「一発会」に参加しているのも、女性ではキンタロー。だけなんですよ。彼女も世間的には一発屋と思われてないかもしれない。「なぜ女性は一発屋にならないのだろう」とずっと不思議に思っていて。取材時に社会学の先生にお話を伺ったりもしたんですけど、女性としてどう思われます?
中瀬 男女の芸人の違いでよく言われることですけど、女の芸人さんって幸せになりどころが難しいですよね。恋愛とか結婚をどう乗り切るかというパターンが、限られている気がするんです。
山田 それはキンタロー。も言ってましたね。不幸が笑いのベースにあると。
中瀬 そうそう、モテない、ブサイクみたいな自分の不幸で笑いを作る芸風が多い。そもそも女芸人という時点で、どこか自虐的なところがあるとしたら、そこへさらに一発屋という自虐をもう一枚かぶるのはキツいのかなって気がしましたね。だけど私も自分でブスとかデブとかババアとかよく言うんですけど、その立ち位置だから言えることもあるし、自虐は誰も傷つけないから好きなんですよね。
山田 え、いや中瀬さん、正直そこまでじゃ……。
中瀬 何を口ごもってんねん(笑)!
山田 そうですねーって相槌打てないでしょ! まあでも、テレビに出るときは振り切らないと分かりにくいっていうのはありますよね。
中瀬 すべてジェンダーで分けられるものではないですが、男性の芸人さんは、結婚することで芸に影響ってありますか?
山田 男の場合むしろキャラに上乗せって感じが大きい。だからイクメン芸人とかいま大渋滞してますけど。
中瀬 嫁恐いみたいなのも多いですよね。
山田 ああ、恐妻家もありますね。
中瀬 レイザーラモンHGさんが嫁のポルシェに乗っているというくだりは笑いました。
山田 HGさんのところは、仕事で成功した奥さんとの関係性がきっちりネタに仕上げられている感じがいいですよね。一方で嫁にも家族にもバレないように、仕事に行くふりして公園で鳩に餌やってるっていうのは、ムーディ勝山が生み出した一発屋定番の自虐ですね。
中瀬 いつ結婚したかでも変わりそうですよね。もし自分の彼氏が売れてる芸人だったら、誰かに取られちゃうかもしれないから早く結婚したいけど、邪魔になったら嫌だから、落ち着くまで待った方がいいかもだけど、そのタイミングだとサゲマンって言われるかもしれない……。
山田 中瀬さん、どうしました? いま芸人と付き合ってるんですか?
中瀬 いや、例えばの話、妄想妄想!
山田 ふかわさんですか(笑)?
中瀬 そんな誤解を呼んだら、ふかわくんに殴られます(笑)。

娘に説明するのに向かない職業

山田 しかしこの本を読んでそんなことまで考えてくださったんですね。
中瀬 節々で芸人さんのご家族とのエピソードが出てくるので、想像をたくましくしてしまいました。リアルな人生が書かれているなあって。
山田 今のご時世、嫁と子どものために頑張るっていうのもちょっと古いのかもしれないですけど、僕はそういうタイプですね。もし仕事がなくなってしまったら、うちの娘がすごく惨めだなと思う。そうすると頑張れる。でも僕、娘に自分が髭男爵だってことは隠してるんです。
中瀬 バレないんですか?
山田 ちょっとこの家シルクハット多いな~くらいは思ってるかもしれないですけど、まだ5歳なんでギリギリ大丈夫です。だって、怖いじゃないですか。たとえば月1回しかテレビに出ていなくても子どもは分からないですから、「うちのお父さんテレビに出てるんだ」って言い始めたりなんかしたら……想像してくださいよ。急に娘が調子に乗って「ルネッサーンス」とか言い出したら、この2018年に。時空が歪みますよ。お友達の親御さんに伝わった時、どんな酒のつまみにされるんだろうって恐怖しかないですよ。5歳児に一発屋っていう概念を説明するのはまだ難しい。
中瀬 でも、いつかは言おうと思ってらっしゃるんですか?
山田 娘が成人するまでは言いたくないんですよね。でも現実的じゃないから、なんかうまい嘘ないかなと……そういう意味でも“書く仕事”を頑張っていきたいと思ってます。
中瀬 どんなモチベーションでもいいので頑張っていただきたいです(笑)。一発屋の一つのステータスとして、小島よしおさんの「そんなの関係ねえ!」とか、子どもが真似をするっていうのがありますよね。やっぱり子どもがやり出したら、一発きたっていう証明になるんですか?
山田 ギャグの流通経路としては、子どもって末端だと思うんです。だから真似されたら、染み渡ったって感じはありますよね。僕、山梨でラジオをやらせていただいていて、地元の小学生がたまに見学にくるんですよ。彼らを見ると一目瞭然ですね。いま染み渡ってるのはサンシャイン池崎とブルゾンちえみです。他にバロメーターとして、僕は一発屋の「皮」って呼んでるんですけど、自分のコスプレがドン・キホーテとかで売られ始めたら一発きた、という感じはあります。あと髭男爵の場合は、宴席でお客さんがめちゃくちゃグラス割るから、そのギャグやめてほしいっていうクレームがきたり、居酒屋に「ルネッサンス禁止」って張り紙がしてあったりしました。
中瀬 それはすごい! そういう時、売れたなって思うんでしょうね。
山田 でもその張り紙がいつの間にか剥がされているのも見てしまうわけですよ。
中瀬 切ない(笑)。
山田 以前行きつけのおでん屋で飲んでたら、隣のカップルの男がビール飲むときに「ルネッサーンス!」ってやったんです。そしたら彼女に「ちょっとやめて、恥ずかしいから!」ってマジギレされてましてね。いたたまれなくて、襟を立てて顔を隠したかったんですけど、Tシャツだったんでそっと心の襟を立てました。

誰も書かなかった「その後」

中瀬 今はテレビだけじゃなくてYouTubeとかSNSもあるから、ブレイクから消費されるまでのスピードがどんどん加速している気がします。
山田 一発の飛距離が短くなっていますよね。一発屋という言い方が定番化してきたっていうのもあると思います。世の常ですけど、定番化すると、みんな段階を端折るじゃないですか。そうすると本当にブレイクする前に一発屋のレッテルを貼られてしまう。ナチュラルに一発屋だったのは、実はダンディ坂野さんくらいじゃないですかね。
中瀬 一発屋が最初に出たのはいつなんでしょうね?
山田 たまに一発会でもその話題になるんですけど、正確な「一発史」は分からないんです。でも僕らの中では、つぶやきシローさんあたりが先駆けじゃないかって話してます。
中瀬 その前から「あの人は今」的な番組はありましたよね。
山田 そうですね。でも一発屋は過去の遺物という見方をされますけど、実は現役で負けを披露している人間なんです。本来芸能界は勝っている姿を見せるところなのに、負けを見せるエンタテインメントっていう特殊な分野を作ったのは、先輩方が切り開いた新境地だと思います。
中瀬 この本は一発屋が一発当てるまでのサクセスストーリーではなくて、これまで誰も書かなかったその後の物語に目をつけたところが素晴らしいですよね。一発屋=売れなくなった、収入が少なくなった、とかじゃない。多様なバリエーションのその後があるというのを見せてくれた。なんだかおとぎ話の続きを読んでいるみたいでした。人生ってそんなに綺麗に終われないですから。
山田 そう言っていただけるのが、一番嬉しいですね。やっぱり画一的なイメージを変えたかったというのもあります。テツandトモさんなんて、今でもすごい売れっ子です。毎年埼玉あたりに一軒家建てられると思いますよ。ハローケイスケさんは失礼ながら0・5発屋なんて書きましたけど、芸人濃度が本当は一番高い方なんです。僕はやっぱり売れたいですし貧乏もしたくはないですけど、ケイスケさんの考え方というか、純な芸人らしい部分に憧れる部分はあります。
中瀬 這い上がってファイティングポーズを取る人も、流されながらもしぶとく生き残ってる人もいる。この本に登場する一発屋芸人の中に、読者が自分を投影できる人が誰かしら1人はいそう。
山田 コウメ太夫さん以外なら(笑)。
中瀬 取材してみて、意外な変わり方をされていた方っていらっしゃいますか?
山田 波田陽区ですかね。彼はブレイク時、ちょっと信じられないくらいスベってたんですよ。なんかもう破滅的な、語弊ありますけど自殺するみたいに、自分でスベりにいってる感じで。「スベる俺が見たいんでしょ?」っていうヤケクソ感があって、大丈夫かなと思ってたくらいでした。でも取材で博多まで会いに行ったら、一発屋になってからの方が、目がキリッとしてた。まあ、別に面白くなってたわけじゃないですけどね(笑)。

なるべく早く失敗した方がいい

中瀬 HGさんが仰っていたことで「僕たちは何も変わってない。ただ世間が飽きただけ」っていうフレーズが印象的なんですけど、一番怖い言葉って、やっぱり「飽きた」だったりするんですか?
山田 正直、怖いですよ。でもこれもHGさんが仰ってたことですけど、「伝統芸にしていけばいい」と思うんですよね。どんなタレントさんでも、ずっと出ていれば根本的には飽きられているはずなんです。「それ別のところでも言ってたね」みたいな感じで。それでも面白い、好きって思ってもらえるのがずっと売れるということ。だから、飽きられたその先ですよね。どれだけ心を強く持って、「飽きた」のその向こう側まで行けるかいうことなんかな、と最近は思ってます。
中瀬 吉本新喜劇もある種の伝統芸能ですよね。ずっと同じことを言い続けられると、その水戸黄門的な気持ちよさを見たくなってくる。
山田 同じギャグをやり続けてると、だんだんこっちも「何百万回目のルネッサンスやねん」って気が引けてきて、120%でやるのが恥ずかしくなる。そういう瞬間が芸人には必ず来ると思うんです。
中瀬 最初に自分で自分のギャグに飽きちゃうわけですね。
山田 だってこっちは世間の人が目にする2、3年前からやってますから。でもそこで照れたらあかん、引いたらあかんっていうのを、HGさんが教えてくれましたね。実際僕もバーっと売れた後に、ちょっと小声の「ルネッサーンス」になってた時期があるんですよ。そういう時期を乗り越えて、また120%で言えるようになったその時、一発屋になれるんじゃないですかね。
中瀬 人間って忘れられたくないと思う一方で、いまネットに上がった情報はなかなか消えないし、個人レベルでもすぐキャプチャ保存したり、昔より忘れてもらうことが難しい時代になりましたよね。
山田 このSNS時代にうんこ漏らしてたら、ゲームオーバー感あります(笑)。
中瀬 近年EU諸国で「忘れられる権利」が議論されていますけど、自分がしてしまったことが半永久的に消えないって怖いですよ。過去とか失敗が消えないことで苦しんでる人が多いと思うんです。
山田 一方で、そういう人の過ちを非難する人って、失敗も成功もしたことがない人なんじゃないかって僕は思ってしまうんですよ。
中瀬 山田さんが以前ワイドショーで、匿名の誹謗中傷に対して「その厳しい目、自分自身の人生に向ける勇気ある?」と発言されたのが話題になってましたね。
山田 まだ自分自身の価値を知らず、失敗も成功もないからこそ言えることって、あるじゃないですか。簡単に他人を非難できるのは、そういう子らやと僕は思ってますけどね。
中瀬 忘れてもらえない社会というのもあるかもしれないですけど、いま失敗することをすごく恐れますよね。
山田 でも僕は人生なるべく早く失敗したほうがいいと思ってるんです。勝ち続ける人生なんて、本当はないですから。
中瀬 失敗に意味がある?
山田 いや、失敗には意味なんてなくていいと思います。6年間友達と遊ばず、勉強もせず、引きこもりになったことは意味のない失敗だった。だけど大人になって、人生で一度ドカーンと売れる経験をして一発屋になっていく過程で、あ、この感じ前にもあったな、と思ったんです。その落下感を単純に経験として「知っていた」。2回目のスカイダイビングみたいに(笑)。それでも芸人を続けていたのは、青春を無駄にして、履歴書もボロボロで、芸人やってますというのがなくなったら、いよいよ俺することが何もなくなるなっていう理由だけでした。そういう意味で強制的に他の全選択肢を消せていたという部分はあったのかな。
中瀬 失敗の仕方を知っておくと、失敗で終わらずにその先も生き続けていけますもんね。
山田 「ナントカ大成功の法則」とか、ごく一部の勝者の平均値やから、あんまり実戦的じゃないと思うんですよね。人生の実用書としては、勝ち負け両面あって、負けながらも結構飯食えてるみたいな感じの方が役立つんじゃないかって。そういう意味で、この本は失敗界の中でもA5ランクの失敗が詰まった実用書だと思います(笑)。

(やまだ・るいごじゅうさんせい 芸人)
(なかせ・ゆかり 編集者)
波 2018年6月号より
単行本刊行時掲載

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著者プロフィール

山田ルイ53世

ヤマダ・ルイゴジュウサンセイ

本名:山田順三(やまだ・じゅんぞう)。お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。兵庫県出身。地元の名門・六甲学院中学に進学するも、引きこもりになり中途退学。大検合格を経て、愛媛大学法文学部に入学も、その後中退し上京、芸人の道へ。「新潮45」で連載した「一発屋芸人列伝」が、「編集部が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞し話題となる。その他の著書に『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)がある。

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