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「疲弊するだけの競争」から「人間を活かす和力」へ――。

和の国富論

藻谷浩介/著

1,320円(税込)

本の仕様

発売日:2016/04/22

読み仮名 ワノコクフロン
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 222ページ
ISBN 978-4-10-335372-0
C-CODE 0033
定価 1,320円
電子書籍 価格 1,056円
電子書籍 配信開始日 2016/10/14

なぜ競争しているのに生産性が落ちるのか。なぜ学力を上げてもリーダーが育たないのか。なぜ十分な富があるのに、貧困と格差が広がるのか。どうすれば市場原理と多様性・持続可能性が両立するのか。地域再生の現場で繰り返される対話から、「和力」という鍵概念が浮上する。「脱・競争」のまったく新しい成長戦略。

著者プロフィール

藻谷浩介 モタニ・コウスケ

1964年山口県生れ。地域エコノミスト。株式会社日本総合研究所主席研究員。平成大合併前の約3200の市町村すべて、海外95カ国を私費で訪問。地域特性を多面的に把握し、地域振興や人口問題に関して精力的に研究・執筆・講演を行っている。著書に『デフレの正体』、『里山資本主義』、『完本 しなやかな日本列島のつくりかた』(対談集)、『観光立国の正体』(山田桂一郎氏との共著)、『経済成長なき幸福国家論』(平田オリザ氏との共著)、『世界まちかど地政学』などがある。

書評

市場経済の狭間のしなやかな生業

宇都宮浄人

「地域」モノの書物は多い。政府が「地方創生」の音頭を取り、世の中が「地方創生バブル」に踊っているのではないかとさえ思う。例えば、プレミアム付き商品券の発行が「地方創生」だと言われれば、疑問を抱かざるを得ない。
 ただ、ここで斜に構えてはいけない。地域の問題はあまりにも根が深い。自分の知識、体験の範囲の中でわかることは限られている。本当に困っている人を減らし、子や孫の社会を考えて一つ一つ問題を解決しようとするならば、まずは色眼鏡をかけずに謙虚に学ぶしかない。
 本書は、日本全土を隈なく訪れ、地域再生の提言を続ける著者が、6人の「現智の人」と対談した記録である。前著『藻谷浩介対話集 しなやかな日本列島のつくりかた』の続編と言っていい。「現智の人」とは「特定の分野の『現場』に身を置いて行動し、掘り下げと俯瞰を繰り返した結果、確固たる『智恵』を確立している人」とのことで、今回もはっとさせられる語りに目から鱗が落ちる。
 とはいえ、それだけであれば、類書の「地方創生」事例集とさほど変わらない。経済学批判の言葉が時折飛び出し、理性的な読書人にはむしろ刺激が強すぎるかもしれない。「そもそも国富とは」などと大上段に構えてマクロの議論をしたい読者も、一瞬戸惑うだろう。
 けれども、本書は、ミクロで尖った体裁を取りつつも、実は、幸せな地域社会を、今日の市場経済というシステムの中で実現するための、しなやかな術と希望を伝えている。扱うテーマは、林業、漁業、空き家、教育、高齢化など、市場経済システムから落ちこぼれ、行き詰まりがみられる分野である。本書の魅力は、そうしたところで、緩やかに市場を活用しながら、一定の儲けを出し、持続可能な形の生業を模索する姿にある。
 ともすると我々は、「市場原理か否か」のような二項対立の不毛な議論に陥りやすい。アダム・スミスの「見えざる手」が独り歩きし、限りなく自由放任の経済社会に理想を求める者もいる。けれども、経済学者として一応断っておけば、経済学では市場が機能しないケース、「市場の失敗」も学ぶ。
 悩むところは、市場経済にどこまで任せ、公的組織あるいは非営利活動の力をどこまで借りるかというところである。評者は書名をみたとき、「市場原理」批判に偏っているのではないかと勘繰った。けれども、そんな発想自体が二項対立で物事を考える色眼鏡であった。
「現智の人」たちは、経済学者や政策担当者と違い、市場のど真ん中にいる。考えてみれば当たり前のことだが、農業や漁業は日々市場で取引されるという市場経済そのものである。そこで、収支が合わなければ生業を持続することはできない。科学的な根拠を持ちつつ、日々の市場に向き合うしかない。「広葉樹林が良い」、「ノルウェーの漁業を見習え」といったうわべの知識による対症療法ではいけないということを知らされる。空き家問題も、大仰に考えず、「現代版家守」という発想で始めた小さなビジネスが、遊休不動産を活かし、街の再生につながるということもわかる。
 ただ、実際の政策対応に、「現智の人」の考え方は活かされていない。対談から飛び出すさまざまなキイワードは、地域のこれからを深く考えさせられる。市場経済システムを前提としたうえで、果たして何が重要なのだろうか。
「和の国富論」という書名の解釈は読者に委ねるが、評者は、対談者の共通した指摘として、目先のことに囚われない長期の視点、型にはめこまない多様性、コミュニケーションや互助(利他的行動)に基づく人間関係という3点を特に強調しておきたい。「市場原理」の名の下、見落とされがちなこれらの点に、地域社会・経済再生の鍵として「和」があるのではないか。アダム・スミスを読んだ経済学者も同意するに違いない。
 ちなみに、「互助」は経済学的でない語感だが、近年の行動経済学では、人間の行動原理には、「市場規範」(個々人の利益追求という伝統的な経済学の行動原理)以外に、「社会規範」があるとされている。つまり、人は、他者の利益や他者との関係、互酬性に基づいて行動するという考え方である。本書で語られる「ふるさとの会」の高齢者施設は、高齢者同士が助け合う仕組みをつくり、「満室経営」による家賃収入で生業が成立している。「社会規範」という行動原理が市場経済システムに緩くはまった良い例であろう。
「地方創生」に踊っている人もそうでない人も、今の市場経済システムに疑問を持つ人もそうでない人も、本書を手にとってほしい。

(うつのみや・きよひと 経済学者)
波 2016年5月号より

目次

はじめに
第一章 「林業」に学ぶ超長期思想……速水亨(速水林業代表)
木と上手に会話する/家業で山を持つ意味/アメリカの林業に学ぶ点/木材の需要をいかに増やすか/違法伐採はなくならない?/森林組合がやるべきこと/製材工場が生き残るには/広葉樹は神様の領分/山を怖がる日本人
第二章 「漁業」は豊かさを測るモノサシである……濱田武士(漁業経済学書)
漁業は「野生生物」が相手である/非科学的な「乱獲」議論/ノルウェー漁業の「神話」/マネー資本主義化する漁業/魚食リテラシーの低下/「道の駅」はあり得るか/日本社会の最後の砦
第三章 「空き家」活用で日本中が甦る……清水義次(都市・建築再生プロデューサー)
中学校をアートセンターに/「現代版家守」という発想/紫波町オガールプロジェクト/小倉家守プロジェクト/リノベーションのコツ/「地方消滅」の大誤解/サステナブルな都市の条件/地域で自立して生きる
第四章 「崩壊学級」でリーダーが育つ……菊池省三(元小学校教師)
教室は社会の縮図/「群れ」の外とのコミュニケーション/学力神話のバカらしさ/「生きる力」をどう育てるか/新たなエリート、「スーパーA」/「高学歴」の落とし穴/「最新学習歴」が大事
第五章 「超高齢社会」は怖くない……水田恵(株式会社ふるさと代表取締役社長)
「ふるさと」をつくる/空き家の活用/「満室経営」というパッケージ/「互助づくり」の最終目標/認知症八〇〇万人時代に/団塊ジュニアが気がかり/どうやって死んでいきたいか/「寅さん」の茶の間
第六章 「参勤交代」で身体性を取り戻す……養老孟司(解剖学者)
新円切替と教科書の墨塗り/少子化現象の謎/子供に寛容な社会/人口減少と国土/「東京」と「脳化」/身体で現実を見る/「現代の参勤交代」/東京にこだわらない
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