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偏愛読書トライアングル

瀧井朝世/著

1,870円(税込)

発売日:2017/10/20

  • 書籍
  • 電子書籍あり

私が好きなのは、こんな本たちです! と、溢れんばかりの愛をこめて、書き続けたレビューが、一冊に!

書評やインタビューにひっぱりだこ、「王様のブランチ」ブックコーナーのブレーンも務める著者が、古今東西、本当に好きな本だけを紹介した、極私的かつ普遍的なブックガイド。読書生活を豊かにしてくれること間違いなし。エンタメも、純文学も、海外文学も、ノンフィクションも、面白くない本は一冊もなし。索引と脚注もがっちり装備!

目次
まえがき
「異国情緒」スパイスを味わう三品
『叫びと祈り』『追想五断章』『百万のマルコ』
戦争のなかで瓦解する人々
『煙の樹』『キャッチ=22』『拳闘士の休息』
仕える者と主人、その微妙な関係性
『小さいおうち』『比類なきジーヴス』『料理人』
分身がいっぱい
『俺俺』『ブルーもしくはブルー』『ダブル/ダブル』
勝手に岸本佐知子さんフェア!
『いちばんここに似合う人』『変愛小説集II』『ねにもつタイプ』
イタ可愛い女の子たち
『勝手にふるえてろ』『ほんたにちゃん』『長い終わりが始まる』
戦後生まれがあの時代を書く
『ツリーハウス』『ガラスの宮殿』『本泥棒』
ただ一人で築く
『こちらあみ子』『ギンイロノウタ』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』
復讐とその後
『夜の真義を』『嵐が丘』『私家版』
理不尽な世界に対峙する
『アンダー・ザ・ドーム』『IT』「刑務所のリタ・ヘイワース」
起承転結なんて要らない
『私のいない高校』『虹色と幸運』『トリストラム・シャンディ』
届かない境地にいる人々
『ラブレス』『荒野へ』『キング&クイーン』
懐深き女性たち
『漁港の肉子ちゃん』『風待ちのひと』『リアル・シンデレラ』
辞書を編む人々
『舟を編む』『博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話』『ジョン・ランプリエールの辞書』
味覚が生むドラマ
『ブエノスアイレス食堂』『カレーソーセージをめぐるレーナの物語』『柘榴のスープ』
虚構の国を訪れる
『短くて恐ろしいフィルの時代』『ゆみに町ガイドブック』『見えない都市』
不条理の中の主人公
『3・15卒業闘争』『訴訟』『壁』
職場の人々
『とにかくうちに帰ります』『秋の四重奏』『フルタイムライフ』
子どもと環境
『きみはいい子』『タダイマトビラ』『理系の子 高校生科学オリンピックの青春』
この主人公が愛しい
『窓の向こうのガーシュウィン』『プロトコル』『とうへんぼくで、ばかったれ』
偏愛絶版本を三冊
『熱帯雨林の彼方へ』『恍惚のフラミンゴ』『お気をつけて、いい旅を。』
都市に転がる小さな奇跡
『飛行士と東京の雨の森』『線路と川と母のまじわるところ』『gift』
本を書く本、本を読む本
『本にだって雄と雌があります』『ノエル a story of stories』『冬の夜ひとりの旅人が』
旅の途中
『夜の隅のアトリエ』『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』『パイド・パイパー』
積み重ねる私たち
『スタッキング可能』『知の逆転』『ぼくは覚えている』
短篇集のおまけ
『短篇小説日和 英国異色傑作選』『厭な物語』『壜の中の手記』
ブッツァーティ!
『神を見た犬』『タタール人の砂漠』『石の幻影 短編集』
“ナチス”を書くこと
『HHhH プラハ、1942年』『神の棘』『朗読者』
十代の今
『さよならを待つふたりのために』『その青の、その先の、』『スリースターズ』
新しい世界へ
『スワンプランディア!』『マルセロ・イン・ザ・リアルワールド』『さようなら、オレンジ』
自分的“ノベル”
『なぎさ』『世界でいちばん美しい』『ジャンプ』
スパイシーな短篇集
『おはなしして子ちゃん』『雨のなまえ』『オーブランの少女』
日本ファンタジーノベル大賞のこと
『後宮小説』『世界の果ての庭』『星の民のクリスマス』
事件のその後
『怒り』『殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』『友罪』
子どもたちの未来
『彼が通る不思議なコースを私も』『手のひらの音符』『ぼくの守る星』
丹下さんを読もう
『青色讃歌』『マイルド生活スーパーライト』『仮り住まい』『猫の目犬の鼻』
短篇万歳!
『満願』『世界堂書店』『すべての終わりの始まり』
千夜一夜な読書
『夜は終わらない』『アラビアの夜の種族』『隊商(キャラバン)』
価値の反転
『殺人出産』『花のノートルダム』『泥棒日記』
翻訳という技
『コールド・スナップ』『狼少女たちの聖ルーシー寮』『翻訳問答 英語と日本語行ったり来たり』
家族の始まりの日
『GOSICK BLUE』『愛の裏側は闇』『百年の孤独』
家と家族
『パノララ』『いい子は家で』『驚嘆!セルフビルド建築 沢田マンションの冒険』
復刊&重版希望〈新潮文庫篇〉
『贖罪』『日本国の逆襲』『二百回忌』
“過去”と小説
『現代罪悪集』『SOY! 大いなる豆の物語』『東京自叙伝』
東と西
『革命前夜』『冗談』『無意味の祝祭』
隣りの国から
『世界の果てのこどもたち』『流』『流れる星は生きている』
鴻巣さんの訳が好き
『風と共に去りぬ』『嵐が丘』『マイアミ・トラップ』
気になる台湾
『歩道橋の魔術師』『神秘列車』『台湾海峡一九四九』
物語のなかの記者
『王とサーカス』『雲は湧き、光あふれて』『クライマーズ・ハイ』
史実を背景にしたエンタメ
『戦場のコックたち』『105歳の料理人ローズの愛と笑いと復讐』『窓から逃げた100歳老人』
バートルビーと読書
『書記バートルビー/漂流船』『バートルビーと仲間たち』『エバは猫の中 ラテンアメリカ文学アンソロジー』
風刺される社会
『呪文』『帰ってきたヒトラー』『世にも奇妙な君物語』
埋もれた物語
『ムシェ 小さな英雄の物語』『人質の朗読会』『フランス組曲』
移動の途中
『愛のようだ』『次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?』『卒業するわたしたち』
「正しさ」の呪縛
『坂の途中の家』『私のなかの彼女』『ヒーロー!』
未来を考える
『橋を渡る』『アカガミ』『八月の六日間』
あとがき
索引

書誌情報

読み仮名 ヘンアイドクショトライアングル
装幀 西脇光重/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-351221-9
C-CODE 0095
ジャンル 本・図書館、人文・思想・宗教
定価 1,870円
電子書籍 価格 1,496円
電子書籍 配信開始日 2018/04/06

書評

かけがえのない時間の幸福さと切なさ

今井麻夕美

 新刊を平台に出すとき、一緒に読んでほしい本の隣に置くことがある。自宅の本棚は著者も版元もばらばらに、テーマや作風が近しいものを並べている。孤独を描いていたり、独自の世界観を持っている本でも、隣の、そのまた隣の本と並んで新しい世界を作っていく。そういう光景を見て、静かに驚くことがある。本はつながっていくのだ。
 瀧井朝世さんの初著書(意外だった)『偏愛読書トライアングル』。本誌『』で2010年4月号から現在も連載されている「サイン、コサイン、偏愛レビュー」から、厳選された56回分をまとめた1冊だ。本誌読者の方には説明不要かもしれないが、このレビューのスタイルは、まず新刊1点をとりあげ、そこから連想した本2点をあわせて紹介するというもの。本のつながりにわくわくする。国内小説、翻訳小説、ノンフィクションと取り上げる本のジャンルは様々だが、選ぶ基準は瀧井さんの愛、しかも偏愛、である。
 たとえば「分身がいっぱい」と題された回。星野智幸俺俺』と、山本文緒『ブルーもしくはブルー』、翻訳文学のアンソロジー『ダブル/ダブル』の3冊を紹介している。テイストも国も時代もこえたチョイス。さすが瀧井さんだぜ! と唸ってしまう。結びの〈その人がその人たる根拠はもろく、自分と他人の境界線は曖昧で、人は人と交換可能だ。それは嘆かわしいことではなく、至極当然のことのようにも思える。ならばもう少し他人に共感を示してもいいのかなあ、と考えるのは楽天的、偽善的にすぎるだろうか〉という文章にもぐっとくる。「分身」というモチーフでつなげるだけでなく、それぞれの本から読みとったメッセージを重ねることで、テーマをより強固にし、考える。それは読者にとっての読書の種になる。
 瀧井さんの書評を読むと、いつもはっとする。小説だったら、設定や登場人物の造形を的確につかみ、読みどころや、隠れているキーワードに至るまでを鮮やかにすくい、言葉にしてくれている。すでに読んだ本でも、あれ、こんな一面もあったんだと違う表情が見えてきて、もう一度読んでみたくなるのだ。
 言葉で紡がれているけれど、本は直接にはメッセージを語らない。それは奥の方に密やかに息づいている。どんなジャンルの本でも、その声をひとつひとつ聴き、理解し、文章にして、本を読みたいと願う人々に手渡す力を、瀧井さんは持っている。その稀有な力と、愛と、膨大な読書量という引き出しのトライアングルで出来たのが本書なのだ。
 そうは言っても全部連載で読んだし、単行本はまあいいかなんて思っていらっしゃる、そこの『波』愛読者のあなた。単行本ならではのお楽しみも数多く用意されているのです!
 まずはふんだんな脚注。著者の略歴や文庫化情報だけでなく、瀧井さんの偏愛あふれた情報もあって面白い。ジョージ・ソーンダーズ『短くて恐ろしいフィルの時代』、西崎憲『ゆみに町ガイドブック』、イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』を紹介した「虚構の国を訪れる」という回の脚注では、この3冊が好きな人に、もう1冊をおすすめしてくれている。タイトルは本書でご確認を。私は絶対読みます。
 巻末には、人名からも作品名からも引ける索引が付いている。読みたい本と、再読したい本を早速チェックしてみたら、膨大な数になってしまった。時間と資金と収納場所を確保しなければ……! いやはや。ますます読書沼の深みへとはまりそうで、困惑と嬉しさの両方におそわれる。
 そして、なんといっても本書の最後の数回とあとがきを、ぜひ、ぜひ読んでほしいのだ。書評集を読んで、まさかこんな読後感をおぼえるとは思いもよらなかった。
 読書は時間と共にある。物体としての本を見れば、読んでいた時間がそこにあると感じられることもあるだろう。連載開始からたくさんの本を読んできたかけがえのない時間を、瀧井さんは1冊にとじ込めたかったのではないだろうか。この本が、この世に生まれ出てよかったと、しみじみ思った。
 本書を読み終え、改めてカバーを見たならば、あなたもきっと、幸福な時間と過ぎ去った後の切なさをかみしめるに違いない。本と共に生きるということに、思いを馳せながら。

(いまい・まゆみ 書店員/紀伊國屋書店新宿本店)
波 2017年11月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

瀧井朝世

タキイ・アサヨ

1970年生まれ、東京都出身、慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経てライターに。WEB本の雑誌「作家の読書道」、文春オンライン「作家と90分」、『きらら』『週刊新潮』『anan』『CREA』などで作家インタビュー、書評、対談企画などを担当。2009年〜2013年にTBS系「王様のブランチ」ブックコーナーに出演。2017年10月現在は同コーナーのブレーンを務める。

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