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信じられないかもしれませんが、これは本当にあった話です。95歳の著者からの渾身のメッセージ。

冥界からの電話

佐藤愛子/著

1,296円(税込)

本の仕様

発売日:2018/11/30

読み仮名 メイカイカラノデンワ
装幀 (C)hudiemm/装画、DigitalVision Vectors/装画、Getty Images/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 182ページ
ISBN 978-4-10-330905-5
C-CODE 0095
ジャンル 文学賞受賞作家、文学賞受賞作家
定価 1,296円
電子書籍 価格 1,037円
電子書籍 配信開始日 2019/05/03

ある日、死んだはずの少女から電話が掛かってきた。数々の超常現象に見舞われてきた著者が、友人の医師から聞いて巻き込まれた不思議な出来事。一体これは何なのだろう……。死は人生の終点ではない。肉体は消滅しても魂は滅びない。死後の世界の真実を伝えたい、著者が実体験から綴る迫真の言葉。

著者プロフィール

佐藤愛子 サトウ・アイコ

1923(大正12)年、大阪市生れ。甲南高等女学校卒。小説家・佐藤紅緑を父に、詩人・サトウハチローを兄に持つ。1950(昭和25)年「文藝首都」同人となり本格的に創作活動を始める。1969(昭和44)年『戦いすんで日が暮れて』で直木賞、1979(昭和54)年『幸福の絵』で女流文学賞、2000(平成12)年『血脈』の完成により菊池寛賞、2015(平成27)年『晩鐘』で紫式部文学賞を受賞。ユーモラスなエッセイにもファンが多く2016(平成28)年『九十歳。何がめでたい』が大ベストセラーとなった。2017(平成29)年、旭日小綬章を受章。

書評

「知ってしまった者」の責任

梯久美子

 あの愛子先生が、ノンフィクションを書いた! ――読み始めてすぐにそう気づき、長年の読者である私の胸は高鳴った。文体からして、これまでの作品とは違っている。主語は「私」ではなく「筆者」。ユーモアも、世の中への怒りも封印し、ひたすら真摯に、冷静に、事実を追いかけていく。しかもその事実というのが、「あの世」から電話がかかってくるという、異様な出来事なのだ。
 その不思議な経験をするのは、愛子先生の古くからの友人である高林医師。市の教育委員会から依頼され、高校生を対象に講演をした高林医師は、終了後、高校三年生の女子生徒から手紙を受け取る。高林医師の話を聞いて感動したという内容だった。これをきっかけに、ひふみという名のその少女と高林医師は、ときおり電話で話すようになる。
 進路を変更して医師を目指すことにしたひふみは、猛勉強の甲斐あって医学部に合格し、入学祝いのために二人は初めて会うことになった。だが当日、高林医師がいくら待っても待ち合わせの場所に彼女は現れない。そして後日、兄を名乗る人物から電話があり、彼女が交通事故で亡くなったことを知らされる。
 ひふみの兄からはその後も電話がかかってきた。三度目の電話の最中、バチーッと木の裂けるような鋭い音がして、部屋の照明が消える。そして兄の声が途絶え、高林医師が、もしもし、と呼んで応答を待っていると、突然、ひふみの声が聞こえてくるのである――。
 愛子先生には、自らが遭遇した霊的体験を綴った『私の遺言』という著書がある。五十一歳のときに建てた北海道の山荘で、数々の超常現象に悩まされる話である。美輪明宏さんに相談に乗ってもらったのをきっかけに、さまざまな霊能者と出会い、佐藤家の先祖とアイヌとのかかわりを教えられる。そして自分が山荘を建てたのは、かつてアイヌの人々の棲処であった土地だと知る。
 愛子先生は、アイヌの人々の大切な土地を切り崩して家を建ててしまった自分が彼らの恨みと憤りを受けるのは仕方がないことだと考え、それを正面から受け止めようとする。そして、理不尽な目に遭って死んでいった彼らの霊を何とか鎮めようと大奮闘、まさに東奔西走するのである。何と三十年間にわたって! 私はこの本を読んだとき、心底、愛子先生を尊敬した。なんという真面目さとひたむきさだろう。
 その過程で愛子先生は、それまで、神もヘッタクレもあるかいな、と、自分の力だけを恃んで生きてきたことを顧みる。そして、人知の及ばぬ世界に目を開かされるのである。
 本書『冥界からの電話』の高林医師は、超常現象に苦しんでいた愛子先生の相談に乗り、長年にわたって支えてくれた人だった。死者からの電話という話を打ち明けられたとき、愛子先生がそれを信じたのは、高林医師が嘘をつくような人ではないと知っていたからだ。
 荒唐無稽と受け取られかねない話であるからこそ、愛子先生は慎重に筆を運ぶ。「筆者」という一人称からも、抑えた筆致からも、読者を誘導してしまわないようにとの配慮が見える。その静かな語りにみちびかれ、私は息をつめて、この不思議な出来事のなりゆきを追いかけることになった。はたして電話は事実か。何か裏があるのか――。頭の中にいくつもの「?」を浮かべながら、ページをめくる手がどんどん速くなっていく。
 最終ページを読み終えたあとに私が達した結論は、ここには書かないでおくが、ノンフィクションの書き手として、しみじみと思ったことがひとつある。それは、「知ってしまった者」の責任ということだ。
 誰かに話を聞かせてもらい、そこに、世に問うべき事実があったとき。その事実を、ほかならぬ自分が託され、自分が書かなければ世に出ないものであったとき。そこには、書くべき責任が生じる。愛子先生が、本書を書いたのもまた、その責任を果たすためではなかったかと思うのである。

(かけはし・くみこ 作家)
波 2019年1月号より
単行本刊行時掲載

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