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新任警視

古野まほろ/著

2,860円(税込)

発売日:2020/05/27

  • 書籍

公安vs.カルト! 元警察キャリアの知識と体験と想像力が融合した、唯一無二の警察小説(ミステリ)!

二十五歳で県警察本部の公安課長。六十七人の直属の部下たちは、一筋縄ではいかない強者ばかり。しかも、その県には、日本を危機的状況に陥らせるかもしれない「カルト」の総本山があった。いざ赴任! というそのときに飛び込んできたのは、あってはならない殺人事件の知らせだった――。元警察キャリアにしか描けない世界(リアル)が、ここに!

目次
序章 人事異動
第1章 警察庁
第2章 愛予県警察本部
第3章 公安課長
第4章 警備犯罪
第5章 事件検挙
第6章 更迭
第7章 離任
終章 人事異動

書誌情報

読み仮名 シンニンケイシ
装幀 広瀬達郎(新潮社写真部)/写真、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 640ページ
ISBN 978-4-10-332745-5
C-CODE 0093
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 2,860円

書評

またしても新鮮な衝撃

村上貴史

 古野まほろの新作『新任警視』が、またしても新鮮な衝撃を与えてくれる。
 主人公である司馬達は、東大法学部卒のいわゆる警察キャリアであり、わずか二五歳という若さで警視に昇進した。警視としての最初の任務は、東京を離れ、愛予県――瀬戸内海に面した、レトロな温泉街が有名な、蜜柑がおいしい県――における公安課長だった。
 この著者の『新任巡査』(2016年)や『新任刑事』(2017年)をどちらかでも読んだ方はご存じだろうが、この『新任~』という三作品では、その職位での新人の日常が詳細に記されている。その情報量たるや圧倒的。しかも、その描写の説得力も別格である。なにしろ古野まほろは、東大法学部卒の元警察キャリアで警察大学校主任教授まで務めたという経歴の持ち主だ。情報量も説得力も常人離れしているのである。それこそ「古野まほろの『新任~』以前か以後か」という里程標にしたくなるほどに。
 そしていよいよこの『新任警視』では、公安課長がたっぷりと語られることになる。赴任先が告げられる場面から各所への電話挨拶、引っ越し作業、新職場に関する事前のレクチャーなどが続き、新任公安課長として初日を迎えるのは、実に一五六頁になってからというほどの克明さだ。そしてそこには、巡査や刑事と較べて極端に非公然活動の多い公安という部門ならではの新鮮さがあり、また、課長という立場がもたらす新鮮さがある。過去の二作品で読み手を喜ばせたものと同質でありつつ、それらとは全く異なる内容の新たなワクワク感が、二段組み六三七頁のそこかしこにちりばめられているのだ。しかも古野まほろの手に掛かると、公安課長の日々に関する膨大な情報が、不思議とすらすら読み手のなかに入ってくる。何故そうなっているのか、何故そうするのか、が丁寧に語られているからだ。一つ一つの新しい知識が、それこそキラキラしたエピソードとして読者に届けられるのである。嬉しい限りだ。
 そのうえで本書は、強大な敵と戦うというエンターテインメントとしての魅力もしっかりと備えている。愛予県警公安課の相手は、オウム真理教を上回る武装カルト教団〈まもなくかなたの〉、通称MNである。教団員は四万五〇〇人。オウム真理教の三倍である。愛予県を本拠とし、山岳地帯の八万ヘクタールを支配下に置いている。そんな連中との闘いなのだ。しかも、この闘いにはタイムリミットもある。作中の時代設定は西暦1999年であり、MNは、そう、「西暦2000年問題」の混乱に乗じたテロを計画しているらしいのだ。なんとか防がねば……。
 さらに殺人事件の謎がある。司馬の愛予県着任の直前に前任の公安課長が、常識的にはありえない場所、すなわち愛予県警内の一室で殺されたのだ。殺害の手口や被害者から奪われた代物は、MNの犯行であることをくっきりと示していたが、犯人は特定できていない。しかも警察側の事情で、前任者の死を秘匿せねばならず、公然と捜査することもできない。さあ司馬よ、MNとどう闘う?
 かくして司馬はチームを率いてMNと闘っていくわけだが――もちろん克明に詳細に描かれる――ここでさらに新たな魅力が開花する。司馬の成長だ。二五歳の若者が、親ほどの年齢の猛者達を含む約七〇名を率いるという立場にいきなり置かれたなか、いかにして部下の信頼を勝ち得てチームとして機能させるか。司馬がもがきながらも“公安課長”として必死に役目を果たし、指揮官として成長していく様が読み手の心に深く刺さるのである。また、彼の仲間となる現場のプロたちも個性豊かで、ついつい惚れてしまう。「情報」のみならず、「情」でも本書は読者を魅了するのである(司馬の女性問題描写もまた一興)。
 こうして夢中になって頁をめくっていくと、終盤には更に新たな魅力が待っている。知恵対知恵、逆転また逆転、騙し合い、そしていくつもの伏線回収と意外な真相といったミステリとしての刺激があり、覚悟を決めた司馬の人間ドラマの決着と余韻もあるのだ。なんとも密度の濃い一冊である。
 なお、『新任~』の三作品で共通するのは、愛予県という架空の県を舞台に警察の新人を描く点のみ。それぞれが独立した小説である。どれを先に読んでも構わないのだが、三作すべてを読むことをお勧めする。強く、強く。

(むらかみ・たかし 書評家)
波 2020年6月号より
単行本刊行時掲載

インタビュー/対談/エッセイ

見てきた〈ように〉嘘を吐く

古野まほろ

――まずは刊行後の感想を。

「平成30年に脱稿・出版の予定だったが、体調の問題もあり、また作品として難産だったため2年も遅れた。その2年間、本作品はずっと懸案だった。今は燃え尽きている」

――なぜ難産だったのか。

「この〈新任シリーズ〉はいずれも私の実体験を基にしているが、今般の『新任警視』は特にその傾向が強い。そして人は、己の率直な姿と直面したくはないものだ。苦い」

――では、今般の作品が最もリアルだということか。

「ある意味においてそうで、ある意味においてそうでない。これはノンフィクションでも暴露本でもない。小説だ。素材をそのまま並べればよいというものではない。素材を基にお伽噺を書くのが小説。例えばSF。設定がどれだけリアルでも全て空想・架空だ。〈新任シリーズ〉も同様。素材を吟味し、徹底的にリアルな設定を調えるが、調理し終えたモノは全て空想・架空だ。それを明確にするため、このシリーズでは舞台となる都道府県さえ『愛予県』なる架空の県としている。見てきたように嘘を吐いている」

――そうは言っても、緻密さ・リアルさに魅了されたという声は多い。警察の仕事の現実が分かったと。

「それは『実に設定がリアルなSFを楽しめた』ということと同じ。ただSFを通じて現実の科学的知見がふえるのは、読書体験として痛快だろう。私自身もそうである。実際に調理されたモノを通じ、素材の質や鮮度、あるいは個性をも味わっていただけるのなら、嘘吐きとして嬉しい」

――実体験でありお伽噺というところがよく分からない。

「そもそも私は本格ミステリ作家ゆえ、作家として人を無数に殺しているが、それはまさか実体験ではないだろう。ただ私は強行刑事の経験を積ませていただいた。こと死体なら無数に見ている。出会った被疑者の数より見ている。また捜査本部員の経験も捜査本部を指揮した経験もある。人殺しがあると手続的・実務的にどうなるのかも解る。それがお伽噺としての連続殺人だの見立て殺人だの3000人殺しだのに必ず活きる。大嘘を真摯に支えてくれる」

――今般の『新任警視』の特徴を大きく挙げるとすれば。

「シリーズを通じ、設定として最もリアルで、だが小説として最も嘘を吐いていること。公安警察の物語など、実際の、現実の真実でさえ嘘話で神話みたいなものだ。その精密に過ぎる設定と、お伽噺としての『むかしむかし……』の落差が特徴。頷きながら唖然としていただければ」

――公安警察小説としての難しさはあったか。

「私は古巣と円満離婚している。守秘義務違反や誹謗中傷や面白可笑しい暴露など、古巣を裏切る真似はできない。よって『どれだけリアルな桃太郎を書くか』で腕が試された。といって、公安部門は最近また大いに興味を持たれている。手に取る方の御期待も裏切れない。そのバランス」

――特に、何が売りだと思うか。

「生々しいお仕事小説であり、若者の傲慢と成長を見詰める青春小説であり、当然、フェアな謎解き=本格ミステリであること。警察小説として楽しんでいただいてよく、青春小説として苦笑いしていただいてよく、本格ミステリとして謎解きをしていただいてよい。はたまた何も考えず、腕の筋肉を鍛えていただいても導眠剤としていただいてもよい。お客様がよいようにしていただければしあわせだ」

――どこか投げ遣りだが。

「どの作品にも全力投球しているが――性格的に過集中の癖がある――今般の〈新任警視〉ほど臓腑をえぐりながら書いた小説は、デビュー作品以来なので。恥、虚勢、見栄、懐旧、失望、あこがれ。そうした隠しておくべき己が、お伽噺ゆえより強烈に、より色濃く反映される。私という作家そのものを知りたい人がおられるなら、本作品をお読みいただくのが最短ルートだ。そうした意味で燃え尽きている。『鏡を見ながら古傷を書き続けた』からそうなる」

――とはいえ、〈新任シリーズ〉は好評のようだが。

「お陰様で累計10万部を超えた。師匠方に比べれば依然不徳の至りだが、多くのお客様に楽しんでいただけているなら冥利に尽きる。本作品を捧げた、昔の仲間にも言い訳と顔が立つ。病気のこともあり、何の虚勢もハッタリもなく明日死んでよいと考えている私だが、生かされている内は御期待に応えたい。死ぬときはパソコンかゲラの前だ」

(ふるの・まほろ 作家)
波 2020年7月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

古野まほろ

フルノ・マホロ

東京大学法学部卒業。リヨン第三大学法学部修士課程修了。学位授与機構より学士(文学)。警察庁I種警察官として警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務し、警察大学校主任教授にて退官。2007(平成19)年、『天帝のはしたなき果実』で第35回メフィスト賞を受賞し、デビュー。有栖川有栖・綾辻行人両氏に師事。他の著書に『新任巡査』『新任刑事』『新任警視』『オニキス 公爵令嬢刑事 西有栖宮綾子』『R.E.D. 警察庁特殊防犯対策官室』『警察手帳』『警察官白書』『職務質問』などがある。

関連書籍

判型違い(文庫)

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