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伊藤みどり、荒川静香、羽生結弦――
日本はいかにしてフィギュア大国になったのか。

日本フィギュアスケート 金メダルへの挑戦

城田憲子/著

1,620円(税込)

本の仕様

発売日:2018/01/18

読み仮名 ニホンフィギュアスケートキンメダルヘノチョウセン 
装幀 新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 190ページ
ISBN 978-4-10-351421-3
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,620円
電子書籍 価格 1,620円
電子書籍 配信開始日 2018/01/29

かつて極東の小国と見なされていた日本は、いかにして欧米の厚い壁を打ち砕き、フィギュア大国へと躍進したのか。世界に通じる才能の発掘と強化のシステムを築き上げ、荒川と羽生を五輪金メダルに導いた元・日本スケート連盟フィギュア強化部長が初めて語る、進化と勝利の舞台裏。

著者プロフィール

城田憲子 シロタ・ノリコ

1946年東京都生まれ。フィギュアスケート女子シングルおよびアイスダンスの選手として活躍、全日本選手権アイスダンスで二連覇。引退後、1994年から2006年まで日本スケート連盟フィギュア強化部長を務める。2006年トリノオリンピックでは荒川静香の日本初の金メダル獲得を牽引。ISU(国際スケート連盟)レフェリー・ジャッジの資格を持ち、長年にわたりオリンピックや世界選手権などで審判員も務めた。2014年ソチオリンピックでは羽生結弦の日本男子初となる金メダル獲得をサポート。2016年、ANAスケート部の監督に就任。

目次

はじめに
第一章 フィギュアスケートに魅せられて
メダルが獲れるわけないもの!
日本スケート連盟の一員となって
天才少女・伊藤みどりの衝撃
「伊藤みどりプロジェクト」を掲げて
アルベールビルの誤算
みどりが教えてくれたこと
第二章 日本フィギュアスケート・冬の時代
金メダルは「総合力」
試行錯誤のNHK杯
全国有望新人発掘合宿
サンジェルヴェの夕陽
長野オリンピックで味わった屈辱
第三章 強化部長をつとめて
ノービスから海外へ
支えてくれた素晴らしいスタッフ
進化する大会運営
強化に生きたジャッジ経験
天才少年・本田武史の苦闘
ソルトレークシティオリンピック――雪解けは程遠く
第四章 荒川静香・金メダルへの道
綱渡りのコーチ変更
強すぎた浅田真央旋風
敗北と焦りのなかで
オリンピック代表選考
いざ、トリノへ!
第五章 金メダルの光と影
努力の結晶・村主章枝
溢れる才能・安藤美姫
果たせなかった約束・高橋大輔
日本スケート連盟を揺るがした事件
第六章 羽生結弦・ソチから平昌に挑んで
東日本大震災のさなかで
羽生結弦との出会い
羽生に預けた「三つの選択肢」
世界に「人」を羽ばたかせる「クリケット」
日本初・オリンピック連覇を目指して
「バラード第一番」と「SEIMEI」
ニース・伝説の演技が生まれるまで
あとがきにかえて――日本フィギュアスケートの歴史の先に

インタビュー/対談/エッセイ

氷を溶かすほどの情熱に

槇村さとる

――フィギュアスケート選手として五輪を目指す子供たちの「今」をつぶさに描いた『モーメント』を、月刊「ココハナ」(集英社)に連載中の槇村さんのご感想を伺わせてください。

 一言で言うと、「あ、この人、お母ちゃんだ!」と(笑)。この本は、日本フィギュアスケートの黎明期に選手発掘と強化のシステムを築き、荒川静香さんや羽生結弦さんが日本初の男女五輪金メダルを獲得するまでの道を拓いた元・日本スケート連盟フィギュア強化部長の自叙伝です。年代的な背景を考えれば、女性がチームリーダーを務めることはとても難しい時代で、当時そうした立場に置かれた女性のほとんどが、男性に成り代わったかのような素振りで物事を動かしていたはずです。なのに、城田さんはそうじゃない。「うちの子が誰よりも可愛いの! なんか文句ある?」って、選手や日本のフィギュアスケートに対する剥き出しの愛情を隠さないんです。むしろ「男性だったらこういうケツの捲り方はしないのでは?」と思う場面がいくつもあって、リンクの氷さえも溶かしてしまいかねない彼女の情熱のありようが、非常に面白かったです。
 また、そうした情熱の源が掴めないことにも興味を引かれました。いくら「昔の日本のフィギュア界が極東の小国と言われて悔しかった」といっても、実際に彼女を突き動かしていた情熱は、そんなふうに一言で説明がつくものではなく、様々な出来事や、いまだに言語化できない感情が複雑に絡み合ったなかで、より熱を帯びていったのではないでしょうか。

――日本のフィギュアスケートが今ほどの関心を獲得していない時代から、『愛のアランフェス』(78年)や『白のファルーカ』(87年)など、アイスリンクを舞台にした作品を描かれています。フィギュアにご興味を持たれたのはいつ頃ですか?

 10代の頃です。昔はよく観戦に行き、城田さんが大会を開くにあたっての奔走ぶりを書かれていたような雪国の、つまり釧路などの大会にも出かけていたんです。読んでいると、創成期ならではと言うか、国際大会の準備をめぐるドタバタ劇は、やっぱり漫画のように面白かったです。たしかに当時の大会は今よりもずっと小さな会場で、牧歌的な雰囲気のなかで開かれていて、誰もが気軽に観戦することができました。渡部絵美さんの活躍で次第にテレビ中継も増えていきましたが、大好きなイリーナ・ロドニナとアレクサンドル・ザイツェフのペアが来日した時は本当に嬉しくて、サインを貰いにおしかけてしまったことを憶えています。

――黎明期をご存じの槇村さんは、日本に初めてフィギュアの五輪金メダルがもたらされるまでの過程を読まれて、どんな印象を抱かれましたか?

 確かな技術を持った荒川さんをオリンピックに送り、勝たせたい――実現に至る過程には、読む人によっては、「えこひいき」と捉えるかもしれない側面もあります。
 しかし、そもそもアスリートの世界に「公平性」を問うことなど可能でしょうか? 選手たちは皆、もともと与えられた体も才能も異なります。練習環境だってそう。さらにはオリンピックだって、時の運と無縁ではありません。自分が生まれた年のめぐり合わせとか、様々な転がって来ただけの運にも勝敗が左右されてしまいます。なかでもフィギュアスケートは選手それぞれの華を競う競技であると同時に、多様な価値観が認められたスポーツです。だからこそ採点からジャッジの主観を排除することもできません。だけど、そのなかで勝ち負けを決めたがる人間という存在そのものを、私は「面白いな」と思っているのですが……。

――今回、長いあいだ「密室」のようにも思われていた舞台裏が綴られましたが。

 たとえば少女漫画の限界は、少女世界を取り囲む「本当の世界」に目を瞑ってしまった瞬間に訪れると考えているんです。夢に始まり、夢のまま終わる。しかしその世界に「外側はこうなっていますよ」と現実に通じる風穴を開けたら、少女にとって次に乗り越え、進むべき方向が見えてくる。そして、新たな物語が生まれていく。いかんともしがたい現実や大人の世界が描かれてこそ、それに抗う主人公の苦悩や成長が伝わるし、真の魅力も見えてくるのではないでしょうか。
 選手あるいは身近に支える家族やコーチだけで成り立っているわけではない世界を知る――それもフィギュアスケートの魅力と、続く未来を見つめることだと思います。

(まきむら・さとる 漫画家)
波 2018年2月号より
単行本刊行時掲載

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