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銀河を渡る―全エッセイ―

沢木耕太郎/著

1,980円(税込)

発売日:2018/09/27

書誌情報

読み仮名 ギンガヲワタルゼンエッセイ
装幀 レオナール・フジタ(藤田嗣治)『放浪者』ポーラ美術館蔵/装画、ポーラ美術館:画像提供、DNPartcom/画像提供、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 462ページ
ISBN 978-4-10-327519-0
C-CODE 0095
ジャンル エッセー・随筆
定価 1,980円
電子書籍 価格 1,584円
電子書籍 配信開始日 2019/03/01

『檀』『凍』から『キャパの十字架』まで。好奇心を全開に「旅」し続けた25年を束ねる、全エッセイ。

『深夜特急』の終わりで迷った末に訪れなかった「夢の都市」モロッコのマラケシュへの旅、『一瞬の夏』から始まった新たな「物語」を生きる若きボクサーへの夢、「深い海の底」に旅立った高倉健へ贈る最後のメッセージ。まるで銀河のように無数の人や場所と、出会い、別れた25年間。移動する精神の輝きを綴る、エッセイの精髄。

目次
第一部 鏡としての旅人 ✽歩く
ペルノーの一滴
買物ブギ
トランジット・ゾーン
カジノ・デイズ
ボード・ウォークの海風
マカオの花火
神様のプレゼント
セントラルパークで
骸骨になる前に
七一一号室の彼女
エリザベートの鏡
桃源郷
心を残して、モロッコ
ニューヨーク・ニューヨーク
鏡としての旅人
ロサンゼルスのミッキー・ローク
心は折れるか
足跡――残す旅と辿る旅
第二部 過ぎた季節 ✽見る
少年ジョー、青年ジョー
「石」の並びの物語
彼のロミオ
その問いの前で
芸を磨く
レニの記憶
過ぎた季節
たとえ高望みだとしても
銀座の二人
拳の記憶

アテネの光
「精神力」の一歩手前で
マルーシ通信
アテネの失冠
第三部 キャラヴァンは進む ✽書く
檀の響き
ハイパントは謳えるか
私のリターン・マッチ
すべて眼に見えるように
白鬚橋から
「角度」について
失われた古書店
ささやかだけど甘やかな
司馬さんからの贈り物
キャラヴァンは進む
「夏」から「春」へ
母港として
彼の言葉

短文の練習、さらに

岐路
一本の電話
完璧な瞬間を求めて
第四部 いのちの記憶 ✽暮らす
勝負あり
まだ、諦めない
教訓は何もない
あの春の夜の
三枚の記念写真
いのちの記憶
すべてを自分たちの手で
新聞記者になった日
この季節の小さな楽しみ
ありきたりのひとこと
小さな光
四十一人目の盗賊
天邪鬼
スランプってさあ、と少年は言った
地獄の一丁目
「お」のない「もてなし」
秋の果実
傘がある
欲望について
第五部 深い海の底に ✽別れる
冬のひばり
熱を浴びる
最初の人
ふもとの楽しみ
与えるだけで
極楽とんぼ
美しい人生
深い海の底に
供花として
銀河を渡る――あとがき

書評

踏切の一瞬

北野新太

 将来の夢は、と問われて何も答えられなかった中学二年の頃、沢木耕太郎さんの『一瞬の夏』を読み、初めて何かと出会えたような気がした。誰かと会い、話を聞き、書くこと。自分もそんなふうに生きることが出来たら、と漠然と考えるようになった。
 大学三年になり、間接的、断片的にでも沢木さんの仕事に関わりたいと思った。アルバイトとして雑誌「SWITCH」の編集部に入り、日夜働くようになった。
 今にして思うと信じ難いことだが、現像された写真を届けたり、原稿を受け取ったりという役回りで沢木さんと会う機会にも恵まれた。
 目の前に沢木耕太郎がいる、という体験は凡庸な学生にとって革命だった。生きることの不思議さ、面白さ、可能性を信じる上での立脚点になった。
 新聞記者になって十六年。三十八歳の「余儀ない旅」を強いられる自分にとって、今、本稿を書いている瞬間も、世界のどこかで「夢見た旅」を続ける人の鼓動を想像することは励ましであり、どこか支えでもある。

 十五年間も待ち望んだ一冊である。1982年の『路上の視野』、1993年の『象が空を』。過去十年を編む全エッセイ集の第三の続編を2003年から待っている間に、四半世紀を括る書物になっていた。沢木さんらしい企みとも思える。
 色川武大を悼むためにマカオでバカラのテーブルに座る。衆院議長公邸で旧友と会う。残してきた心を取り戻すためにマラケシュへと向かう。金メダルを得た直後の野口みずきに高橋尚子について聞く。モハメッド・アリの拳を眼前で見つめる。冬の夜の帰路で今川焼を頬張る。自前の御伽話で寝かしつけていた娘から、長い時を経た後でモーニングコールを頼まれる。ハワイで完璧な休日を過ごす――。
 旅する地球の広さという横軸に、二十五年分も積まれた歳月という縦軸が交差し、沢木耕太郎の世界は拡大し続けている。移動する視線と肉体による守備範囲は無限で、一介の記者である私について書かれた一編すら存在する。当時二十六歳の若造が犯した痛恨の失敗を沢木さんは救ってくれた。大胆にも程がある私の依頼を優しく受け入れることによって。
 高倉健らへの惜別の終章「深い海の底に」は永い余韻を残す。幼馴染であり、あの『一瞬の夏』を並走したカメラマンである内藤利朗さんへの弔辞には、生きる上で極めて大切なことが綴られていると思う。

 本書のタイトルを聞いて、思い出した光景がある。
 2005年夏の夜、東京・自由が丘の路上でのこと。同年二月に出版された写文集『カシアス』の刊行を祝う食事会が終わった後、沢木さん、内藤利朗さん、担当編集者であるSWITCH編集長の新井敏記さん、アシスタントやセールスで携わった数名の女性編集者、さらには無関係のはずの私で駅向こうのバーに向かって歩いていた。
 踏切の警報音が鳴る。まだ線路まで微妙な距離が残されている。十人いたら八人はステイを選択する局面だったが、沢木さんは背後を振り返り、我々に「走ろう」と告げた。
 微かなワインの酔いの中で、それぞれに走った。沢木さんも、内藤さんも、新井さんも、そして私も。
 踏切を渡り終えた後で、少し息を切らした女性編集者は「も~! 沢木さん!」と笑いながら言った。みんな声を上げて笑った。行動する彼は悪戯好きの少年のような表情を浮かべていた。
 何気ない一瞬だったが、私の心はなぜか震えていた。今、俺の目の前にいる人に憧れて俺は歩み始め、憧れながらこれからも歩み続けていくんだな、と。前を行く背中を追いながら、ずっと考えていた。
 今も鮮明な映像が浮かぶ。踏切へと駆け出した沢木さんの足取りは、急ぎもせず焦りもしていなかった。大丈夫だよ、平気だよ、とでも伝えるように。悠々として力感のない、銀河を渡るようなステップだった。

(きたの・あらた 報知新聞記者)
波 2018年10月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

沢木耕太郎

サワキ・コウタロウ

1947年、東京生れ。横浜国大卒業。ほどなくルポライターとして出発し、鮮烈な感性と斬新な文体で注目を集める。『若き実力者たち』『敗れざる者たち』等を発表した後、1979年、『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、1982年に『一瞬の夏』で新田次郎文学賞、1985年に『バーボン・ストリート』で講談社エッセイ賞を受賞。1986年から刊行が始まった『深夜特急』三部作では、1993年、JTB紀行文学賞を受賞した。ノンフィクションの新たな可能性を追求し続け、1995年、檀一雄未亡人の一人称話法に徹した『檀』を発表、2000年には初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行している。2006年に『凍』で講談社ノンフィクション賞を、2014年に『キャパの十字架』で司馬遼太郎賞を受賞。近年は長編小説『波の音が消えるまで』『春に散る』を刊行。ノンフィクション分野の仕事の集大成として「沢木耕太郎ノンフィクション」が刊行されている。

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