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鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

川上和人/著

1,540円(税込)

発売日:2017/04/18

  • 書籍

出張先は火山、ジャングル、無人島……
センセイ、ご無事のお戻り、祈念しております。

必要なのは一に体力、二に体力、三、四がなくて、五に体力?! 噴火する火山の溶岩、耳に飛び込む巨大蛾、襲い来るウツボと闘いながら、吸血カラスを発見したのになぜか意気消沈し、空飛ぶカタツムリに想いをはせ、増え続けるネズミ退治に悪戦苦闘する――アウトドア系「鳥類学者」の知られざる毎日は今日も命がけ! 爆笑必至。

目次
はじめに、或いはトモダチヒャクニンデキルカナ
第一章 鳥類学者には、絶海の孤島がよく似合う
1 わざわざ飛ぶ理由がみつかりません
やれるものならやってみたまえ/空席があるならくつろぎたまえ/必要なければやめたまえ/そろそろ、交替したまえ
2 火吹いて、地固まる
1Q73/絶望に一番近い島/行こう、行こう、火の山へ
3 最近ウグイスが気にくわない
オノマトペ/告発/侵攻
4 帳と雲雀のあいだに
寝ない子ダレダ?/耳をすませば/仄暗い穴の底から
第二章 鳥類学者、絶海の孤島で死にそうになる
1 南硫黃島・熱血準備編
鳥類学者は南をめざす/知人者智 自知者明/宇宙の海はおれの海
2 南硫黃島・死闘登頂編
カフェ・パラ/雨に唄えば/白玉楼中の鳥
第三章 鳥類学者は、偏愛する
1 筋が通れば因果は引っ込む
風になれ/骨まで愛して/目的は結果についてくる
2 それを食べてはいけません
ヤギさんからの贈り物/ヤギが吹けばネズミが儲かる/現実的大科学実験
3 赤い頭の秘密
まずは友達から始めよう/次は宿敵と手をつなごう/赤は血の色、黒は罪の色
4 カタツムリスティックワンダーランド
聖なる嫌われ者の活躍/冷たい目で見ないで/翼を持たないフェニックス/果実となるか、種子となるか
第四章 鳥類学者、かく考えり
1 コペルニクスの罠
陽気なネズミが世界を回す/ヒトは回して追い抜いた/自分でするのはイヤなのです/きっと幸せはそばにある
2 二次元妄想鳥類学事始め
脳内講座の始め方/そこに趾があるから/信じても救われるとは限らない
3 冒険者たち、冒険しすぎ
ガンバりすぎ/招かれざる賓客たち/悪党のパラドクス/海を泳ぐネズミ
4 シンダフルライフ
擬死の科学/死にたくなければ死んだふり/不死鳥伝説の正体/ウソカマコトカ
第五章 鳥類学者、何をか恐れん
1 熱帯林の歩き方
はじめに言葉あるべし/拝啓、南の森の日常/諸行無常の響きあり
2 エイリアン・シンドローム
世界の国からコンニチハ/闘え在来種防衛軍/自分を信じちゃいけないよ
3 となりは何をする人ぞ
みなさんのおかげです/本当は昔から好きでした/第三の男
4 恐怖! 闇色の吸血生物
戦標! ヴァンパイアの接吻/登場! 怪傑黒マント/真実! 吸血鬼の裏腹
第六章 鳥類学者にだって、語りたくない夜もある
1 素敵な名前をつけましょう
冒険の始まり/一生の不覚/後の祭りの後始末
2 非国際派宣言
誰か嘘だと言ってくれ/そうだ、島に行こう!/第一種接近遭遇
3 林擒失望事件
裏切りの果実/色彩の魔力/見かけ倒しじゃありません/誰がために色は咲く
4 ダイナリー・イン・ブルー
パーフェクト・アニマル/ファミリー・ツリー/ミステリアス・ライフ
おわりに、或いはカホウハネテマテ

書誌情報

読み仮名 チョウルイガクシャダカラッテトリガスキダトオモウナヨ
装幀 北澤平祐/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-350911-0
C-CODE 0095
ジャンル 科学読み物
定価 1,540円

書評

飛びたいと思うなよ

高橋秀実

 鳥のように自由に空を飛びたい。
 などと言う人がよくいるが、私はイヤである。何より私は極度の高所恐怖症だし、鳥たちが自由とも思えない。足は異常に細く、地面を歩く時もぎこちない。飛ぶにしても空には不穏な気流があるだろうし、群れをなす様などはむしろ窮屈そうである。彼らは重力にも抗しているわけで、勝手に「自由」呼ばわりされるのも迷惑な話ではないだろうか。
 かねがねそう考えていたので、本書はとても腑に落ちた。頻繁に繰り出されるオヤジギャグが少々気になるが、それこそ身を乗り出すように読み耽ったのである。
 まず私が惹かれたのは次の一節。
「鳥は飛ぶものというのは先入観に過ぎない」
 なんでも「鳥は用事がなければ飛ばない」そうで、彼らは好きで飛んでいるわけではないのだ。飛ぶ理由は「食物探索」「季節的移動」「捕食者回避」。それらが満たされていれば彼らも木の上などで休んでいたいのである。鳥類の祖先は獣脚類(恐竜)で、彼らは鳥類同様に気嚢や羽毛、翼を持っていたという。しかし気嚢は巨体にこもる熱を排出するため、羽毛は体温保持、翼はディスプレイのためのものだったらしく、いずれも飛ぶためのものではない。つまり鳥類は飛ぶためにこれらの器官を得たのではなく、あくまで「転用」。ありものでなんとかする。もったいないから飛んだのである。
「鳥と人間には共通点が多い」
 という指摘にも驚かされた。どちらも二足歩行で、視覚と音声によりコミュニケーションをとる。見た目や声色にこだわる私たち同様で、さらには主に一夫一婦制。「おしどり夫婦」という言葉もあるように彼らはラブリーな仲間なのだ。
 違和感を覚えるのは首を伸ばして頭を前後に振るヘンな歩き方だが、それにも理由があるらしい。鳥は目が頭の側方についており、普通に歩くと視界の中で風景が前方から後方に流れて安定しない。そこで首を伸ばし、頭の位置を固定させて体を前に移動する。視界を安定させるための振舞いで、彼らも安定感にこだわっているのである。
 鳥も大変なんだな……。
 本書を読みながら私は何度も首肯し、さらには鳥類学者たちの生態にも胸を打たれた。著者らが調査に出かけるのは小笠原諸島の無人島など、まったくの野生の世界。夜間に観察していると突然、蛾が耳穴に飛び込んできて鼓膜に体当たりし、激しい頭痛に見舞われる。南硫黄島では深呼吸した瞬間に大量の小バエを吸い込んでそれが肺にまで達し、吐く息にも小バエが含まれていたりする。まるでドタバタ騒動の連続なのだが、そこまでして調査しても結果は地味だという点が実に興味深い。
 例えば、ヒヨドリの調査。不思議なことに同じ小笠原諸島でも、北部の小笠原群島にはオガサワラヒヨドリという亜種が生息し、南部の火山列島にはハシブトヒヨドリが棲みついているという。なぜ分かれているのかとDNA分析をしたところ、オガサワラヒヨドリのほうは沖縄南部の八重山諸島から、一方のハシブトヒヨドリは本州、または伊豆諸島に由来していることが判明した。小笠原群島と火山列島はすぐ近くなのに、遺伝的にもまったく交流がない。研究者にとっては画期的な大発見だったのだが、記者からの取材で著者は小笠原のヒヨドリは本州のヒヨドリとどう違うのか? と訊かれ、「少し茶色いです」。変わった行動や形態は? と問われて「すみません、ないです。普通の鳥です」と答えてしまった。実際、普通の鳥が普通に暮らしており、普通に棲み分けていることが貴重な発見なのだが、それではウケないのだ。しかし彼らの調査は税金でまかなわれており、国民に伝える義務がある。そのまま伝えると「だから何?」で終わってしまうので、著者はなんとか面白おかしく語ろうと懸命に努力しているのである。
 もしかすると本書は全体が鳥の形態模写なのかもしれない。著者のギャグはピーチクパーチクとした鳥の囀りのようで、学界のドタバタ劇も飛び立つ時の羽ばたきのよう。だから鳥たちの気持ちも自然に心に染み入ってくるのだろう。
 読了後、私は無性に鳥が見たくなり、空を見上げた。そういう時に限って鳥は飛んでおらず、代わりにその場でバードウオッチングならぬバードウオーキングをしてみる。視界が揺れまくるが、何やらヒップホップのダンスにも似ており、私は踊りながら鳥気分を味わった。

(たかはし・ひでみね ノンフィクション作家)
波 2017年5月号より
単行本刊行時掲載

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著者プロフィール

川上和人

カワカミ・カズト

1973(昭和48)年生れ。農学博士。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所鳥獣生態研究室長。東京大学農学部林学科卒、同大学院農学生命科学研究科中退。著書に『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』『美しい鳥 ヘンテコな鳥』『そもそも島に進化あり』『鳥の骨格標本図鑑』『鳥類学は、あなたのお役に立てますか?』『鳥肉以上、鳥学未満。』などがある。図鑑の監修も多く手がけている。2017(平成29)年に上梓した『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』がベストセラーとなり、読書界の注目を集める。

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